第6話 ゲーム実況、やってみた! Bパート

「あーん、また負けたぁ! テンちゃん強すぎるよぉ!」


「そりゃそうだ。何年このゲームやってると思ってんだ」


 実際、魔法学校に入学してからほぼ毎日遊んでいたっけ。


 負けて勝ってが楽しくて、同期や先輩や後輩や教師を相手に挑みまくって、気がついたら学生チャンピオンにまで登り詰めていた。


「でも、前に比べて随分上達してると思うぜ。ハナは勇者だから魔力の蓄積量もハンパないし、すぐに俺を超えられるって」


「絶対に嘘だよ~!」


 半べそ状態でエーテルスライムのウサギ(?)を愛でるハナ。


 実際、抜かれる日は近いかもしれない。なんたってハナは勇者だ。精霊の加護ブーストのおかげで魔力の貯蔵量は常人の数十倍。


 頑張り屋な性格だから、スライムの操作も日に日に上手くなっている。おそらく魔法学校の一般生徒なら軽く倒せる腕にはなっているはずだ。


「本当にこんなの動画にして、視聴者さん楽しんでくれるのかなぁ? 下手っぴな私のゲームなんて、誰も楽しんでくれないんじゃない?」


「そんな事はないぞ、ほら」


 俺はステータス画面を呼び出して、動画に寄せられたコメントを見せる。


 そこには「もっと相手をよく見ろ」だの「ソフトタッチで魔力を使え」だの「俺の寿命がストレスでマッハ」だの、上から目線の上級者様コメントばかり寄せられていた。


「うー……色々言われてるよぉ」


「言われてるって事は、つまり多くの人が期待してるって事だ。ここから上達する姿が見たいんだよ、視聴者は」


 人気がある“勇通部”の勇者に共通する点として“ツッコミどころ”がある。

 誰が見ても完璧な勇者は、それはそれで頼もしいが、少し抜けているような、見守りたいと思わせるような勇者の方が再生数は上がるのだ。


 そういう意味では、ハナには勇者の素質がありまくりだ。


「テンちゃんは魔法学校時代、どうやって練習してたの?」


「そりゃ実戦だよ。魔法学校の生徒とも戦ったし、ゴーレムを操って魔物を討伐した事もあった。自分以外の誰かを相手にするのって、とても大事なんだぜ」


「へぇ……真面目な生徒さんだったんだねぇ」


 真面目どころか、死にものぐるいで勉強したんだよ。


 勇者の供をして魔王討伐の旅に出る“勇通部”のスタッフが無能ではどうしようもないだろう。世界樹を守護する“天導騎士”よりも厳しい試練をパスしなければ入れない組織なんだ。


 その試練に最短でパスするためには、魔法学校で主席どころの資格じゃ足りない。実戦でもっと実績を出さなきゃ受験資格すら得られない。


 今、ここで、お前とこうしているために、俺は――


「いつかテンちゃんに勝てるように頑張ろうね、ウサギさん」


『めー』


 ウサギ(?)が喋った!?


「なんだそれハナ!?」


「えー、魔法で喋れるようにしたんだよ。ほら、聴いて聴いて」


『今のがリアルでなくて良かったな。リアルだったらお前は死んでいるぞ』


 ちゃんと喋ってる!


「なんだその魔法技術……どうやってんだ……!?」


「テンちゃんはできないの?」


「いや、そもそも戦わせるためのスライムだから、喋らせようって発想が……。ハナ、お前のそういうところ、すごいと思うわ」


 素直に賞賛する。


 不定形のスライムを動かしたり変形させる事は簡単だが、声帯を作って人語を喋らせるって、人体の構造的にめちゃくちゃ難しい事なんだぞ。


 そういうセンスはズバ抜けてるんだよなぁ……。


「ハナのセンス……あるんだかないんだか」


「なんでよー! そこは“ある”って断言してよテンちゃん!」


「いや、そのウサギ――なのかな――の、形を見ているとな」


「なんでー? 可愛いじゃん!」


 魔法のセンスと造形のセンスは別物だから仕方ないとはいえ、もう少しなんとかならなかったのか。


「いいかハナ、ゴーレム造りにも言える事だが、デザインの基本は観察だ。対象をよく見て、構造を理解し、丁寧に再現するのが大切なんだ」


「うーん、ウサギさん、よく見てるつもりなんだけどなぁ……あれ?」


「どした」


「観察が大事って言ってたよね? テンちゃんのそれ――」


 俺が作ったミニチュアサイズのハナを見る。


 顔、体型、動きに至るまで完璧にハナを再現した――つもり――


 つまり、それだけハナを――


「……いや、このくらい誰だって作れるから」


「ねぇテンちゃん、このちっちゃい私、私よりキレイじゃない?」


「そんな事はないっ!」


                       *


 今日の修行を終え、旅を続けていると、やがて次の町が見えてきた。


 この大陸は年中穏やかな気候で、地方によって色とりどりの景色が見られるので、とても動画に合っている。魔王城の近くになると、途端におどろおどろしい光景になるので、今のうちに良い景色を撮りだめしておこう。


「テンちゃん、見て見て! 町だよ!」


 城壁に囲まれた町。遠目に塔のようなものが見える。


「明日はあの塔の近くで撮影してみるか」


「町中でも撮影するの……? 色んな人に見られないかな? ていうか邪魔にならないかな?」


「そこは許可をきちんと取って――ん?」


 徒歩で旅をしている俺達の脇を、馬車が通り過ぎてゆく。


 ――と思ったら、馬がいなないて馬車が停まった。幌をくぐって荷台から降りてきた人が、こちらに手を振って走ってくる。


「すいませーん! おーい!」


 俺より少し年上の若者。男性だ。細身だがしっかりと武装している。


「もしかして、勇者アマリリスさんですか?」


「は、はいっ、そ、そうです!」


 緊張してお辞儀するハナ。


 もしかしてファン――かと思いきや、


「ウチらも勇者やってるんですよ! “勇通部”で配信してるんです!」


「あ、そうなんですか?」


「おーい、来いよ! 勇者アマリリスさんだぞ!」


 男が手を振ると、馬車の荷台からまたひとり降りてくる。


 周囲をキョロキョロ見ながらこちらに歩いてくるのは――女性の勇者。


 ハナと同い年くらいだろうか? しきりに周りを気にしている。


 伏し目がちの表情。ボブカットの切り揃えられた髪。少し垂れ目の面持ち。ハナほどではないが、可愛い勇者だと思う。


 問題は、その装備だ。


 前にマグマの海でハナに着せたビキニアーマーよりも、さらに露出が高い鎧だ。


 もはや乳首の先端と股間くらいしか隠れていない。ハナよりも大きな胸と尻。やや褐色の肌が夕日に照りつけられて反射している。


 撮影時でもないのに、こんな、いや、撮影にしたってちょっと露出度が高すぎないか?


 この子……。


「あ、あの、こんにちは、初めまして。私、勇者スノードロップといいます」


 おずおずと差し出された手。


「は、初めまして! 私、勇者アマリリスです! こうして生で他の勇者と会うのは初めてです! あの、よろしくお願いしますっ!」


 お互いに手を取り合う勇者たち。


「あの、いいですか? あなたも“勇通部”のスタッフですよね? 俺、エルドラドって言います。よろしくお願いしますね」


 男の方に話しかけられる俺。


「ど、どうも……テンジクです。お互い大変ですね」


「いやいや……あ、後で他のスタッフも紹介しますね。って、アレ、テンジクさんの他はどちらに……?」


「あ、俺ひとりです。ウチはそういう感じなんで」


「ひとり……? 撮影から編集から送信まで、ひとりで……?」


「その方が効率いいんですよ」


「……………………」


 こう答えると、だいたいそんな顔をされる。信じていないか、信じた上で驚かれるかのどちらかだ。


 ハナを撮るのは俺ひとりで充分だ。他の奴になんかやらせるものか。


「あの、エルドラドさん?」


「テンジクさんって、もしかして“エル・サイド魔法学校”の……? あの世界最高峰の魔法学校って言われてる、あの学校を最年少で首席卒業したっていう……」


「はぁ、まぁ」


「……あの、テンジクさん、折り入ってお願いが!」


「な、なんですか!?」


「ウチのスノードロップと“コラボ”してくれませんかっ!?」

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