悪役令嬢にクズ扱いされた、魔力ほぼない姉に転生しました

四宮あか

第1話 私がこうなった理由

 年越し番組もひと段落し、神社の参拝客のピークも過ぎた3時過ぎが我が家の初詣に行く時間なのである。


 参道は毎年のことながら、この時間帯は人もまばらだ。

 新年ということもあり、神社はどことなく、厳かな雰囲気さえ感じ、帰省してきてからずっと猫背でゲームをプレイしていた背中も今ばかりはピーンと伸びている気さえする。


 とにかく、この時間帯がいつもお参りする時間でよかった。

 中・高校の知ってる同級生はもう就職活動をとっくに終えていて、まだ決まっていない私はどことなく後ろめたさがあり、かつての同級生達に絶対ぜったーーーーーーい会いたくなかったんだもの。


 母はというと、私が帰ってきてからというもの、就職が決まらないなんてちゃんと就職活動してるの? というお叱り半分、何とかなるわよと慰め半分で触れてほしくない、就職活動の話題をしょっちゅうだしてくる………。


 それどころか、会話のところどころに、今一番聞きたくない、同級生はどうなってるかの話を盛り込んできて、地味にHPが削られていたのだ。

 ○○ちゃんはあそこに決まっただの、○○ちゃんは彼氏さんと来年結婚だの、はてはあんたはあんまり仲良くなかったけれど○○ちゃん、2つ上の先輩とでき婚だってとか。なぜ、あんまり仲良くなかった子の話題まで今したわけ? と思うようなことまで。



 とにかくとにかく、こっちがきいてもいないのに、これまであえて聞かなかった情報を、ふっとした会話にいれてくるいれてくる。

 帰省1日目で音を上げた私は、自室にこもり、どうせならまだ完全クリアしてない鬼畜と評判の乙女ゲーの攻略にいそしんでいたのである。



 ゲームは自由性が高い分面白い。

 公式の設定盛り込みすぎて攻略本とてもじゃないけれど、出せそうにない発表には笑った。

 とにもかくにも、攻略させる気ないだろう……のただ一言。

 ライバルキャラクターがいるまではいいけれど、悪役令嬢であるマリア・フォン・コーネリアスに至っては、魔力が低いやつに何の恨みがあるんだよ……ってくらい絡む絡む絡む。

 ライバルキャラではないはずの攻略にいたっても、しゃしゃり出てきて邪魔してフラグをぶった切る始末。どうにかこうにか、攻略に必須だと思われるイベントだけ起こすことに成功したのか3人はクリアまでたどり着けたけれど……。

 マリアのおかげでそのクリアもゲームオーバーになりまくってのやっと状態である。



 魔力が国で1番強いといわれる次期国王候補、マリアの婚約者である第二王子 金髪碧眼のイケメン ジュリアス。

 マリアの鉄壁のガードによりろくにイベントすら起こせていません。


 母親が死んでしまったことで心を閉ざした獣人 獣耳がたまらず、黒髪イケメン クロード。

 母親が死んだことで、魔力が強いにも関わらず養子にだされる不幸な身の上で養子に出された後は、自分の居場所を作るため必死に勉学に励んでるくらいしかわからない。


 この二人に至っては、ほぼ謎のヴェールに包まれている。





「あんたもゲームばっかしてないで、まだ就職決まってないんだから、ちゃんと就職決まりますようにってお願いしとくのよ!」

 母親の念押しに新年早々ウンザリとした気持ちになった。


 もっと子供のときから頑張ればよかった。そうすれば、就職活動こんなに苦労していなかったかも。

 新年早々母親のせいで……まぁ、自業自得なんだけれど暗い気持ちになる。



 神様、子供のころに戻れたら今度はまじめに勉強して頑張ります。


 もう1回チャンスください。

 なんて願ってみたけれど、これは叶わないだろう。

 なら正月くらいは気持ちよく過ごしたい、お母さんの就職のことや同級生の話しもうききたくない、そしてうきどきラビリンス


『その願いかなえてしんぜよう。』

 うきどきラビリンス攻略できますように、就職決まりますようにと願う前に、突然聞こえた声。

 某乙女ゲーでお正月に攻略対称と初詣でお参りしたら聞こえるあれみたいだった……とほんのり思った。



 後ろを振り返り家族に今変な声聞こえなかった?と言おうとした私は、見知らぬ部屋に立っていた。

「……ここはどこ?」

 私の視線はかなり低い。

 家具も随分と私よりも大きいように思える。

 視線を落としてみた私の手は小さい子供の手だった。

「えっ?」

 驚いたとき視界の端にとらえた、さらりと流れた長い髪はスミレ色。

 引っ張ってみると痛くて、間違いなく私の頭皮からこの髪は生えている。


 なんじゃこりゃぁあ!!


 夢?→でも、さっき髪を引っ張ったらいたかった。

 初詣はどうなった?→ここは明らかに神社ではない。 

 家族は?→ここには自分一人しかいないようだ……。

 ここはどこ?→窓から見える景色に見覚えなし。

 そして、明らかに私の体が変だ。


 自分の部屋とは大違い、広いし、家具は高そう、漫画の本の1冊すら落ちてないこの部屋。

 部屋の隅に姿鏡をみつけた私はそこに急いで向かう。


 鏡には、スミレ色の瞳、スミレ色の髪のそこそこ整ったお顔立ちのお嬢ちゃんがいた。

 手をゆっくりと動かすとそれに合わせて鏡の中の自分物も動く……。

誰だこれ…………。

 それなりにあった、乳すらもペタンコであるけど、問題はそこではない。


 ここはどこなの? どうなってるの?

 わけがわからず、顔を触ったり、意味もなくその場をうろうろしてしまう。

「アイリス様、鏡の前をうろうろされてどういたしましたか?」

 にっこりと私に微笑んでくる、茶色の髪でそばかすがある女性……。

 この人は私のことを知ってるようだけれど、誰だろう、困った……。


「なんでもないわ」

 とりあえず、ごまかしてみる。

 状況を整理する時間がほしい、夢なのかもしれないし、変なことでも言って大問題になると困る。


「たくさん眠られたようですね、もうお茶の時間です。準備いたしますね」

メイドらしき女性はそういって部屋を出ていった。


 様とつけて呼ばれることから、私はこのメイドが使えている人物のうちの一人ではあるだろう。

 家具はどれも高そうだし、椅子をもってきてかなりしっかりと覗いた窓からの景色は身に覚えがない。

 とりあえず、いいところのお嬢さんのようだわ私。

 鏡に映るお子様はそう思ってみると、可愛らしいだけではなくどことなく気品のようなものを感じるような気もする。



 記憶の最後に聞こえた言葉。


『その願いかなえてしんぜよう』


 がグルグルと頭を回る。

 確かに、子供のころに戻れたら……とかなんとか願った。

 しかしここはどこで、私はいったい誰なのか。

 ステータスとか見れたら一発でわかるのに……とまさにゲーム脳なことを考えてしまうとPOPUPがでた。



 アイリス・フォン・コーネリアス

 4歳

 HP35/40

 MP3/3

 職業 公爵令嬢

 称号 願いが叶えられた者


 アイリスという名前に見覚えはないけれど。

 フォン・コーネリアスには心当たりがほんのりある……。

 そうであって、ほしいような、そうであったら困るような。

 私の恋をことごとく邪魔しに来た、金髪碧眼、ふんわり巻き髪の気の強そうな女の子のスチルが浮かんでくる。



 その時扉がノックされメイドがお茶の準備の道具をカートで押して入ってくる。

「今日は、領内でとれたはちみつが献上されましたので、砂糖の代わりにこちらを紅茶にいれてご用意しますね」

 メイドはニコニコと準備を始める。

 私ははちみつを見つめた。


「そのはちみつは……くまくまバチのですか?」

 くまくまバチってなんですか? とか、おままごとのつもりですか? とかそう言ってほしかったのだ。


「そうですよ、よくお分かりになりましたね。我が領内でだけとれるとても貴重なはちみつなんですよ。香りでお分かりになりましたか~」

 くまくまバチのはちみつは希少性の高い高価なものである。

 クマに蜂の羽が生えたファンタジーな見た目であるが、そこはクマ、命の危険すら伴う、はちみつ採取のクエスト報酬である。

『我が領内でとれた貴重なはちみつをいただけてよかったですわね。あなたにはその違いがわからないでしょうけれど』

 マリア・フォン・コーネリアスはそういってヒロインに嫌みをいったのだ。



 私のMPは3…………。

 HPが40あるってことを考えるとMP明らかに低い。

 そして、ヒロインをいじめるマリア・フォン・コーネリアスは決まってこういうのだ。

『あのクズのように魔力の低い者が我が物顔で歩いているのを見るとイライラしますの』と。



 とても甘い匂いが部屋にただよい、紅茶はとてもおいしく私は思わずおかわりまでしてしまった。

 そして、私は意を決してきいたのだ。

「マリア……って「大丈夫でございます。お耳に入ってしまったのですね。養子をとるなんてことありえませんよ。お嬢さまが心配されることではありません。フランにおまかせくださいませ」

 フランとさり気に名前をいったメイドはあわてて私を部屋に一人残して出ていってしまった。




 私のMPは3……何回も言うけれど3。1、2、3の3だ。

 我が物顔であるく魔力の低い者それって…………………………今の私じゃない?

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