03



 行きついた場所は優しい世界だった


 暖かい生活

 穏やかな日々


 不便のない生活だった


 与えられたものばかりで

 見渡せばそこら中に幸福の転がっているその世界に 私は戸惑った


「ここは天国かもしれない。だってこんな世界が現実にあるわけない」


 慰めに抱いた幻想が与えてくれた優しさだと思った

 手を伸ばして触れてしまえば 儚く消えてしまうもの


 見つめているだけで 満足

 ただ遠くから眺めているだけで


 どんなに待ち望んだものでも

 心から喜べない

 笑って受け入れてしまえば……

 残酷に そっぽを向かれてしまうものだと

 今まで生きて来た世界が そう語っていたから


「ここは天国なんかじゃないよ。本当の世界」


「今まで貴方が見ていた世界は、ただの一部分でしかないのよ」


「これも、それも、ただの世界の一部。特別なものなんかじゃないわ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る