仮想人生
@kubota63
序章
今まさに前代未聞の大がかりな実験が実施されようとしていた。
世界の平和のために。そして人間という謎のベールに包まれた未知の存在の解明のために。
МR2047ら三体のアンドロイドたちは頭部に数十本の電極チューブを取り付けられプレーンネットをかぶせられストレッチャーに寝かされていた。МR2047は広い実験室の天井を見つめながらこれより自分が体験する未知の冒険に少しばかりの期待と大きな不安を抱いていた。こんな気持ちは今までに経験したことのない 不思議なものだった。
彼は横のストレッチャーに寝かされているМR2058とМR2088に話かける。
「今、どんな気持ちだ?」
「何か妙な気分だな」2058が答える。
「これが恐怖という感情か?」2088が問いかける。
「わからないな。人間の気持ちなんて・・・でも大げさに捕えることはない。所詮下等な生き物よ」彼はさらりと答えた。
その時すでに彼らは人間の脳波とのリンクを開始していたのだった。
やがて彼の意識は薄れていった。実験室に設置されているコンピューターの三色に点滅する眩しい光が頭に焼き付く。これより長い旅に出る。そう認識していた。
ガラス越しに隣の部屋から実験を観察していた総司令官МR3033はМR3077に確認する。
「これでジュラ計画は順調にスタートを切ったわけだ。バッポーの人格形成は間違いないな?」
「はい、打ち合わせで決定された通りの人物に仕上がっております」
「そうか、これでどのような結果が導かれるかでこの世界の未来が変わるかもしれない」
МR3033は実験台となり横たわる三体のアンドロイドたちをじっと見つめた。その眼差しは何かに大いなる期待を抱いているようにも見えた。
МR2047は深い眠りに引き込まれていった。そして彼は潜在意識の中で思考を繰り返していた。
人間という下等で野蛮で自分勝手な生き物について。こいつらにいったいどれ程の価値があるというのか。こんな大がかりな実験を実施する必要性がほんとうにあるのか。心から納得などとても出来ないでいたのだ。
やがて彼の頭の中に渦巻いていた数多の雑念がライトをひとつづつ消していくように取り払われていった。
気持ちが穏やかに落ち着いてくる。そして彼は体が時間の流れに逆行し濁流のように突き進んでいくのが理解出来た。いったいこれからどこに向かう? 不安は全く感じなかった。只、このままこの流れに身を任せていたかった。
そして彼は進む先に微かな光を見た。
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