見舞い

痩せ細り

ようやく呼吸をしているような

あなたの寝顔に胸が詰まった


帰りたいなら連れ帰ろうか

死にに帰るのだと、言ったのだから

家で死ぬのが本望だろう


そう思っても出来ないのだ

心の何処かで願ってしまう

病院ならばまだ生きられる、と……


延命はしないと誓っていた

管に繋いで永らえても辛いと

身内の死で知っていたから


事切れようとしているあなたを

ただ見舞い、ただ励ます

意味ないことと心で泣きつつ


「母さん、頼む」と、不意に言った。

真剣な眼で私を見詰めて

すがるように呟いた


父さんが面倒みるんでしょ

長生きすると言ってたじゃない

震える声で答えれば


何度も、何度も、小さく頷き

疲れたように目を閉じた

もう体力など残っていない


いつ逝ってもおかしくないのだ


それでも命を燃やしている

やり残した夢をうつうつと見ながら

生きたいと願っている父を


私は心に焼きつける

白く悲しい病室で






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