こちらアミメ探偵事務所――消えたセルリアン?!事件――

てるてる

導入編①――こちらアミメ探偵事務所

「あ、先生おはようございます!」


 部屋のドアが開くなり、椅子から立ち上がったアミメキリンの大きな声が部屋に響き渡る。時刻は早朝、まだどこか薄暗い窓の外を払拭するような威勢のいい声に、タイリクオオカミは微笑みながら頷き返した。


「やあおはよう。今日はまたいつもよりずいぶん早いね」

「はい! だって今日はいよいよアレが届く日ですからね! ワクワクしちゃって眠れませんでした」

「だからってずっと起きてたんじゃ身が持たないよ。なんならちょっと横になって来るかい?」

「いえっ、キリンはもともとそんなに寝ない子ばっかりなんで。大丈夫ですっ」


 そう言ったアミメキリンの表情はキラキラと期待に溢れており、まさに早起きの眠気とは無縁といった様子だった。

 そんないい顔を見せてくれるアミメキリンに笑いかけながら、タイリクオオカミは自分の席についた。アミメキリンと向かい合うような形で設えられた二つの無骨な机。アリツカゲラに依頼してロッジの奥から引っ張り出してもらったそれは俗に”おふぃすですく”と呼ばれる代物で、引出しが多くて便利なものだった。「ロッジのやさしい雰囲気に合わないから」と仕舞いこまれていたのがもったいないくらいだった。

 早速机の引き出しから原稿と筆記具を取り出したタイリクオオカミに、アミメキリンが短い声を漏らす。


「あっ、ギロギロの最新作ですか」

「ああ。といってもまだ下書きすらできてないんだけどね。作家の性かな。いつも手元に置いておかないと落ち着かなくてね」

「わかります先生! その気持ち、とってもわかります! 私も”これ”を始めてから、ここにいないと落ち着かないんですよ」

「差し詰め、君のは探偵の性ってところかな」

「まだまだ半人前ですけどね。でも、そのうち必ずギロギロを超える名探偵になってみせます!」

「そうなったらぜひ君を主人公に話を作りたいな。ホラー探偵アミメキリン。なかなかいいんじゃないか」

「うぅー。ホラーなのはちょっと嫌かも……」


 自信満々な様子から一転。いい顔で怖がるアミメキリンに、タイリクオオカミは吹き出した。それを見てアミメキリンもまた笑う。顔を突き合わせ、二人は笑った。

 「探偵になってみないか」最初に話を持ちかけたのはタイリクオオカミの方だった。例の黒セルリアンを打ち倒してから数日、ロッジを離れて島中から集まったフレンズたちと交流する機会があった。遠い場所からやってきた者や、名前も知らないような者。そんなフレンズたちと出会ううち、自分の知らない事がまだまだたくさんあると思い知った。

 いろんなことを知り、自身の手がける漫画に新しい風を吹き込みたい。そう思うようになり、思いついたのが”探偵”という職業だった。

 いろんな場所で様々なフレンズと出会うことができる。普段できないような話をすることもできる。自身の手がける作品の題材にも使ってるだけに、まさにピッタリだった。

 はじめは自分一人でやろうと思っていた。単独で生きる機会も多いオオカミは性質上、一人でいることは嫌いではない。

 だが、身近なところに一人、探偵に憧れている子がいる。勢いと熱意だけなら誰にも負けないその子の方が探偵には適役だろう。それでアミメキリンに声を掛けたのだ。あのときの嬉しそうないい顔は今でも覚えてる。

 探偵といっても今の所、一日決まった時間にアミメキリンと集まって、他愛のないおしゃべりをするだけ。ときどき暇を持て余したアリツカゲラも交えて三人でお茶をする以外、特にすることはない。

 それでも誰かと一緒にいるのは刺激になったし、意見を交換しながら物語に打ち込めるのはとても楽しかった。

 思い思いに暇を潰しているときだった。ノックの音に我に返ってみると、早くも太陽は中天に差し掛かっている。


「はーい?」


 自分の机でウトウトしていた――何だかんだ言っても、寝不足なようだった――アミメキリンが寝ぼけ声で応答する。


「アリツカゲラです。お二人にお客さんですよ」

「お客さん……、お客さん?!」


 弾かれたようにアミメキリンは飛び起きると、ドアの方へ駆け寄った。突き破らんとする勢いでドアを開け放つ。驚いて飛び退くアリツカゲラを尻目に、その横の見慣れない人影に向かって勢い込んだ。


「待ってたわよ! さあ早く約束のアレを渡してちょうだ、い?」


 勢いのいいキリンの声が尻すぼみに消えた。どうしたんだろうとのぞき込んだタイリクオオカミは、人影の正体におや、と首を傾げる。

 白黒のツートーン。黄色のワンポイント。すらりとしたウェアを羽織った人影には見覚えがある。


「こ、こんにちは……」


 アミメキリンに圧倒された様子のコウテイペンギンがぎこちなく頭を下げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る