絶妙な均衡は死に至る病

小杉匠

第1話 絶妙な均衡は死に至る病

絶妙な均衡は死に至る病


少しずつ陽が沈んで

僕は希の地に巡礼する


すべてが美しい訳じゃなかった

生きてきた世界

歩んできた時代

いくつか諦めながら

僕は前進と後退を繰り返した


君の未来が垣間見えたとき

僕の残像があるといいな

センチメンタルな気持ちになるのは

手を震わせる冷たい秋風のせい?

やはりすべては終わりゆくのだろうか


僕は今を見つめ、今日を見つめ

消えゆく過去を慈しみながら

数え切れない失敗の歴史に終止符を打つ


早くこちらにおいで

そう、手を差し伸べる声に

僕は躊躇なく頷けるだろうか

忌み嫌う汚れきった現世や人間に

赦しを施すのは無駄でしょうか


北へ向かう僕

僕など飲み込んでしまう霊験あらたかな地へ

目的のない彷徨は危険だ

すべてが吸い取られてしまう


大切が何かを悟ったとき

ふるさとに帰りたくなるんだ

それは大地

それは天空

それは血筋

それは源流

それは抗いようのない現実だ

受け入れるしか術のない事実に

僕達は暗澹とした気分になるけれど

それが救いであり、赦しであること

きっと誰もが心のどこかで気付いてる


あゝ、紅の手のひらがこんなにも色づいて

目を閉じ、瞳に映ることのなかった世界が

頑なな僕の心を氷解させる


春の桜色が好きだった

夏の海色が好きだった

秋の真紅が好きだった

冬の真白が好きだった


悠久の時と自然に育まれて

オトナの仲間入りした僕達

都会の煤に汚れちまって

産まれ堕ちたばかりの感動を忘れちまった


僕の計算づくの人生は

いったい誰が計算したのだろう

何もかもうまく行って笑って

でも誰かが描いたシナリオを

忠実に演じているだけだよね


所詮それが人間というもの

すべてを悟る君は宙を見て笑う

でも僕はそんな事実に抗っていたかった

完全体じゃない自分を

組み立ててみたかった


辿り着いたるは貴船の地

僕と君の絆を繋ごう

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