異世界に来たので帰るために頑張る

南国ゆうれい

森の中で

第1話 目が覚めたら森にいた

 ジリリリリリリリリ!!!!


 目覚まし時計が鳴り響いて、俺の耳をいじめている。うるさいっての!耳が痛くなった俺は、すぐそばにあった白い目覚まし時計に怒りをぶつけるようにブッ叩いてから止めた。

 目覚まし時計を止めたのはいいんだが、布団に包まれる気持ちよさに目をとじる。


「んん……起きなきゃだめだ……」


 また意識が闇に沈みそうになっていることを感じた俺は、そう声に出して思い瞼を無理矢理開く。とりあえず目は開けとかなければ、二度寝してしまいそうだと眠いながらも判断した。


「あれっ?」


 俺は、まだ夢の中にいるのだろうか。見渡すかぎりの森。澄んだ空気の森の中、俺の上には大きな空に個性的な沢山の雲が浮かんでいる。

 まってくれ、俺はただの高校生の田中たなか高志たかしという平凡な高校生といえば俺をさすレベルのごく普通人間である。いや、それは言い過ぎかもしれないが、決して森に布団や目覚まし時計をもって眠る気の狂った野郎じゃない。そして夢遊病というわけでもなかった。


「ちょっとマジでどこなんだここ…!」


 慌てて立ち上がり、虫とかが傍にいないことを確認する。森のおそろしさは虫が沢山いることだと思わないか?今時の高校生は大抵虫が嫌いだ。少なくとも俺のまわりでは、小学生の頃いくら虫が好きだったとしても今は嫌いな奴ばっかりだ。特に足の多いやつはキモすぎて……いや、考えると気分悪いわ。

 なんとなく、頬をつねってみるが……普通に痛いので夢ではないと思う。

 とにかく、どこかへ行ってみよう。


「げっ、裸足じゃん」


 パジャマなのは百歩譲っていいとして、裸足で森を歩かなければならないのか?マジかよ。怪我とかしそうだし、動物のうんこや虫を裸足で踏むのは絶対に嫌なんだが!?


(ああもう、こうなりゃヤケだ)


 このままここにいてもどうしようもないと思った俺は、しょうがないけど腹をくくった。裸足のままおそるおそる地面を踏みしめると、じめっとした土の感触がして濡れた葉が足裏に貼りつき、不快感に呻きそうになった。しかも雑草を踏むとくすぐったいのがまた気持ち悪い。

 その感触は気にしないことにして、真っすぐ歩く。どこか人がいる場所にたどり着ければきっと警察くらいは呼んでくれるばずだ。そして警察に、自分のことを素直に話していればきっと家に帰れるだろう。


(ただ、精神病を疑われる可能性はあるかもしれないが、森に居続けたらそのまま腹減って死にそうなのでそれもしょうがない)


 ついため息をつく。状況が意味不明だし木の根踏んだら痛いしもう家帰りたい。


(もう疲れてきたし……)


 木の根を避け、枝をくぐり、雑草に足を切られながら歩くのは、予想以上に体力を消費することだった。

 そもそも俺、田中高志は残念ながら森を歩くことには慣れていない。それに普段ゲームばかりしていてろくに体力がないのだ。しかもいきなり森にきてしまって精神的にも辛いものがある。


(喉が渇いてきたが、水なんて持っていないし)


 早くも嫌になってきた俺は、布団がある場所に戻ることを考えるが、引き返すのにも体力がいる。それに、ここまで歩いたことが無駄になるのは嫌だった。

 喉の渇きは口の中の唾を飲み込めば、一瞬だけ少しはマシになった気分にはなれるが、体の水分量は全く変わっていない。


(ん、水音?)


 水が流れる音がどこからか聞こえてきて、俺は音に誘われるように歩き出した。

 まるで水を得た魚のように(まだ得てないけど)活力が戻ってきて、喉を潤したらそこで少しだけ休憩しようと、一瞬の内に考えた。休めると思ったらこんなにも元気がでるなんて、俺って単純なのだろうか。


 しばらく進むと、川が見えてきた。川に走り寄り、水をすくって飲む。そして足の裏を洗った。


(……おいしい。生き返った気分)


 そこでやっと川の美しさに気が付いた。川の周りには黄色や白の花が爛漫らんまんと咲き誇り、見たこともない模様の青い蝶々が優雅に飛んでいる。よく青く澄んだ川は水面が反射しキラキラと光っていて、いつまでも見ていられそうなくらいに美しく幻想的な景色だった。

 でも……まるで、人の手が加わっているような感じがする。木も花も人の手によって整えられたように綺麗すぎる。


(もしかしてここには人がよく来るのだろうか?)


 希望をもった俺は立ち上がり、この川の付近を探索することにした。人に会えば俺は助かるはずだ。気力もばっちり回復できて、俺は元気よく歩き出した。



「「確保ー!!!!」」


 そして突如子供の声が聞こえてきたと思いきや、俺は謎の二人に取り押さえられたのだった。

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