どこを歩けば何にぶつかる?

カゲトモ

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「うわ」

 今日は暖かくなると聞いていたから昼間から外掃除に精を出していた。窓ガラスを磨くと日々綺麗にしているはずなのにうっすらと汚れが付く。黄砂やら花粉やら、飛び交いまくりか。これではアレルギー体質の人が可哀相だ。俺は違うからいいけど。

「こんにちは」

 パンパン、と両手を打って一息つくと後ろから声を掛けられた。優しくて柔らかな声だ。振り返ると、くしゃりとした笑顔がそこにあった。

「こんにちは、相葉さん」

 商店街で靴屋を営んでいる相葉さんだった。年齢は多分七十台後半から八十代ってところだろう。既にリタイア済みで、現在は息子さんが店主として営業している。真っ白な髪をしているが、端正な顔立ちで昔はきっとモテていたに違いないって人。物腰も柔らかだし。

「花菱君はいつも元気だね」

「それくらいしか取り柄がないんですよ。相葉さんも変わらずお元気そうで何よりです」

 杖もつかず、しっかりと歩いているし。

「はっはっはっ」

 なによりも元気だし。

「もう何にもやることもないしね、元気でいるくらいしか出来ないんだよ」

「それが一番大切なことじゃないですか」

「はっはっ、マサオの為にも長生きで元気でいないといけないからねぇ」

「ふふ、そうですね」

「な、マサオ」

 そう相葉さんが話しかけると、ちゃんと話を聞いているのか、マサオはこっちを向いて尻尾を振った。マサオはつぶらな瞳が可愛らしい柴犬だ。

「どっちが先にくたばるか分からないからね、ある意味勝負みたいなところがあるんだ」

「そんなこと言って、まだまだ相葉さんもマサオも若いでしょ」

「いやいや、こうみえても私結構なお爺さんだからね。マサオだってもう十歳だから、おじさんだし」

「僕よりもマサオは年上ですか」

「そうだよ、可愛い顔して中身は中年おじさんだから」

 そう言われたマサオはまた嬉しそうに尻尾を振る。褒められたんじゃないんだぞ?

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