第16話 間話 日々の成長

 やぁみんな、こんにちは。

 サーネイルこと、咲夜です。

 さて、前回山の中でエマさんと二人で生活していくことになった訳だが、色々と疑問に思ったことがあるだろうと思う。


 あるよね?

 あると信じて話を続けるよ。



 まず、なぜエマさんに魔法を教われなくなったのかについてだ。


 これはエマさんも言っていたのだが、変異種が関係している。

 そもそも変異種というのは、種族特有の姿と一部、または全部が変化した状態で生まれてくる者達の総称である。

 元々の形質とは違ってくるのだから、当然異常が起きるのだ。


 まぁ、薬とおんなじだ。

 例えば風邪をひいた時、咳を止めるために薬を飲む。

 その薬には咳を鎮める効果がある。それが主作用というものだ。

 だが、たいていの薬には副作用も付いてくる。


 お子様セットのオモチャのようにハッピーなオマケではなく、望んでいた効果(ここでは主作用)以外の自分にとって少なからず悪影響の出る効果のことを指すのだ。


 つまり変異種によって特別なチカラ主作用を得た者は、マイナスになる能力副作用も同時に取得させられるのだ。

 どちらも望んで得た訳では無いが。


 エマさんの場合は主作用が魔法で、副作用がそれを他人に教えられない、ということに値する。


 エマさんは、「全くという訳では無いのですが、せいぜい二属性の初級までが限界です」と言った。


 少しこんがらがるが、要はエマさんが変異種として生まれなかった場合、「使えた魔法は火と土の初級までだった」という事だ。


 だからそれ以上を俺に教えられず、最初に俺に教えを請われたときは俺の才能に気づかずに子どもの気まぐれと思ったらしく、それらの魔法を教えるつもりだったという訳だ。


 ここまではオーケー?


 なら次は急に山奥に住むことになった件についてだが、これは国王、つまり父上が勝手に用意した訳ではない。

 俺とエマさんの相談の上で選んだのだ。


 まず父上は練習場所を用意すると言った。

 当然、城内に新しく専用の施設が造られるという話だった。


 だが、俺はそれを得意のストレート、いや、ジャイロボールで断った。

 つまり少しズレた回答をしたのだ。


 普通ならもったいないとか、そこまでする必要はないと言うだろうが、俺は「狭い」と言ったのだ。


 少し魔法が使えたらいいなどと言っておいて、広範囲で派手な魔法を使う気満々だったのである。


 理由はもう一つある。

 いや、二つか?


 一つは王宮の生活に飽きたからだ。

 というのも、毎日大勢のメイドや執事に世話をしてもらっているというか、自分ではほとんどさせて貰えないので退屈なのだ。


 本を読み漁っていた時や、家庭教師が居た時はまだよかったのだが、それらが終わると一気にやる事が無くなったのだ。

 セリーさんにせっかく習った料理も作らせて貰えなかったし。

 まぁ、詰まるところの家出をしたかったのだ。


 旅に出ます。

 探さないでください。

 みたいな?


 冗談はさておき、とにかくこの前のプチ旅行のように新鮮な環境が欲しかったのだよ。


 それが一つ目。


 二つ目は俺のことじゃない。

 何を隠そう、エマさんその人である。


 エマさん曰く、自分は山奥で魔法の修行をしたのでそれが普通だと思っているらしく、俺の世話をもっとしたいと言い出したことからあの場所に決まったのだ。


 エマさん、これ以上何をなさる気ですか。

 と思ったが、いざ住んでみると編み物をして動きやすい服を作ってくれたり、職人のように畑仕事を手伝ってくれたりと大助かりなの。

 とにかくサバイバルスキルが尋常じゃないくらいに高かった。


 ほんとすごい人よ、エマさんは。

 ありがたやーありがたやー。



 とまあ、そんな感じで山奥でエマさんとの二人暮らしが始まった。



 ちなみに三日で手配してくれた父上には頭が上がらない。




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山篭り ひと月目


 ここでの生活にはもう慣れた。

 なかなかにいい場所だと思うよ。


 空気は美味しいし、人が居ないので伸び伸び出来るし、自由にかつ有意義に時間を使えるし、エマさんが凄すぎるので楽しい。

 良き良き。


 新たに始めたことがいっぱいある。

 

 まず、畑を作りました。

 さすがに苗は王国から少しだけ持ってきたけど、エマ職人によって徹底管理されているので順調だ。

 エマ様がいる限り虫の好きにはさせんよ。


 それに黒竜丸が有能すぎる。

 クワを思い浮かべると変形するし、いと振りで直線上の土が耕されていた。

 ジョウロをイメージすれば、エマさんに水魔法を出して貰うだけで後はなんか勝手に水やりをしてくれているのだ。


 それでいいのか、伝説の剣よ。

 途中で間引きまでしてるしさぁ。

 完全に農耕具と化している。


 あ、そうそう魔法だよ。

 エマさんに教えて貰って初級の火と土を使えるようになった。

 と言っても詠唱を覚えるだけ。


 「炎の精霊よ。我が願いを叶えたまえ。ファイヤー」とか、「大地の精霊よ。我が祈りを捧げる。ロックボール」と唱えるだけだ。


 簡単だ。

 簡単なのだが、だっっさい。


 中二病真っ盛りじゃん。

 それだけはキライだったのに。

 無詠唱を使いたい。


 あと、中級以上の詠唱をエマさんから聞いてみたのだが、全く聞き取れない。

 雑音が混じって聞こえなくされているみたいだ。

 ひでぇ副作用だな。まったく。



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 山篭り 半年経過


 半年が経った。

 六歳くらいになっただろうか?

 この世界の周期がわからないので何とも言えない。


 最近は狩りに一人で出掛けている。

 もちろん食っていく為だ。

 ここでの主食は肉だ。

 動物がいっぱいいて、狩れれば食料には困らない。


 最初はエマさんに止められたが、「ご主人様の命令です」と言うと諦めてくれた。

 その後は俺の成果を見てか、関心して褒めてくれていた。


 そしてやっぱり黒竜丸だ。

 剣本来の役目を果たしてくれている。

 やけに簡単に狩れるし、木どころか岩まで豆腐状態なのだが、流石は最強の剣だね。

 解剖や血抜きも勝手にしてくれるが。


 畑も順調そのものです。

 早いものだともう収穫できて、食卓を彩るアクセントになってくれている。


 たまに動物が荒らしに来るが、スグにエマさんによってその日のオカズとなる。


 ご愁傷さま。

 そしてご馳走様。


 もはやエマさんが頼もし過ぎて、乃愛がいなければ惚れているレベルだと思うよ。




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山篭り さらに一年後


 たぶん七歳になった頃だ。


 ずっと試行錯誤していた魔法にとても大きな進展が。

 なんと無詠唱が出来るようになったのだ。


 火をイメージして指先から念じれば、ファイヤーと同じ現象が再現出来たのだ。

 難しいがどんどん使って慣れていこうと思う。


 畑からは安定して野菜などが採れるようになり、料理の腕も唸るというものだ。

 エマさんにも料理だけは俺に任せて欲しいと頼んでいる。


 狩りなんかもう作業と化している。

 熊なんか正面から行くとめんどくさいので、森の木を利用して項の辺りをサクッと…ね。


 駆逐してやる!!

 この世から、一匹残らず!!


 いや、それは不味いか。



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山篭りから四年が経過した頃


 もはや元の地形の面影はない。

 広大な平原は土魔法で良質の土に変えたお陰で、作物がとても育ちやすかった。

 小屋を一歩出れば一面には麦畑があり、少し奥に進めば最初からだいぶ大きくなった野菜畑が、家の裏には立派な果樹園が広がる。


 ここは地上の楽園だ。


 作物はとても二人では消費出来ないので、王国にちょくちょく売りに出しに行っている。

 街のものより美味しいらしく、王宮にも正規の値段で買い取って貰っている。


 だから金銭面に余裕があるのだ。


 それで魔法……なんだが、よく分からない。

 ただ色々と出来るようにはなった。

 無詠唱で。


 大事なのはイメージだ。

 体の中から外に向かってエネルギーをひねり出す感じ。

 普通魔法は本物を見ないと詠唱が出来ても上手く制御出来ないらしいが、俺は元の世界で色々と見た知識がある。

 それらを元に試行錯誤して一応全属性の色んなパターンを使えるようにはなった。


 エマさんはいちいち褒めてくれるのだが、独学の俺だ。

 たかが知れている。


 あと、モンスターにも手を出した。

 食用には向かないし、住んでいる所からだいぶ離れた森位にしか近くには生息していないので、魔法の練習には持ってこいなのだ。

 最初は怖かったが、黒竜丸が豆腐にしてからは遊び相手になってもらっている。


 色んな食材が取れるようになったから、料理の幅も広がった。

 去年あたりから調理器具も黒竜丸で代用している。


 もう何でもありだ。

 伝説とやらは何処いずこに?



 とまあ、一生暮らせるくらいの生活基盤が完成しているのだが、そろそろアレだ。

 乃愛との約束の日が近づいている。


 その事をエマさんに話し、ここをどうするか聞いてみたのだが、杞憂に終わった。


 なんでも、父上が買い取ってその管理を使用人に任せるという。

 よっぽど野菜が気に入ったのだろう。


 それもその筈、エマさんと俺、そして黒竜丸の三年間に渡る努力が詰まった思い出の畑なのだ。

 できれば手離したくない。

 だが、約束は約束だ。


 せめてもと、一般国民の平均生涯収入分を父上のポケットマネーから頂戴した。

 なかなかの言い値で売れたんじゃないかな?


 そんなこんなで楽園生活は終わった。

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