ロバート物語
白井京月
第1話 神からの指令
1999年某月某日。
ごく平凡なサラリーマンだったロバートに神が語りかけた。
「ロバート。君の使命は文明の革新だ。そのことを強く自覚しなさい」
ロバートは目覚めた。
会社を辞め、家族と別れ、研究に没頭した。
文明の基本は文法だ。言葉が、そして音楽や絵画といった芸術だけが文法を変える力を持つのだ。ロバートは実験として新しい空間を作った。
「ロバート空間1号」
ロバート空間は破壊する
現代という退屈で憐れな空間を破壊する
教育という悪の装置を破壊する
制度という幻想を破壊する
労働という悪徳を破壊する
自立を阻み依存を強いる思考様式を破壊する
現代という貧しく特異な空間に服従する者など同類ではない
彼らは観察の対象であり破壊の対象に過ぎない
社会的人格を繕い自我を放棄した者に言葉などいらない
ロバート空間は過去の復活を願うものでもない
現代という絶滅に邁進する空間を破壊すること
それがロバート空間の使命にして宿命なのだ
ロバート空間
そこでは計算も戦略も不要だ
ただ存在すること
何もする必要はない
何もしない方が良いだろう
努力などという言葉はロバート空間には存在しない
矛盾と混沌の正当性を示そう
現代の幼稚な科学などママゴトにも劣るのだと
空間は衝突するだろうか
衝突は回避されるだろうか
そんなことは問題ではない
問題はロバート空間を生きるか
苦痛と無力さと安全の世界に引きこもるのか
それだけの話だ
不確実性回避とは過去についての評価上の過誤だ
あるいは倒錯した評価関数だ
気がつこう
みんなが勉強するから馬鹿になるということに
みんなが働くから貧しくなるということに
これらは証明されている事実なのだ
みんなが頑張れば頑張るほど不幸は増大するのだ
根本的な錯覚を植え付けられているのだ
自然を資源とみなすような経済人は地球の敵だ
人を資源とみなすような経済人は人類の敵だ
なんと恣意的で悪意に満ちた操作的概念だろうか
回避せよ
無視せよ
離脱せよ
今すぐにここで
これは大いなる誘惑である。
そして、ロバート自身もこの誘惑に乗って、ロバート空間へと旅立った。
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