28 エイプリル超合金
宇宙人遺跡と呼ばれるものは数々ある。ナスカの地上絵は最も有名な宇宙人遺跡である。エジプトのギザ、メキシコのテオティワカン、マヤのバレンケ、ボリビアのティワナク、カンボジアのアンコールなどの古代文明都市にあるピラミッドも宇宙人遺跡といわれる。神話の登場人物や壁画の人物が宇宙人だという説は数限りなくある。もっとも有名なのは古代インドのマハーバーラタとラーマーヤナである。フラワー・オブ・ライフとよばれる幾何学模様が宇宙人からもららされたという伝説もある。宇宙人の頭蓋骨、遺体の写真、UFOに関する無数の証言や拉致体験談は、捏造されたものや勘違いばかりで信憑性は極めて低い。
2025年、新たな宇宙人遺跡が発見された。といっても古代都市遺跡ではない。ドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州の白亜紀後期層から発見され、史上最大のアンモナイトといわれるパラプゾシア・セッペンラデンシスをCTスキャンで調査しているとき、アンモナイトの消化器内に金属片を発見したのである。人工的に加工したとしか考えられないなめらかな形状の薄片であり、3億年前に地球に飛来したUFOの破片をアンモナイトが捕食したのではないかと話題になった。さらにはアンモナイトが宇宙人だったのだという説や、アンモナイト文明の末裔がいまなお深海底に生きているというクトゥルフ神話が真実だったという説まで登場した。
化石を切断して金属片を取り出し、その成分を分析したところ、とんでもないことになった。人工的に作らなければ地球上に存在しないはずの反陽子炭素が検出されたのである。反陽子炭素とは炭素の6つの電子のいくつかを反陽子で置き替えた人工炭素原子である。アンモナイトの中の金属片から検出されたのはすべての電子を反陽子で置き替えた反陽子炭素18だった。炭素12に対して原子量が6多くなっている。人類にはまだ作れない物質だった。いよいよUFO破片捕食説の信憑性が高くなった。
コンピュータシミュレーションの結果、反陽子炭素18でダイヤモンドを作れば、ウルツァイト窒化ホウ素をはるかに超えるとほうもない硬度の物質になることがわかった。用途が広いカーボンナノチューブも反陽子炭素18で作ることができる。世界中の研究者が反陽子炭素18の生成研究に没頭した。さながら錬金術ブームの再来だった。絶対零度の真空中で加速した反陽子を炭素12に照射すれば、反陽子炭素13を作ることは容易だった。しかし14以上の原子量になると安定させることが難しかった。玉突き現象によって反陽子を1つ入れれば1つ出てしまうのだ。それでも原子量は1つまた1つと着実に増えていった。そしてついに2037年、京都の仁科湯川研究所によって1億分の1グラムの反陽子炭素18の生成に成功した。
2038年には、同じく京都の先端材料開発機構によって、反陽子炭素18を鉄に加えた炭素鋼が試作された。APCS(アンチプロトンカーボンスチール)は、従来の炭素鋼はもちろん、タングステンカーバイトなど既存のあらゆる超合金をはるかに超える特性を備えており、エイプリルフール(4月1日)に完成したので、エイプリル超合金と名付けられた。
エイプリル超合金が量産化すれば金属工業に革命がもたらされる。とくに超合金技術が必要とされる宇宙開発やロボット開発は新時代を迎えるだろう。アニメの世界の超合金Zが実現するのである。さらに超絶的な特性を備えたアンチプロトンダイヤモンドも完成間近とされている。アンモナイトが届けてくれた3億年前の宇宙人からの手紙が、人類文明に新たな時代を築いてくれそうである。
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