9 ショッピング革命

 アパレルは、この20年間で、もっとも劇的に変化した業界である。20年前にあった業態で、現在も生き残っているものはほとんどない。

 デパートはすべて消滅した。ネットショップも、かつてのスタイルのままでは存続できなかった。ハイファッションブランドも、そのための高級ブティックも消え去った。銀座、渋谷、原宿、代官山といったファッションの街は健在であるが、ウィンドウショッピングするだけで、そこで服を購入する者はいない。

 ファンションに敏感な者は、街を歩き、見るだけのブティックに立ち寄り、カフェでファッション誌やファッションサイトを閲覧し、恋人や友だちと待ち合わせて食事をする。

 するとなにもしていないのに翌朝までには、前日に目にして気に入った服や靴やアクセサリーのカタログがネットで届く。街で見かけただけの服もすべてブランドが特定されている。どの服が気に入ったかをいちいち入力しなくても人工知能がスクリーニングしているのだ。しかし、漏れもある。あれはどうしたのと思った瞬間、カタログは修正されている。

 しかし、そのカタログで買い物をするわけではない。

 カタログで目にしてとくに気に入った服があると、瞬時に着衣立体画像がネットに現れる。モデルは自分自身である。これがオートヴァーチャルフィッティングである。

 デザインの変更は自由である。布地も、カラーも、ソーイングも、レースの品質も、アップリケも変えられる。セットアップやコーディネートもできる。

 これでようやく買おうという気になる。すると見積もりが現れる。すべてがオートクチュールだとかなり高価になるので、いくつかの条件は既成値で妥協する。価格が折り合えば購入する。早ければ即日、遅くとも翌日には商品が届く。ただし紙できた試作品である。これが気に入らなかったらキャンセルできる。靴も帽子もアクセサリーも同じである。ヘアアート、ネールアート、タトゥーも自分の身体をモデルにしてヴァーチャルに体験してからリアルに購入する。

 どんなにデザイン変更がいじるしくても、どの店の、あるいはどのブランドの商品が売れたのかは人工知能が判断し、そのショップに確実に売上金を割り戻すので、デザインだけが盗用されてしまうことはない。デザインが混ぜ合わされた場合は複数のショップに割り戻されることもある。

 街歩きがめんどうだという人は、ネットに接続したヘッドセットでヴァーチャルショッピングウォークができる。国内だけではなく、ニューヨークにでもパリにでもミラノにでもロンドンにでもバリ島にでもどこへでも行ける。

 すなわちリアルショップとネットショップが無差別化されてしまったのである。これをリアルヴァーチャルショッピングという。超人気ショップともなると、10坪ほどの小さな店舗に一日一億人が来訪することもある。

 デザイナーはまだ生き残っているものの、かつてのカリスマデザイナーのように尊敬されてはいない。アイドルが等身大になったように、デザイナーも等身大になった。だれもがデザイナーなのである。モデルも同じで、だれもがモデルであり、もはやスーパーモデルはいないし、いらない。ブランドマネージャー、スタイリスト、パタンナーは姿を消した。これらはすべて人工知能に置き換えれたのである。

 デザインの模倣は問題とされない。デザイナーだけではなくユーザーもデザインの創造や改変にかかわり、一着ごとにデザインの変容が積み重ねられることによって、さまざまな深化や多様化が生み出されているのである。 

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