絶対寄付の町ではすべてが完全平等

ちびまるフォイ

地獄のおすそわけ

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世の中、不公平だと思いませんか?


誰もがお互いを思いやって助け合うことができれば

この世界から戦争も争いもティッシュの1枚目が上手く取れないこともなくなります。


そう、世界は平和になるのです。

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怪しい新興宗教のような触れ込みに誘われて、

寄付の街へと引っ越しを決めたのは数か月前。


今ではすっかりここでの生活に慣れてしまっている自分がいる。


「今日は給料日です。みなさん1ヶ月お疲れ様です。

 ひとりひとり取りに来てくださいね」


給料を手にすると、そのうちの30%が自動的に別の誰かへと寄付される。


手取りが少なくなるじゃないかと激昂したものの、

逆に別の誰かから給料を寄付されたことで俺の怒りは収まった。


平等と均等こそがこの世界の正義。


「なんか、上手く回ってるよな」


「そうですか?」


「だってさ、この町に来てから争いなんて1回も見てないし

 給湯室や女子トイレに入っても陰口なんて1回も聞かないんだぜ。

 嫉妬すらも産まないこの社会システムには感服だね」


「先輩、結論に至るまでの過程に気になる内容盛り込みすぎです」


「飲みの席なんだから忘れろよ。さもなければ殺す」


「僕を殺したら先輩が殺人寄付されて3割殺されますよ」


「それは嫌だ」

「じゃあ止めましょう」


後輩と居酒屋を出て千鳥足でなんとか家にたどり着いた。

翌日はひどい二日酔いで、自分への辞令を見てますます頭が痛くなった。


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辞令 下記のものを2階級特進とする。


島耕 作(しまこう つくる)


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「お、俺!? なんで!? どうして!?」


ノーモーションで襲い掛かって来た電撃出世に100年の酔いも冷めた。

慌てて上司に事情を確認すると、えびす顔で答えた。


「君の頑張りは前から見ていたよ。

 変な意味ではなく、正式な出世だよ。素直に喜ぶといい」


「や、やった!! やったぁ!!」


「また、君が出世したことで寄付しなければならない」


「寄付? 出世を寄付するんですか?」


「ああ、そういうものだよ。この町は寄付で成り立っているんだ。

 寄付してい人はいるかね? いなければランダムになるが……」


「います!!」


俺は後輩の名前を寄付宛先に書いて登録した。

これにより、後輩が俺の寄付によって出生した。


「先輩、ありがとうございます!」


「何言ってんだ。この町では助け合いがモットー。

 幸せの寄付なんて当然だろ」


これを機に、待っていましたとばかりに渋滞を起こしていた

俺の幸せがどんどん舞い込んできた。


仕事は順調、お金にも困らない。さらに彼女までできてしまった。


「いやぁーー、本当最高だ!!」


幸せの台風の目になっていた。


そんなある日、彼女とお互いの好きなところを言い合うという

見る人が見ればはらわたが煮えくり返るバカップルイベントをこなしていると


「すみません。すみません、島耕さんですか?」


「はい、どうかしましたか」


「あなた、彼女ができたのに彼女寄付してませんね」


「彼女寄付!?」


「数日彼女を別の人に紹介するだけですよ」


やってきたのは寄付監査委員会。

彼女の届け出をしたことで寄付されてないとばれたらしい。


俺は彼女と真剣に話すことにした。


「俺は……俺は君を手放したくない。

 君が浮気をするとかそういうのじゃなくて、

 君を俺以外の男といっしょにいてほしくないんだ」


「私もよ。私も同じ気持ち。

 あなたを私以外のクソビッチ泥棒猫うんこにたかるハエのように

 隣に立ってほしくないの」


「口悪いな」

「愛ゆえに」


でも彼女はぐっとこらえて言った。


「……でも、このままじゃ私たちは寄付監査委員会から目をつけられるわ。

 永遠に監視され続けるくらいなら、数日の我慢の方がずっといい」


「ぐっ……そうだな、お互い頑張ろう」


かくして愛を誓った俺たちは彼女寄付と彼氏寄付が行われた。

俺は彼氏寄付として、見るからにモテなそうな女の彼氏として過ごした。


(つ、つらい……)


寄付期間が終了して愛の巣へと戻ると、彼女の姿はなかった。

とっくに彼女寄付は終わっているはずなのに。


「あれ? これは……」


机には1枚の書置きが置かれていた。



『 れいぞうこの ごはん チンして たべてね 』



「な、なんだと!? 彼女の寄付先の男と添い遂げるから

 私からは身を引いてくださいだとーー!?」


彼女はたった数日の彼女寄付期間で心変わりしてしまった。

必死に彼女の所在をつかむこと数日。


彼女が寄付された場所は俺の近所だった。


「ここは……」


「あれ? 先輩」


おそろいのペアルックを来ていたカップルの女は

間違いなく俺の元恋人そのものだった。


「えっ……!! それじゃ俺の彼女寄付の宛先は後輩だったのか!!」


「え!? 先輩の元カノだったんですか!?」


「島耕くん、私はもうあなたになんの未練もないのよ!

 私はこれから小暮くんの彼女なの! 彼氏ヅラしないで!」


「なっ……」


言葉が出なかった。

なんやかんやで彼女とあえばヨリが戻せると思っていた。


実際は彼女は後輩にぞっこんで、後輩も彼女のことが好きらしい。


「つーわけです。先輩には悪いっすけど、身を引いてもらえますか?」

「そーよそーよ」


「貴様ら……俺が寄付してやったのに偉そうに……」


「先輩には感謝してますよ。こんなに可愛い彼女と知り合わせてくれたんですから」


「むきーー!! ちくしょぉぉぉ!!」


ぶん殴りたかったが、後輩は身長2mのうち、1m90cmが上半身の超ボディ。

ケンカすればとても勝ち目がないのでみっともなく逃げるしかなかった。


しかし、家に帰ってからもモヤモヤは止まらない。


「くそぉ……あの野郎。出世も俺の寄付で彼女も俺の寄付。

 俺がいないと何もできなかったくせに、俺ばっかり不幸じゃないか」


ふと郵便受けを見てみると、郵便物がぎっしりだった。

その中に1通だけ黒い封筒があった。



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『 不幸寄付のお知らせ 』


厳正なる抽選の結果、貴殿に不幸が寄付されました。

数日で運気は元に戻りますからご安心ください。

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「原因これかよぉぉ!!」


ビリビリに封筒を破いて鳥葬した。


ここでは不幸も幸福もすべて寄付の対象となる。

特に指定しなければ宛先はランダムに振り分けられる。


そんな鳥の糞を直撃させられたのは不幸にも俺だったというわけだ。


「いや、待てよ。これは使えるんじゃないか?」


宛先を書きさえすれば、誰かに狙って不幸を寄付できる。

これ以上ない復讐のチャンスじゃないか。


「ふふふふ……今に見ていろ!」


それからは自分でも破滅的な毎日を送った。


お金は自分から不幸になるように使い尽くしての借金生活。

さらに不健康な生活をしまくって体はボロボロ。


今じゃ何をしても楽しくない不幸のどん底をマントルレベルまで掘り進んだ地獄。


それでもなお、不幸申請はしていなかった。

本来は違法だが復讐できるのならなんだっていい。


「クククク……今頃さぞや幸せな生活を営んでいるだろうな。

 だが貴様には間もなく俺のため込んだ不幸が寄付されるのだ!!」


この世界では借金も病気ですらも寄付することができる。

宛先に後輩の苗字と名前を書いて、ため込んだ不幸全てを放出して寄付した。


「あはははは!! ざまあみやがれ!!

 幸せの絶頂からどん底へ引きずり降ろされる恐怖を味わえ!!」


今頃、寄付監視委員の手によって俺と同じ病原菌を注入されているのだろう。

想像するだけで心から抱え込んでいたストレスが消えていく。


俺の不幸が減ることはないが、誰かを追加で不幸にできるなら構わない。


ピンポーーン。



「誰だよ、こんなときに……」


玄関に出ると郵便配達だった。


「なんですか」


「あなたに郵便物です」


「これは……」


宛名を見てもピンと来なかったので丁寧な封筒に収められた手紙を開くと、

そこには幸せっぱいの後輩カップルの写真があった。


『私たち、結婚しました! 苗字も変わりましたので以後よろしくお願いします』


「ふふふ、幸せそうな顔しやがって。今に不幸のどん底に落ちるんだ!」


毒づいていると郵便屋はもう1通を取り出した。




「あと、こちらも届いていますよ。

 宛名が無効だったんで、差し戻しになって

 あなたが受け取り人になった不幸寄付です」

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