第67話

ダーちゃんたちが来て、お庭が賑やかになった。

ダーちゃんは相変わらずわたしたちにあそこの牧草がおいしいって教えに来てくれる。

サーちゃんはベテランのママさんらしくどっしりと落ち着いてる。

そしてランリーさんは……、ちょっと天然っぽい。


お姉ちゃんたちがご飯を持ってきてくれる。

わたしたちはすぐに気がついて桶に近づくんだけど、ランリーさんは気づかない様子で向こう側を見てる。

そこでダーちゃんが大きな声でランリーさんを呼ぶ。

「ランリーさーん!ご飯来たですよー!!」

ランリーさん、耳をくるくると動かして、やっと気がついたみたい。

「……ありがとう、なの」

みんなから少し遅れて、ランリーさんもご飯を食べ始める。

近頃はそんな毎日。


「そういえば、こっちには怖い先輩はいないんですねー」

ご飯が終わったあと、ダーちゃんがそんなことを言い出した。

怖い先輩かぁ。

ここじゃあシャーマンさんもあっち行っちゃったし、ダヨーさんも怖くないからなぁ。

でも、あっちにはシャーマンさんの他に怖い馬がいるのかな。

「ああ、おっかないのはいるねぇ。それもとびっきりのが」

それまで黙って青草を食べてたサーちゃんが顔を上げてこう言った。

「あたしはあまりそういうのは関わらないようにしてたけど、そういうのも向こうにはいるよ」

そうなんだねぇ。向こうは馬の数も多いから、怖いのもいるのかも。

そう思ってダーちゃんに聞いてみた。

「あー……」

ダーちゃんはそう言ったきり、苦笑いしたような顔のままで固まってしまった。

これは聞くのは無理かもしれない。

そうだ、ダヨーさんも向こうにいたことあるんだし、何か知ってるかも。

「うーん……、忘れちゃったんダヨー」

ダヨーさんはそう言って笑う。

「おっかない事はさっさと忘れるに限るんダヨー」

そうだよね。それが一番だよね。

「それに……」

それに?

「シュシュ見てたら大概の事はどうでもいいやって思うんダヨー」

……どういう意味なんだろう。

あとで壁さんにでも聞いてみよう。


「ゴロさんには危ないから近寄っちゃダメって教わった、なの」

気がついたら、ランリーさんが近くに来てた。

「あと、機嫌悪いときのトリさんにも近づいちゃダメ、なの」

2頭もいるんだねぇ。向こうは大変なんだなぁ……。

「それと、ご飯どきのシャーマンちゃんからは離れた方がいい、なの」

うん、それはよーく知ってる。

そう言うと、ランリーさんは「多分知ってると思ってた、なの」と笑った。

たぶんシャーマンさんも相変わらずなんだろうなぁ……。

誰にも気づかれないよう、そっと苦笑いした。


それから何日か経って、風が強い日のことだった。

風を避けて小屋に入ると、壁さんの声がする。

「ちょうどええとこに来たやで。そろそろ部屋に戻れる日が近いみたいやで」

そうなの?くぅちゃんたちは?

「リリックさんたちが向こうに戻ることになって、代わりにあっちから子どもたちが集められて来るやで。それでくぅたちも他の仔たちと一緒に上の厩舎に入るんやで」

上の……って、わたしが最初に入ったとこ?

「せやで。それでくぅたちのいた部屋が空くから戻れるやで」

わたしとダヨーさんは多分あの部屋に戻れる。それはわかった。

でも、ダーちゃんたちは?

「たぶん向こうに戻ることになるやで。代わりに繁殖2頭ぐらい来るかもやで」

そっかあ……。


せっかくサーちゃんやランリーさんと仲良くなったのに、お別れは少し寂しい。

でも、これも仕方のないことなんだよね。

わたしたちの自由で決められることじゃないんだし。

それはわかってるんだけどな。


……でも、ちょっと寂しいよねぇ……。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

そろそろ、寒くなって来たかな。

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