第23話

そういえば、しばらくフェザーさんを見ていない。

最初は近づくだけであっち行ってって言われてたけど、最近はお話できるようになってたのに。

フェザーさんはわたしの知らない話をいっぱいしてくれた。またお話したいなと思ってたのにな。

壁さんが言うには、少し離れたところに引き取られていったみたい。


フェザーさんは2年続けて赤ちゃんが出来なかったって言ってた。

それでも、「次の仔は目一杯愛情かけて育てるんだから。過保護って言われるかな?」って言ってたのに。


「赤ちゃんが出来ん馬はな、こうして引っ越しして行くことがあるんやで」

部屋に戻ると、壁さんがこんなことを教えてくれた。

「環境が変われば子供が出来るかもしれんって、そこにかけるんやで」

そうなんだ……。

「きっと向こうで再来年にはいい仔産んでるはずやで」

そうだといいな。


「せやせや、そういや新しい仲間が増えるんやで」

壁さんが思い出したように言う。なぁに?今度は桶がしゃべり出すの?

「せやで、そのうち床と漫才して……ちゃうわ。群れに新しい馬が来るって、お兄さん言うてたんやで」

壁さん、ひとりでしゃべってて自分で笑ってる。で、その馬ってどんな馬なの?

「ハルちゃんのお姉さんやで」

ああ……。


ハルちゃんは賑やかな仔だったな。ひとりでがんばって空回りしてたけど。

そのお姉さんってことは、まさかまた賑やかなのかな?

「そこまではわからんやで。でも、せっかく群れに来るんやから盛大にお迎えはしたいやで」

壁さんはそれだけ言うと、黙ってしまった。


それから数日。

わたしたちは庭でのんびりしてた。そこにお兄さんが見慣れない馬を連れてくる。

「せっかく群れに来たんやから、盛大にお迎えはしたいやで」

壁さんの言葉を思い出す。

その瞬間、わたしは新しい仲間に駆けだしていた。


後ろには他の馬もついて来てる。

それを見た新しい仲間は「なんでダヨー」と言いながら全速力で逃げ出した。

わたしたちも全速力で追いかける。

「ずいぶんと盛大なお迎えになったやで。ありゃあ上がり35秒台の脚やで……」

壁さん、変なこと言ってないでなんとかしてよ~!


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

新しい仲間が増えた。

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