第2話 みんなとのショッピングはとても楽しいはずだ。
俺たちが住んでいるのは神奈川県。
それも県央地区と呼ばれる地区だ。
そんな俺たちが遊びに行く場所と言ったら誰しもが真っ先に答えるだろう。
それは"エビナウォーク"だ。
駅を出てすぐにあり、食品や服など、女子が喜ぶようなお店が並ぶ他、カラオケやゲームセンターなどの娯楽施設、オタクに優しいお店もあったりする。だからこそ、放課後に高校生たちの遊び場になる。
夕方に来てみると周囲は女子高生ばかりになるため、男だけで行くには多少勇気がいるのだが。
葵は先日まで中学生だったため、放課後の寄り道を固く禁止されていた。
だからそれから開放されたわけであってその初日である今日ははしゃぐ気満々でいたのだろう。
……本当に、せっかくのお出かけなのになぜ不機嫌なんだろうか、葵は。
なんでか聞いても「お兄さんなんて知らない」という一言が返ってくる。
自分の頭を掻きながら、葵が不機嫌な理由を考察してみるのだが、これと言って理由が見つからないから、とりあえずこの場では気にしないことにする。 本当に。
エビナウォークは、電車で2駅。
その駅を降りれば目の前に数十メートルから百メートル強の通路があり、その先には商業施設が立ち並んでいる。
駅まで歩いているときも、電車の中でも、葵は口をきいてくれなかった。
だが、目的地に到着し次第ぴょんぴょんと子供のようにはしゃぎながらこちらにとびきりの笑顔を向けてくる。
それは今朝見た表情よりもさらに明るく、楽しそうだった。
「私、すごくあこがれてました!放課後にこうやって遊ぶことに」
はしゃぎつつもそんなことを言う。
俺は、その笑顔を、太陽を直視した時よりもまぶしく感じた。
隣に立っていた裕也もポカンとしている。
軽く押したら倒れてしまう石像のような状態だ。
「葵ちゃん楽しそうだね」
由紀は顔を近付けながら葵に笑いかける。
楽しそうに笑い合う二人って、意外に絵になるもんだな……。
「はい!お兄さんが唐変木なのは置いておいても、私、今、とても楽しいです!」
「まだ、広場にすら入ってないだろう」
「それでもです!」
ツッコミを入れたら怒られてしまった。
いまだに裕也はポカンとしているので頬をつねってみた。
「いてててててて!」
唐突な大声に若干驚いた。周囲の目がこちらを見つめる。
「なにすんだよ樹!」
唾を飛ばしながらまくしたてる。
「いや、心ここにあらずって感じだったから」
だからってつねるなよ!と言いながらも周囲の目が気になったのか、苦笑しながらおとなしくなった。
周囲の目線は、何事もなかったように各々の進行方向や操作している端末に戻っていった。
そんなこんなで葵たちの方を見ると、大分遠くの方まで進んでおり、こちらに手を振っていた。
「お兄さん、裕也さんおそーい!」
「早く来なよー!」
二人はこちらをせかす様に手を振るので、こちらは駆け足でついていった。
◇◇◇
エビナウォークの中央にある広場まで付くと、葵たち女性陣のテンションはさらに上がっていた。
「由紀さん由紀さん!あそこに行きましょう!」
葵が指をさす先には、最近高校生に人気だというファッションブランドだった。もちろん由紀もいいねいいね!と便乗する。レディースが多いブランドだから若干俺らには行きづらいお店ではあるが、ついていかないっていうのは選択肢にはないんだろうな。
「早くいくよ!」
由紀に急かされながらもそのお店に入っていく。
女性陣はさらにヒートアップしていき、どんどん試着してはどう?と聞いてくる。
二人とも真っ先に俺に聞いてきて、裕也が若干空気になっているのはどうしてだろうか。
俺は、常に試着室の前に立たされ、裕也は完全に放置されている。
試着した姿をちゃんと褒めないと二人とも拗ねるので相当気を使いながら言葉を選んでいた。
女性って怖い。
女性のショッピングは長いっていうけど、それは本当なんだと確信したよ。
次から次へと服を持ち込んでは試着して感想を求める。
それを繰り返して最終的に決定したのは1時間後だった。
その後の二人はほっこりしながら洋服の入った袋を抱えていた。
洋服選びを終えた後に次はお前の番だといわんばかりに腕をつかまれ、メンズに人気のお店に連れてこられた。
「お兄さんは普段ユニロクやしもうらばっかり着てるので女性受けがあまりよくありません!まさか、いつもの服装でデートなんかにいかせられません!」
そんなこと言われると悲しくなる。
結構気に入ってたのに。
本当に俺の番が回ってきたみたいだ。
服をもってきては試着させられ目の前で二人が「おぉ~」という。
そして新しい服を持ってくる。
それの繰り返しで正直疲れたよ。
1時間くらいするとやっと気に入ったものがあったようで購入させられた。
お財布が寂しいよ。
そのあと、まだ二人は物足りないみたいでゲームセンターに連れていかれる。
そうすると、4人でいろんなゲームをプレイしながら楽しみ、最後はプリクラを撮って帰ることになった。
由紀も葵も満足げであったが、俺らはどんよりしていた。
正直もう疲れた。どうしてこんなに二人は元気なのだろうか……。
電車の中で操作する葵のスマートフォンには、笑顔な女性陣と引っ張られる俺、若干蚊帳の外な裕也が写った写真が張り付けてあった。先ほどとったものであろう。
とてもうれしそうにしていたから、これで良しとしようか。
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