俺のヒロインが妹であってはならない
増月ヒラナ
第1話 俺たちの新学期はとても清々しい。
桜が咲き乱れる街道をゆったりと歩いていく。
歩きなれた道、着慣れた制服、見慣れた風景。
これは間違いなく日常という奴だろうか。
日に常と書いて日常。それは何も変わりのない、いつも通りの日々ということだ。そんな日常にも最近は変化があった。
春休みが始まる前は、一人で歩いていた道を今では、二人で歩いている。
今は4月である。入学シーズンということで想像もつくだろう。
つまりは、俺かもしくは誰かしらが今年入学で、在校生である誰かしらは一般登校日ということで今、学校に向かって歩いているということだ。
先述の歩きなれた道といったくだりで俺が在校生なのは察しが付くだろうが、では今年入学というのは誰のことなんだろうか。
それは俺の妹である。
肩まで伸ばした黒髪は漆器の漆のように艶があり、白いカチューシャをつけている。
背丈は160前後で全体的に
「お兄さん、これから毎日一緒に登校できますね!」
そう、嬉しそうに、また世の男どもを一斉に骨抜きにする笑顔でこちらに話を振ってくる。
「あぁ、そうだな」
そう淡白に返答したとしても、彼女の表情は曇ることを知らない。
とても楽しそうにしている。
住宅街の細い路地をゆっくりと歩いていくと、段々と校門が見えてくる。
校門をくぐると、時間が割と早いおかげかクラス分けの発表台の前には人だかりはなく、数人がチラホラといる程度だ。
学年の違う俺達は少し離れたところで自分のクラスを確認した。
名字は一ノ瀬だから各クラス名簿の左上のほうから自分の名前を確認していった。
2年A組 一ノ瀬
A組だったおかげか、割とすぐに見つかった。
ちょうど葵も見つけたようでこちらによってくる。
「どうでした?お兄さん」
そのどうでしたとは、知り合いがいるのかどうかを聞いているのだろう。
「あぁ、
そう、俺は狭く深く人付き合いをするため、会話はするが、それ以上深くつるむということはあまりなかった。
「由紀さんも一緒ですか……」
ぼそっとつぶやいた彼女の一言は聞き取れなかった。
「そうですか、まぁいいです。私はお兄さんと一緒に通えるだけで満足なので! 今日は早く帰れると思うので、放課後お出かけしませんか?」
そうぴょんぴょん跳ねるようにはしゃぐ様子は、普段落ち着いている彼女の様子からすると珍しく、可愛らしかった。
「そうだな、多分午後はまるっきり開いてるからいいぞ」
そう言うと更に跳ね上がりながらやったー!と大喜びする。
「裕也も由紀も誘おうか」
その一言で彼女は一気に落ち込む。
「そんなことだろうと思いましたよお兄さん。だから……」
最後の方は聞き取れず何を言っていたかわからなかった。
その落ち込み様は先程の歓喜との差が激しく、どうしたのかと声をかけると、なんでもないですとしか返答が帰ってこない。
「なんでもないことはないだろう、葵!」
そんなこんなで校内に入り、普通に割り振られた教室の自分の席を探し、座って窓の外を眺める。
名簿番号が早い為、窓際の席を陣取っている。
なんか、まどの外を眺めながら#黄昏__たそが__#れている俺、かっこよくない?
しばらくすると教室も賑わってきている。
「よっ!何黄昏れてんだ樹」
急に背中を叩かれたと思ったらそこには
「なんでもねぇよ、また学校が始まるから憂鬱だなと思って」
そう、また1年間が始まると考えると、とてもだるく感じる。
土日ゆったりと休んで、休み明けに憂鬱な気分になる月曜病や、ゴールデンウィーク開けに訪れる5月病と同じようなものだろう。
これを俺は春休み病と呼ぶことにしよう。
これは安直だろうか。
「何言ってんだよ、可愛い妹とこれから毎日登校できんだぜ? だるいなんてあるもんか! 羨ましいぜこのやろう!」
そう言いながら俺の頭を拳でグリグリしながら言う。
「いてえよ、やめろよ! ってか、俺はシスコンじゃねぇ」
って言うとなんっだと!?と後退していく。
「お前、あんな可愛い妹だぞ? 義妹だぞ?」
そう叫ぶ裕也のツンツン茶髪を叩く音が聞こえる。
後ろにいたのは短めの茶髪に小さめのスイカぐらいはある乳を持った少女が立っている。
「落ち着きなよ裕也」
その一言に裕也は自分の頭に乗っている少女の手を払うと少女へ向き直る。
「おはようございます!乳神様!」
と言うと頭の上で手を合わせ、「ありがたやー」と最敬礼をする。
「誰が乳神よ!」
と裕也に向かって拳を振り上げるのは
「おはよう、由紀」
俺が挨拶をすると由紀は取っ組み合いになってた裕也を投げ飛ばしてこちらを向くとおはようと微笑んだ。
「大丈夫か?あいつ」
床に大の字に伏せる裕也を眺めながら言う。
「大丈夫よ、あいつは丈夫だから」
そう言いながら隣の机に腰掛ける。
「そういえば、葵ちゃん今日入学だったよね、おめでとうって伝えといてね!」
「おう」
あとで伝えておこう。
「そういえば、お前ら、放課後暇か?」
そう聞くと、裕也は起き上がってきながら話にのっかってくる。もちろん、裕也に対しても話を振っているのだが。
「え?放課後は暇だけど」
「俺も暇だぜ、何?遊ぶのか?」
ふたりとも若干食い気味に反応する。
「そうだな、葵が遊びたいって言うから、お前らもどうかなって」
「まじぃ!? 葵ちゃん来るの!? 絶対行くわ! 来るなって言われても行くわ!」
来るなって言われても来るのかよ。
「私も行く!葵ちゃんのお祝いもかねようか」
ということでイツメン全員参加というわけで。
妹に連絡するために
たっつー『放課後、裕也と由紀も来るってさ!』
そう送信し、しばらくすると既読がついた。
あおい『お兄さんのバカ!』
なんだよこいつ。
ちょうど葵からMiNEが来たときに、始業のチャイムが鳴った。
そうして見覚えのある先生が入ってくると、様々な説明を始めた。
今年25になる女性の先生だが、とても優しく気遣いをしてくれる先生なのでとても人気があった。
「今日は新学期ということで、各分担の清掃をしてもらいます。黒板に書いてある場所を清掃して気持ちのよい1学期にしましょう!」
その合図に全員が席をたち、散らばっていく。
掃除めんどくさいなと思いながらでも丁寧にやってしまう。
なんでなんだろうか。
しばらく掃除をすると、始業式が始まる。この手の式って無駄に話がなくて疲れるんだよな。中学校の式に比べれば簡略で短いが。
式の途中、裕也を見ると爆睡してた。俺も眠たい。
しばらくしてその日の行事は全て終わった。
「一ノ瀬くんはあとで先生のところに来てね、悪い話じゃないから!」
俺は先生に呼ばれた。
気づいたら葵からMiNEが来ていた。
あおい『昇降口で待ってます』
たっつー『あいよ』
俺は裕也と由紀に先に行ってもらうように言って、俺は先生のところに向かった。
「どうしたんですか?」
「いや、
そういうとブックカバーがかかった文庫本が入った袋を手渡された。
「ありがとうございます」
「本当は、自分で渡してほしかったんだけどねぇ、今日は忙しいかもしれないからって頼まれちゃって」
そう静かに笑いながらいう。
「仕方ないですよ、先生ありがとうございました」
「じゃぁ気をつけてね」
そう言いながら別れを告げた。
ちなみに、美鈴ちゃんと言うのは先生のいとこの
文庫本を貸し借りをするくらいには仲がいいのだが。
要件を済ますと、急いで昇降口に向かう。
そこでは葵と由紀と裕也が話しながら待っていた。
「おそいぞ~!」
裕也は大きく手を振りながら俺を呼ぶ。
葵は若干不機嫌そうだったが、気にしないでおこう。
「じゃあいこうか」
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