第三十五話 お土産パニックと父からの依頼
さて、パーティー開始から三十分後。俺は合流したリリアにも<
……そんなときにアレクスが声をかけてきた。
「それでさあ、クライス」
「なんだよ、アレクス。今、食べるのに忙しいんだが」
「お土産は? あるって言ってただろ」
「言ったな……さっきの英雄いじりでお前に渡す気は欠片もなかったんだが」
「すいませんでした」
「冗談だよ。じゃあ、全員に渡していこうか。ではまずお父様」
「うむ、別に私にはよかったのだがな」
「いえいえ、お父様のものが一番コストがかかっていませんから」
「……そうか。それならいいが」
「じゃあ、いきますよ…<
アレクスの催促は少しイラっときたが、まあ確かにお土産を渡すのを忘れていたで、ちょうどいいといえばいいのだが。
「お兄様、この魔法は何ですか」
「<
「ありますね。ただあの魔法ってものを収納するのには向かないんじゃ」
「そうだね。短時間ならともかく、一月、二月となってくるとさすがに探しきれないかな。だからこの魔法では、物を入れてある空間を闇魔法の結界で覆っているんだ」
「なるほど。それなら確かに物が無くなりませんね。……すいません、話をそらしてしまって」
「いいよ、これぐらい。じゃあお父様」
「ああ。して私のものはなんだ……い」
さて父さんの前にひとまず一頭分のスノードラゴンの素材を出した。さすがに十頭出すにはスペースが足りないからな。……ただ、なんかみんなの顔色が悪くなたっというか何と言うか。まあ、スノードラゴンって師匠とかと狩りすぎて感覚麻痺してたけど、一般人レベルだと赤竜と同じくただの厄災だもんな。
「これ、かい」
「はい。あっ、これ十頭分です」
「十……。それを全てお前がか」
「はい」
「……改めてお前のすごさが分かったよ。……ひとまず後にしてくれ、素材系統はまとめて奥の倉庫に入れているからな」
「了解しました。……じゃあ、次はラムス兄さんに」
「おお、俺か」
そのまま、<
「この金属か」
「はい、あっアレクスのもこれな」
「おっ、おお。ありがとう……で、この金属は」
「ちょっと待って下さいよ。これってミスリルじゃないのかい」
「はい、シルバ兄さん正解ですよ」
「いや、正解って……どうやってこんな量のミスリルを手に入れたんだい」
「作りました……あれ、反応しないんですか」
「さすがにもう慣れたんだよ、全員」
ミスリルというのは産出量が非常に少ない。東西千キロの大鉱脈を三十年かけて掘って、1トンも出ればその鉱脈が大当たりだたっと言われるほどのものなのだ。だから二人に渡した合計五キロほどのミスリルでも末端価格は250万アドルもする。まあ俺は魔力が大量にいるとはいえ、大量に作成できるので希少性など考えずに作りまくれるのだが。
「まあ、ミスリルはいいけど……これが加工できる職人ってこの領にいるのかい」
「あっ……そういえば、そこまで考えていませんでした」
「うーん、これだけのサイズのミスリルを持ち込んだら、売ってくれとせがまれるレベルだろうし……領内の店以外だと少し厳しいかな。でもミスリル加工の職人って王都ぐらいにしかいないしなあ」
「じゃあ、僕が早めに王都に一人で向かって、王都の店に頼んでおきましょう。ついでに<
「でも、そうは言ってもかなりの時間とお金がかかるよ」
「大丈夫ですよ。どのみち王都には王立魔術学院に通う以上長期滞在することになりますし、資金面は魔法で稼げますから」
「そうかい。ただ工房側がついつい横領してしまうような、かなりの物品だということを理解しておいてね」
「了解です」
シルバ兄さんは最近は領政、特に財務面にかなり関わっているようで、こういった話に強いのには本当に助かるな。さてと、後はシルバ兄さんと母さんと、女性陣の分か。
「シルバ兄さまにはこれです」
「へえ羽ペンかい。ありがとう、大切に使わせてもらうけど……これは何の羽なんだい、見覚えがないけど」
「白竜の羽毛ですね」
「は、白竜……それって一本で数十万アドルはすると思うんだけど……」
「大丈夫ですよ。……事情は言えませんが、白竜の羽毛なら師匠の家に腐るほど転がっていましたから」
「そ、そうかい。まあ、本当にありがたいね。これ一本で数百年は持つらしいから、もうペンを買い替える必要が無くなるよ」
「気に入ってもらったようで良かったです。後、お父様とお母さんにも同じものをお渡しししておきますね」
「あら、ありがとう」
「なんだか、悪いな」
「後、家族全員にですけど、疲労回復効果のあるお茶です」
「へー、どこのお茶かしら」
「いろいろ配合してますから、少し独特な感じに仕立ててあります」
「あら、そう。……この緑色のお茶とかどんな味がするのかしら」
紅茶だけでなく、緑茶も渡したのだがあまり抵抗感はなさそうだな。この世界でも緑茶広めていこうかな。そしたら好きなところで、日本気分が味わえるし。
さあ、お茶までは配り終えたし、後は残りを女性陣に渡すだけだな。
「じゃあ、最後はリリアとマリーとリサに同じものを」
「何でしょうか」
「クライス君のくれるもの……もう驚かないようにしよう」
「お兄様からのお土産、お土産」
三者三様の喜びを見せる中で、俺は魔石で作った宝石を取り出した。
「うわあ、綺麗」
「これ、魔力を感じますね……ということは魔石」
「でもこんなにきれいな魔石が自然に産出するわけないから……これもクライス君が作ったということか」
「そういうこと。まあ、加工は凝ったから時間がかかったけどね」
そうして三人にそれぞれ、マリーには氷属性、リサには水属性、リリアには光属性の魔石で作ったペンダントをかけてあげた。
「わあ、髪色にあっていてすごく綺麗ですね」
「こういうところはクライス君のセンスを感じますね」
「アレクス、婚約者へのアクセサリー選び、頑張ってね」
「うっ……クライス、そのときは手伝ってくれよ」
「いいけど。そういうのは自分で選ばないと、実力つかないぞ」
「…分かったよ。くそっ、そのペンダント以上のものを見つけ出してやるからな」
そうして、全員へのお土産を渡し終わったところで会は個々人での雑談に移行した。まあ、どの話にも俺は加えさせられたので、結局個々人というか全員で歓談していたようなものなんだが。
「クライス、少しいいかい」
「なんでしょうか。お父様」
やがて夜も更けて、アレクス達がそれぞれの家に帰ったころ。俺が元自室で師匠から預かった魔法資料を整理してると、父さんが部屋に入って来た。
「いや、クライス。お前はリリアがもうじき王立魔術学園に進学するという話は聞いているか」
「ええ、アレクスから聞きましたが……それが何か」
「いや、入学式に間に合わせるなら、あと二週間の内にはこの家を出なければならないのだが、今の家にその余裕はないんだ」
「魔人の被害ですか」
「ああ、復興に人手もいるし、何より負傷者のせいで人員が減っているのはもちろん、その穴を埋めるために通常業務で手一杯なんだ」
魔人の人的被害は死者数十二名、重傷者百名以上、軽症者は千人弱にも及んだ。それでも赤竜以上の厄災が訪れたと考えれば少ない方だが、それだけの負傷者が出れば、確かに小規模なうちの領では業務が追い付かなくもなるだろう。
「護衛も使用人も出せないとなると……厳しいですね」
「ああ。ただ、使用人は最低限二人ほどいればいいんだ。お前も分かっていると思うが、うちの家では使用人に頼らず日常生活を送るようにしているからな。それはむろんリリアも同じだ」
「なるほど……では護衛が出せないということですか」
「ああ、ただリリアも上級魔術師だからな。最低限の護衛さえつければ……と楽観的に見ていたのだが、あまりに今回の件で兵の死傷者が多すぎてな……一人、二人ならともかく、王都行のための十人規模となると厳しくてな」
父の不安は分かった。つまり、こういうことだろう。
「ようは、僕がリリアの護衛役につけということですね」
「頼まれてくれるか」
「ええ。どのみち僕も王都に向かいますから、手間は変わりませんしね」
「いや、すまないな。兵からの報告で魔人と近接戦もこなしていたというクライスなら頼めるかと思ってな」
「ええ、何とかなるでしょう」
事実、今の俺なら赤竜程度は問題なく撲殺できるので特に問題はないだろう。
「それでしたら編成の構成は」
「ああ、クライスが行くというのならメイドを一人と護衛の兵が三人。後はお主の親友たち三人をつけようと思っていてな」
「アレクス達をですか」
「ああ、両親にも了承はとってある。見分を深めるというやつだな。まあお主の魔法ですぐに戻ってこられるからというのと、空いている人材は有効活用しなければということだな」
「わかりました。出発はいつになりますか」
「早いうちにと思っていたからな。全員の準備が完了し次第、明日の昼にでもと思っているよ。ああ、その前に中等部卒業試験は受けておいてくれよ」
「リリアたちの護衛は最善を尽くします。まあ試験は受かると思いますよ」
「ああ、頼んだぞ」
こう言って、父は部屋から出て行った。一人残された俺は呟いた。
「復興に人手が必要ねえ。じゃあ、少々力を貸しましょうか」
そう言って俺はセーラさんから借りた資料を<
翌日 昼過ぎ
領の北門の周りには多くの人々が集まっていた。俺の家族に加えて、アレクス達の家族、手が空いている兵や使用人たち、そして多くの領民。まあ、手が空いている人全員だな。
「クライス、馬車はそれでよかったか」
「ええ、最低限の設備があればなんとかなります。資材の大半は僕が持っていますしね」
「そうか。じゃあ、気を付けてな」
「はい、お任せください」
テストは余裕で合格だったものの、そのせいで遅れて到着した俺は父に最後にそう声をかけ、馬車に乗り込んだ。馬車の横には兵士三人が馬に乗って待機している。御者はアレクスがやるそうなので、馬車の中にいるのは五人だけだ。
「お兄様、もういいのですか」
「ああ、今生の別れじゃないし、何より昨日あれだけ騒いだらもう、十分いろんなものをもらったよ。後はたまに帰るぐらいが丁度いい。リリアこそ、よかったのかい」
「ええ、私も十分に甘えさせてもらいましたから。そろそろ旅立たないと」
「リリアちゃん、大人ですね」
「マリーは昨日、泣いてたもんね」
「な、泣いてないですよ」
「マ、マリー様。馬車が揺れますから、急に動かないでください」
中にいるメンバーは俺、リリア、マリー、リサ、そして俺がいなくなった後リリアのお世話係をやっていた元俺の世話係のフィーリアだった。なんでも、俺と一番面識があるという理由で抜擢されたらしい。
「まあ、そろそろ静かにしようか」
「そ、そうですね。取り乱しちゃってすみません」
「いいよ。おっ……動いたな」
やがて、足元が振動して馬車がゆっくりと動き出したことが分かった。
「「「クライス様、お元気で」」」
領民たちの声を受けながら俺たちの乗る馬車はゆっくりと加速し、領地の門を通過した。その時、俺はボソリとある一言を呟いた。
「…<・・・>」
「あれ、クライス君何か言いましたか」
「いや、何にも」
「お兄様、何か魔法を使いましたか」
「あっ、バレたか。魔力の隠蔽が疎かだったかな」
「一体何の魔法を使ったんですか」
「それは……」
同時刻 フィールダー子爵領北門
「行ってしまいましたね」
「そうだな。まあ、クライスがついている時点で心配はしていないが」
「大変です。子爵様」
「どうした、こんなときに」
子爵夫妻が子供の旅立ちの余韻に浸っていると、突然後ろから兵士が走ってきた。
「何事だ」
「実は……倒壊していた建物が……全て直ったそうです」
「はあ。なぜ」
「なんでも突然現れた妖精が直したとか……」
「妖精……クライスだな」
「でしょうね」
よくできた息子が最後に贈っていった最高の置き土産に夫婦は苦笑するしかなかった。
「…<
「うわ、小人ですか」
「いや、土の妖精だよ」
「それでこれで何をしたんですか」
「うーん、じゃあ師匠でのところの話も含めて、道中のんびり話そうか」
馬車の中では楽し気な会話が続いていた。
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