2ページ

「でも松坂さんはもうすでに立派な背中だと思いますけれど?」

「やめてよ、まだまだなんだから」

「またまた御謙遜を」

「そんなんじゃないって」

 くく、と続けて微笑んだ松坂さんは、先ほどよりも少しだけ元気を取り戻しているように思えた。それが店に飲みに来てくれたからだとしたら嬉しいことこの上ない。

「仕事終わりにぐったり疲れているようではね、まだまだだよ」

「そんなこと」

「あるんだって。俺の師匠はこんなんじゃなくて、もっといつでもパワフルで元気で、格好良かったから。俺なんてまだまだだよ」

 十分格好いいけどなぁ、なんて。他人が思うのと自分が思うのとでは違うのが当たり前か。俺だってそうだし。

「それではそんな松坂さんにピッタリの一杯をお作りしましょう」

「ピッタリの一杯?」

「しばらくお待ちくださいませ」

 バックバーから選んだ三種類をシェーカーに入れてシェークする。し終ったら足のついた深めのグラスへ静かに注ぎ込む。満たされたのは淡い青のカクテルだ。

「ブルーマンデーでございます」

「ブルーマンデー?」

「爽やかなカクテルですよ。どうぞ飲み干してブルーな月曜日を飲み込んでしまって下さい」

「月曜日を飲み込むの?」

「そう考えると、ちょっと楽しくないですか?」

「・・・楽しいかも」

 そしてつかの間の休みを終えたらまた仕事の日々だ。でもなんだかんだいって嫌じゃない。そんな日々の繰り返しが、いつの間にか愛おしくなっているんだよなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る