月曜日を蹴り飛ばせ!

カゲトモ

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「お疲れ様でした」

「ありがとーマスター」

 爽やかな笑顔がトレードマークのはずなのに、月曜日の松坂さんは相変わらずお疲れ笑顔だ。それでもイケメンなのが羨ましい。

「お仕事、大変だったのですか?」

「仕事って言うか、指導? 新人が入ってくれたから教えなきゃいけない事も多くて。もうすぐ新学期にもなるし」

「なるほど。それはそれはお疲れ様でございます」

 松坂さんは商店街にある美容室のオーナーで何度も賞を取っているようなカリスマ美容師だ。ただでさえ松坂さん目当てのお客が多いと言うのに、美容コースのある高校のインターンも受け入れている。頑張り屋で、優しい人だ。

「まぁ好きな仕事だからねぇ。嫌な時もそりゃあるけど」

「嫌な時もあるんですね」

「そりゃあるよ」

「例えば?」

「例えば受付さんにスケジュールをキツキツに組まれていたときとか」

 あーなるほど。

「新人やインターンの子に受付をしてもらうことが多いんだけど、たまにビックリするようなスケジュールになっているんだよね。俺、いつ昼飯食うの? みたいな」

 はは、と笑っているけれど朝一にそれを見たらそれだけでドッと疲れそうだな。恐ろしい。

「あの子達は沢山のお客様に来店していただくためにと言うよりは、沢山のお客様に喜んでいただきたいって気持ちが強いらしくて。だからあんまり強くも怒れないんだよね」 

 カリスマ美容師の松坂さんに髪を切ってもらおうとすると、確かに予約戦争になるのかも。有名人も通っているって噂の美容室だし、沢山のお客様の予約を出来るだけ入れられるようにと考えて、キツキツのスケジュールになったのかもしれない。

「もちろん注意はするけどね。俺だって腹ペコだったら働けないし、スケジュールが狂って結局お客様をだんだんとお待たせしてしまうことになったりするかもしれないし。適度に余裕を持って予約を入れてって、ね」

「余裕がないと予定通りに進まなかったりしますもんね」

 分かる分かる。そしてそう言う感覚はそれなりに経験を重ねないと分からないもんだ。

「やる気の溢れている感じはいいんだけどねぇ、フレッシュで」

「そうですねぇ」

「まぁ俺たちも若い頃はそうだったんだけどね」

「そうですね、分かります」

 この世界に入りたての頃は失敗の連続だった。きっと松坂さんもそうだったのだろう。新人はみんなそうやって成長していくもんだ。

「だからこそ、追いたくなるような恰好いい背中でいたいよね」

「はい」

 いつかのマスターみたいに。

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