VPダイブ~弱点克服~
第207話 なお、磁力と妄想力とする
「舞台は闘技場にさせてもらったぞ」
「なんでもいいよ」
私は円形の闘技場を模したVP空間で志音と睨み合っていた。志音がこの間言っていた、私の武器の致命的な弱点とやらの克服のために、ここに立っている。
「とりあえずまきびしを出せ」
「あんたが言うと新手のカツアゲみたいだね」
「どこで使える通貨なんだよ、それは」
「そりゃ伊賀とか甲賀とかでしょ」
「お前、三重と滋賀の人に怒られるぞ」
志音に呆れた視線を浴びせられながら、私はさっとまきびしを呼び出す。本当に手慣れたものだ。こんなに簡単にまきびしは呼び出せるようになったというのに、私のアームズ呼び出し戦歴はまきびし以外だとキキ以外全敗っていう。
おそらく志音は私の弱点を突いた形のアームズを呼び出すのだろう。こいつ、ホントになんでも呼び出せてズルいな。ズルしてるだろ。家も金持ちだし。多分お母さんのお腹から出てくる直前にコナミコマンドキメてる。
「うし、んじゃ。全力であたしを攻撃しろ」
「分かった」
私は志音に向けて、四方八方から大きくしたまきびしを浴びせた。頭上からも降らせて、空の逃げ道も塞いでおく。それでも呼び出せる数にはまだ余裕があったので、普通に周りにも散らばらせておいた。
ガンッと鈍い音が鳴って何かに当たったみたいだけど、志音の居たところにはまきびしが殺到しているので何がなんだか分からない。私は一旦アームズを引いて志音が立っていたところを確認する。
「えっ」
そこにはロッカーみたいな何かがあった。いや、金庫? とにかく金属の箱状の何か。私が固まっていると、その箱はバラバラになって、板がヒュンヒュンと空中を漂った。どうやら志音は箱じゃなくて板を何枚か呼び出して、自分の身を守ったようだ。
「っぶねーーーな!」
「なっ! あんたが全力で来いって言ったんでしょーが!」
「だからってノータイムで全力攻撃するか! 普通!」
「私に”普通”を求めるの止めた方がいいよ」
「遂に認めたな」
志音は頭上で何枚かの板を浮遊させながら難しい顔をした。多分、アームズの調子を確かめているんだと思う。それを見て、私は再びズルいと思う。強く感じる。
「ねぇ、そんな板、呼び出したことあるの?」
「ないぞ」
「なんで空中漂ってんの?」
「言いたいことは分かったけど、その殺意のこもった目はやめろ」
志音がそう指摘するのも無理はない。多分、私の目はギンギンに充血している。労することなく呼び出したことのないアームズを宙に浮かせていることに憤っているのだ。
「私だって最初は普通のまきびしだったのに……浮くのだって何度か呼び出してから……そのスピードで動かすのだって……」
「あたしは他のアームズのイメージでリンクを補ってるんだ。だからコレくらいはできる」
「そんな使い方する武器持ってたっけ?」
「ブーメランの応用だよ」
「全然違うじゃん!」
私がそう指摘すると、志音は「イメージ的には、板状のブーメランを呼び出しているんだ」と、なんだか随分とややこしい言い方をした。
「あたしは金属の板を呼び出したことなんてない。ただ、ブーメランなら使い慣れてる。大きいのも、小さいのも、材質や色だってイメージさえできれば自由自在だ。だから形状が多少違うものだって呼び出せる」
「なるほど……」
「といっても、宙に浮かすなんて使い方したことなかったから心配だったけど、ちゃんと出来て良かったな」
「イチかバチかだったみたいだけど、それ出来てなかったらさっきので死んでたじゃないの?」
「お前の手によってな」
話をしながらも志音は板をひゅんひゅんと操る。目の前でテトリスみたいに積み上げていくと、大きな一枚の板のようになった。
なるほど。こいつ自分のトリガー何個に設定してきたんだよ、と思っていたけど、志音が使ったトリガーの枠はおそらく一つだけだ。一つの巨大なブーメラン《板》を何枚かに分離するようにイメージしたんだ。
「……」
悔しいけどすごい。
バーチャル空間へのダイブを管理している重要なサーバー群を、世界サーバと呼ぶ。デバッカー達を支えるその設備は今も成長し続けている。安定したダイブの為、という名目もあるだろうが、多くは増え続けるリクエストの為。リクエストというのは、主にデバッカーとトリガー数を指す。
それらを一人、一つでも多く受け入れる為、そしてその上で不測の事態が起こらないようにする為、世界サーバは今日も誰かの手によって処理能力を拡張されている。バーチャル空間を「広がり続ける宇宙みたいだ」なんていつか言った気がするけど、この世界の何処かに、その宇宙を追いかけている場所がある。
例え世界サーバが何らかの攻撃を受けて規模を縮小せざるを得ないことがあったとしても……きっとこいつみたいな、器用で頭も良くてトリガーも節約できるようなヤツはデバッカーとして生き残るんだろうな。
遠いな。
シンプルにそう思った。
「お前の容赦のなさ過ぎる攻撃のせいで、あたしが何をしようとしてるのかを見せられなかった」
「不意を突かれてなかったら別の展開になってたって言い方に聞こえるけど」
「あぁ。そう言ったんだ」
むっとした私の顔を見て、志音は尚も挑発するように笑った。来いよ、と言って腕を組んでいる。こいつがやるとラーメン屋のポスターみたいだからなんか嫌なんだけど、そのポーズ。
ただ、このまま舐められっぱなしっていうのも気に食わない。コテンパンにして「夢幻の弱点は美しすぎるところくらいだな」って言わせなきゃ。
私は右腕を上げて志音を指した。このジェスチャーには意味がある。私だって私なりに戦いの為にイメージを膨らませる訓練なんかしてるんだ。そのためにアイディアを考えたり。なんか中二病みたいだからいちいち言ったりしないけどさ。でも努力はしてるんだ。
「……!」
指を差された志音は、元々悪かった目付きをさらに悪化させて、私の攻撃を警戒する。この指を差すというジェスチャーには、「お前絶対ツブす」という意味がある。
【私はまきびしの国の女王で、まきびしちゃん達はみんな私の下僕で、そんなまきびしちゃん達が「夢幻ちゃんのムカつくものをブッ潰してあげるよ! さぁ潰したいものを指差してみて!」って言われた】という設定がある。私の中で。だから志音を指差した。
自分でも頭がおかしいとは思うんだけど、攻撃を集中させる一点を定める、というのは存外有効な手段だったりする。様々な攻撃のバリエーションについても、少しずつ慣れてきたのだろう。細かい動き一つ一つを意識せずとも、なんとなくで最適な動かし方が出来てる気がする。
要するに、指を差すというイメージの仕方は、私の成長の度合いに合わせた、極めて簡素で強力なイメージ補助、ということ。
デカい口を叩いてた志音にはちょっと可哀想だけど、本気で行かせてもらう。
私のアームズが志音に向かってビュッ! と飛び、そして今度こそ見事に命中……する前に、板にぶつかった。しかも不自然なくらい軌道を変えて。
私のまきびしちゃん達は次々と、掃除機に吸い寄せられるゴミの如く、板にぶつかっていく。
「はぁ!?」
「夢幻、これが【あたしが攻略して欲しいもの】だ」
「これって……」
「そうだ、磁力だ」
あの板……変だとは思ってたけど、まさか材質に仕掛けがあったとは。
いいよ、上等だ。やってやる。
こうして私は、志音とガチめにバトることにした。
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