第49話 なお、倒せればなんでもいいとする

 なんとか中間テストを終えてやっと日常に戻った私達に課せられたのはバグの撃破デリートであった。


 テストの時はどうだったか分からないけど、恐らくほとんどの生徒が未体験だろう。しかし先生の言う、全員とはどういうことだろうか。まさかクラスメートが一丸となって一体のバグを倒す、ということだろうか。確実に怠ける人間が出てくると思うが。私とか。


「小さなバグは座標登録のみをして放置されることがある。それらの処理に当たってもらう」


 座標登録とは、バグにGPSの発信器のようなものを付けることらしい。そうすることで別の部隊にデリートを託すことができる、と。強力なバグは登録が上手くいかなかったり、正しい座標が出ないことが多いらしいので、まさに雑魚用の対処法といったところだ。


 明確なターゲットがいる場合等、雑兵を相手にしている時間が無い状況はいくらでも考えられる。それを学生デバッカーが処理する。ある意味で理想的な流れだ。いきなり強い相手と戦うなんて、できれば避けたいしね。


「今回の実習は2つのペアで1小隊として動いてもらう」


 それを聞いて私と志音は顔を見合わせた。相手が雑魚とはいえガチンコの戦いだ。組む相手によっては地獄を見ることになるだろう。


 知恵と菜華のペアは、前回のテストでかなり話題になったようだし、競争率が高そうである。もし約束を取り付けるならば早い方がいい。彼女達が座っているであろうダイビングチェアを後ろから見つめながら、今後の算段をつけていると、知恵が乗り出してこちらに手を振ってくれた。有り難いことに、向こうも私達と組みたいと考えてくれているようだ。先生に怒られたくなかった私は、控えめに手を振り返した。が、このやりとりは一瞬で無に帰されることとなる。


「ペアはこちらで決める」

「えぇ……」


 知恵達と組めば一瞬でカタがつくと思ったのに……。これは思わぬ誤算である。というかこちらで決めるって、何を基準に? 眉間に皺を寄せて考えていると、鬼瓦先生は私の思考を見透かしたように続けた。


「直接攻撃が得意な者、遠距離からの攻撃が得意な者、サポートに特化した者、それぞれに適した役割がある。前回のテストではそれを確認させてもらった。テストの順位、役割を総合的に判断したチームだ。異議は認めない」


 そして彼は大まかな手順を説明し始めた。まずはそれぞれ特定の座標に飛び、バグを撃破。終了。


 いや大まか過ぎるわ。しかし、それ以上のことは各チームで話し合うようにと言われてしまった。彼の言う通り、作戦はアームズと敵のタイプによって変えた方がいいとは思うけど、それにしても味気無い説明で肩すかしを食らった気分だ。


 そうして次々にチームが読み上げられていく。最後のチームだ。先生がそう宣言して知恵達と男女のペアが呼ばれた。ねぇ私達は? 教師公認いじめとかこの学校ヤバ過ぎない? 先生は私達の名前を呼ぶことなく、次のフェーズに移ろうとしていた。


「先生。あたしら呼ばれてないんスけど」

「あぁ、そうだったな。すまないが、お前らはあとで個別に説明をするから待っていてくれ」


 先生はすぐに謝ってくれたけど、なんか蔑ろにされている気がする。今度ラーフルに会ったら言いつけてやろう。


 私達は後回しで何かがあるとして、知恵達は大丈夫だろうか。いや、厳密に言うと、あの男女のペアは大丈夫だろうか。あの変人は同性の私に対してもあの調子なのだ。男子なんか、知恵を視界に入れただけでもギターの弦でくびり殺されるんじゃないだろうか。


「……ということで、各チームのバグはモニターに表示されている通りだ」


 皆がモニターを食い入るように見つめている間、私達はぼーっと過ごしていた。その様子を見ていた鬼瓦先生が口を開く。


「さて、前回のテストの1位である札井・小路須ペア、2位の家森・井森ペアには比較的厄介な任務にあたってもらうことになる」


 私は確信した。まためんどくさいことになりそうだ、と。しかし、同時に安堵していた。組むペアが家森さん達なのだ。


 彼女達は2位だが、私達と硬貨の獲得枚数はほとんど変わらなかった。副賞に関わるポイントについては、金貨を拾いまくった私達が若干差をつけていたが、最後の火事場泥棒が無ければ確実に負けていただろう。つまり、彼女達は実質1位なのだ。それもぶっちぎりの。それが今回味方に回るというのだから、これ程心強いものはない。


「1位の二人に胸借りるつもりで頑張ろっかー」


 あははと脳天気な笑い声が聞こえてくる。二人は順位にそれほど執着していないのか、あのテストからも変わらず接してくれた。ズルをして出し抜かれたと怒る人がいてもおかしくないと思っていたのに。


 面倒なバグらしいけど、このペアと一緒ならどうにかなる。私は半ばそう確信していた。


「札井達への詳しい説明はあとだ。それよりも先に、先程言った先行部隊のダイブに移る」


 説明が後回し、ということは、恐らく私達は選考外なのだろう。気楽な気持ちで先行部隊の発表を見守っていた。


「先行部隊は乙・鳥調ペアと八木・木曽ペアのチームとする」

「えぇ!? あたしらかよ!?」

「乙達は広範囲攻撃を主体とし、八木と木曽はそれぞれ近接戦を得意とする。テストの成績からみても申し分のない、バランスの取れたチームだと俺は思う。お前らなら事前の作戦会議無しにチームとして上手く機能する筈だ」


 困惑する八木君達を他所に、知恵は大声を上げて驚いていたが、鬼瓦先生に誉められた瞬間おとなしくなった。分かりやすい奴め。


 客観的に人の戦いを見れるというのはなかなかいいかもしれない。4人がナノドリンクを飲んで準備を進める中、彼女らのダイブを心待ちにした。

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