異世界転生の終焉
すだちレモン
第1話 過酷な異世界
異世界転生、それは魔法が使えたり、異能が使えたり、華やかで夢のある素晴らしい世界だ。では、全て人間がそんな華やかな世界に転生出来るのだらうか?
記憶を引き継いで転生できるのだろうか?
否、それはない。当たり外れも勿論ある。それが運命とういうものだ。運命の呪縛からは誰も逃れられない。この物語は、1人の男の転生後から語られる物語である。
――――――――――――――――――――
あたりは、陽光が煌びやかに刺し、その海を輝かせていた。俺はその綺麗な海の海岸に寝ていた。
体には砂がこびり付き、砂まみれであった。
しかし、俺がなぜここにいるのかも分からない。名前も思い出せない。
「俺は誰だ ………」
全く記憶が無い、今まで何をしてきたのかも、俺は頭の中が果てしなく続く海のようになっていると感じた。何も分からない、それはかなりの恐怖に値する。
砂がついた俺は頭を抱えてガタガタと震えた。
「怖い…。自分が何者か分からない恐怖とはこんなにも怖いのか…。」
震えが落ち着くと、俺は自分が持っているものを調べた。そこにはペンダントと手帳が無残においてあった。
ペンダントは砂で汚れていたが、砂を払い中身を開けてみるとそこには写真が写っていた。可愛らしい茶髪の女の子の写真…。それを見た瞬間俺は急にその人が愛おしく感じた。今すぐにでも会いたい、そういう感情だ。
となりに写っているのは男の写真であった。しかし、この男は俺自身だとすぐに悟った。なんか理由があった訳ではない。本能的にそう感じた。
俺ではなきゃ困る…。
そして俺はもう一つの手帳を開いて見た。最初のページには名前・職業・年齢が記されてあった。
俺の身分証明書だ。
「名前 ヴィレム・アルクシュタイン
年齢 18歳
職業 勇者 」
それだけ記されてあった。そして、その手帳の1番後ろのページをみると、ただ一文だけひっそりと記されてあった。
「君は何者でもあって、何者でも無い。」
熟考したが全く分からないが、これは自分を知るための手がかりになるんじゃ無いかと感じる。そして俺は、海風が靡く砂浜に立ち上がった。
当面はこの職業で生計を立てるしか無い。勇者という職業はモンスターを倒さなければならないのか…?
まだ、分からない未知の世界に俺は孤独感を感じられずには居られなかった。
「まずは、街に行かなければ…。」
そう言って立ち上がった瞬間、固い感触がそこにはあった。慌てて砂を払うと、錆びた鉄剣が横たわっていた。砂で埋まっていたので全く気づかなかったが、非常に大事なものだ。
「街へ行くとするか…。」
そう言って俺は重い足を精一杯動かした。地面は石が敷き詰められ、家々は青く、海に映えていた。しかし、まだ1人も人間を見ない。
この街はゴーストタウンのように静かに静まり返っていた。
その時、遠くから大声がした。俺はその声が響いている方に俺は駆け寄った。そこには、人間とは形容しがたい、ツノが二本生えた黒い生物が立っていた。
「おい、お前今から魔王様に供給する魔力を集める時間だ。早く施設へ行け!」
「待ってください!いま、うちの娘が風で寝込んでいて、これ以上魔力を取られると死んでしまいます!」
「そんなの知らない!早く出せ!娘諸共消し飛ばすぞ!」
俺はすぐさま飛び出そうとしたが、足がガクガクと震えて体が思うように動かない。でも、このままじゃあの親子が危険なのは確かである。そして、俺は葛藤を振り切り怪物に向けて走り出した。
「おい、そこの怪物!その娘の分は俺が受ける。だから引いてくれないか?」
「誰だお前?見ない顔だな。」
「俺はヴィレム・アルクシュタインだ。」
「ほう、なら良かろう。感謝するんだなそこの農婦。」
そう言って俺は怪物に近づき後ろに隠してある剣で胸を突き刺した。
怪物は口から緑の血を吐き、俺を殺気立った目で見つめていた。
「良くも人間ごときが俺を…。」
「言い忘れていたが、俺は勇者だ。」
そう言って俺は剣を怪物から抜き、地面に倒れこんだ。しかし、農婦は笑顔では無かった。
「なんで、あなた…殺したの?」
その目は先に見える恐怖に震えていた。モンスターがいたから殺した。ただそれだけだ。
普通は、助けてくれてありがとうじゃ無いのか?
「魔王様の部下をこの村で殺したとなればこの村は壊滅だわ!どうしてくれるのあんた!」
「でも、こうでもしなきゃあなたの娘は…。死んでいたかもしれない…。」
「1人の命より、たくさんの命よ!あー、どうしましょう?やばいやばいやばい!!」
「あなたは娘の命大事じゃないんですか?」
「娘の命?そんなの知らないわ。魔王に支配されるこの村では他人の命なんて気にしてる暇わないの。」
「嘘だろ…。」
「本当だわ!みんなー、魔王軍のカナト様を殺した異端者が現れたわ!早く取っ捕まえて差し出すわよ。」
その時、家から一斉に人々が飛び出してきた。俺は恐怖から全速力で、村を駆け抜けて森へと向かった。
村人はまだ追いかけてくる。俺は分け目もふらず必死に走った。
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