悪夢塔
ミラ
悪夢塔
死とは怖いものであろうか悲しいものであろうか、いやまず何よりも死とは臭いものであると私は言いたい。死んだ人間は臭い。これは何人も否定しようのない厳然たる事実である。
大体人間というものは多かれ少なかれ生きているときから臭いものであるが、死ぬとさらに臭くなる。臭くて臭くて堪らなくなる。
「夢を見るんだよ、自分が死んでいる夢。自分の屍体から立ち昇る腐臭で鼻がもげそうになるんだ」
私は女に向かってそう言った。
女は黙って頷いた。
窓から悪夢塔が見える。あれが悪夢の原因だということを私は知っている。と同時にあれもまた夢の中の存在なのだということも私は知っている。
私はいつかあの塔に登らなければならない、そんな予感がする。
ならば――。
今から登っても構わないだろう。
「今から登ってくる」
私が言うと、女は黙って頷いた。
無口なのである。
悪夢塔に登るためには、まず悪夢塔を探さなければならない。悪夢塔はどこからでも見えるが、どこにあるかはわからないからだ。
私は部屋を出て、地上へと続く長い螺旋階段を降りて行った。
階段の途中で古い知り合いに出会った。
「君の家に行こうと思ってきたのに、お出掛けかい」
「そうなんだ。でもせっかくだからお茶でも飲んで帰ってくれ。僕はこのまま進むけど」
「そうするか。あの人にもずいぶん会ってないし」
古い知り合いはそう言って、私の横をすり抜けて階段を上っていった。
私の旅は続いた。
何年も、いや、何十年も続いた。
正確にはわからないが。
そのあいだ、色んな事があった。
思い出せないが。
そして――。
私は長い旅路の果てに、ついに悪夢塔へと辿り着いた。
悪夢塔に巻きついている螺旋階段を登り、頂上にある扉を叩いた。
しばらく待っていると扉が内側から開き、懐かしい女の顔が覗いた。
女は黙って私を迎え入れた。
部屋の中に入ったとたん、強烈な臭気が私の鼻を突いた。
悪夢塔 ミラ @miraxxsf
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