未来改変執行機関

二葉マキナ

未来改変執行機関

 時の持つ修正力は強大だ。

 人間がどれだけ足掻こうとも、必ず定められた未来に行きつくことしか出来ない。

 例えば、目の前に死があるとしよう。その状況であなたを確実に助けられるヒーローがやってきた。

 否、あなたは助からない。世界は、どんな方法を使ってでもあなたを殺すだろう。

 でももし、定められた未来を必ず捻じ曲げることが出来たとしたら?




「こちら、N.K。配置についた」

「Y:了解。五分後にメインストリートを通過、対象を狙撃せよ」

「こちら、N.K。了解した」

 雲の無い晴れた夜空。煌びやかな星の数々。この絶好の天体観測日和に空を見上げないのは、いささか馬鹿とでも言うべきだろうか。いやしかし、ユニコーンの鬣のような真っ白い髪を持つその青年には、今は眼中に無かったのだ。

「......」

 黒く長い銃身。ゆうに一メートルは超えている対物ライフルのスコープをのぞき込む者の姿がそこにあった。荒れ狂う風に飛ばされぬよう体と床をワイヤーで固定し、地上400メートルのビルの屋上からぐっと息を堪え、獲物がやってくるのを待っている。

 時折、冷たい風にさらされることで体が冷え、身震いをしたりする仕草はまだどこか幼さを残しているようだった。

 N.Kと呼ばれていた青年は、心の中でまだかまだかと焦りを見せる。五分という時間はじっとしている時が一番長いと彼は知っていた。故に、すぐに深呼吸をして自分を落ち着かせた。

「......」

 今回のターゲットは、そこまで強くない。いや、むしろ弱い方だった。何せ、後ろ盾の無いただの一般人も同然。本来なら、殺さなくてもいいはずの相手だ。

「恨み言なら自分に言えよ」

 第3級特異点。上層部にはそう名付けられた。主に第2級特異点の歯車的役割でしかないが、放っておくと必ず脅威となりうる。

 今回のケースは、大規模な爆弾テロを起こす実行犯に爆発物を売る仲買人だった。

「ザザッ──Y:そろそろだ」

 無線から連絡が入った。

「こちら、N.K。了解した」

 青年は余計な思考をカットして大きく息を吸いこみ、再度呼吸を整える。

「──これより、未来改変を執行する。対象は第3級特異点─code128」

 右目でスコープを覗き込み、対象の位置を正確に捉える。

「ふぅ──」

 そして、再々度深呼吸をし、息を止める。すると、全神経が研ぎ澄まされた青年の体感時間は加速。極限の集中状態へと入った。

 その瞬間、

「Go──ドンッッ!!!」

 青年の声の合図と共に銃弾は発射された。

 風を切り、時を斬る弾。

 それはゆっくりと超速で正確に対象の脳髄へと吸い込まれていく。

 スコープ越しには発泡音に気付いた対象がこちらの方へ顔を向けたのが見えた。

 しかし、時すでに遅し。

 対象は正確に眉間を撃ち抜かれ、そのまま地面に倒れた。

「こちら、N.K。対象を抹殺」

「Y:抹殺を確認。遺体は処理班に回収させる。未来改変完了、お疲れ様でした」

 ふぅと息を吐き、肩の荷を下ろす青年。

 そこで、ようやく彼は空を見上げ、満面の星々を拝むに至った。

 しかし、緊張による疲れがどっと出たのか、凄まじい眠気が一瞬にして彼を襲った。

「こちら、N.K。とても眠い。回収を要求する」

「Y:それは許可出来ない....しかし、その内誰かさんが勝手に回収に行くだろう?」

 それもそうか…と頭の中で言った青年はそのまま吸い込まれるように眠りに落ちた。



『改変者』

 それは生まれながらにして時の修正力に抗う力を持った人間、もしくは半人間のことを指す。

 彼らには定められた未来、冒頭の絶対死等を必ずねじ曲げ、ヒーローに助けさせることが出来る能力がある。

 そして、その『改変者』達を束ねるのが超秘密結社、



『未来改変執行機関』である。

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