物質の形態が維持できないほどドロドロに溶けたチャリンコ



 ひどく興奮して小説にならない。そんなことを書いている。そんな夢を見させられて、見させられてと言ったのは誰かにさせられたわけではない、概念に突き動かされたに過ぎないのだ。

 脳が眠っていかない……。


 やがて眠りゆくものとしては看過できない……。


 この粉から何が出来上がるかを当ててください。という写真とともに提示されたケーキミックスのようなものがあり、それに対する僕の応答は「体内に摂取されて人間の細胞が出来上がる」だった。

 想像の膣を思考の性器で掻き回しながら停滞していく人類の頭脳には本当に飽き飽きするものがあって吐き気がする。間も無く僕は射精と同時に死に至る。


 おぞましいまでの太陽がありとあらゆる地球上の薔薇を死滅させて星の王子様のような孤独を味わせる。

 友人が星の王子様が太宰治を読んでボクシングに目覚める物語を書いていたがそれは結局没になってしまった。僕ならその物語を次のように書くだろう。


 シュッ……シュッ……と息を吐きかけながら逗留する意識でもって駿足で打ち上げていくように大地を穿つ脚の体重で衝撃を見えない敵の居所へ向けてぶつけていく。

 僕は孤高のチャンピオン。薔薇を守るための羊を数える夢で目が覚めたときにはゴングが鳴り、試合は終わっていた。

 星の王子様、フライ級チャンピオン。勝者には薔薇の花束を送る。皮膚の筋肉質が白化した石造の表面に血管となって滲み出るような虚構の淡い。そんな詩的な血肉が湧き踊る熱烈の曼荼羅のタトゥーに唇を触れて、挨拶した。

 "Bonjour!"

 向こうも同じ返事をする。

 "Bonjour!"


 書店員を目指していると言ったらその友人はいじめられた経験を口にして苦い顔をしたかのような声色になった。

 書店員を目指していると別の友人に言ったらセクハラや万引きで心が休まらないだろうとその人の過去の経験から言われた。

 しかしわざわざ銀座で万引き?

 それはないだろう。僕は思った。


 ここは銀座の書店だ。

 接客業の経験の有無を聞かれ、したことはないと答えつつも人好きな一面をアピールした僕はいわゆる人間嫌いだということを暗にほのめかさない程度に言っていたのかもしれずその意味では確かに僕は不採用となるだろう。今やどこの本屋もシュリンクして流通産業に敗北を喫しているこの現状、僕よりも人当たりが良くて笑顔の絶えない人を選ぶに違いないからだ。

 しかし採用担当者はむしろ好きな本などを聞いてくるのだった。そしてうちはアート系の本が多いと言い、僕からアートの展示をしたことがあるという情報を容易に引き出させた。

 すでに夢の話は佳境に入り、僕は最後の方の夢でついに採用担当からの電話を受けた。それは僕を採用したいという旨の申し出だった。僕は快諾したものの、この夢の書店に勤めることの恐ろしさに感じ入っていた。

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