　作家・魯迅が書いた小説。魯迅はここに出てくる作家の中では唯一ずば抜けた記憶力を持っており、それが証拠に藤野先生殺害の証拠隠滅を図った痕跡が見られる。まず第一に彼はこの小説の中で小説中小説、メタフィクションを試みるのだが、作品の内実が世界そのものを曼荼羅のように表しているため、フィクションの精度としてあまり高いとは言えない。有名なのは「子どもを……救え」の一節で、これがために食人の小説の根本的な骨格ががしっと折られてしまい、かつ同時に子どものことまで考えていたとは思えない粗雑な内容が露呈するのだ。しかし作家魯迅としてはやはり優れたフィクションを書こうという意気込みが見られ、藤野先生殺害の容疑の晴れぬまま獄中記に移ったと見られている。