庭園

鳥ヰヤキ

庭園

 回廊の先では天井が崩れ、がらんどうの切っ先に青空の破片が引っかかっていた。太陽が白い光を燦々と振りまいて、床材の隙間を突き破って生える緑の萌葱を明るく瞬かせている。点々と、かつての生活の残滓の上で揺らぐ草花は、まるで緑の灯火のようだった。私はそれらを踏みつけながら、先へ進む。四方を囲むガラスの壁は所々歪んで割れて、支柱もひしゃげて……まるで瓶の底へと迷い込んだ虫にでもなった気分だ。

 そして……私は呆気なく目当てのものを見つけて、そのまま黙って凝視した。殆ど瞬きもせずに、睨め付け、射貫いて、いっそ踏み潰してしまおうか? とすら思いながらも……結局、その場に座り込むだけに終わった。乾いた笑いが漏れる。そのまま笑い続けていれば泣けるかとも、と思ったが、無駄だった。

 ……壊れた温室は、ガラス戸から溢れて力を取り戻した植物たちの奔流により、庭園へと姿を変えていた。もうこの地に、かつての栄華の証明など一欠片も残っていない。そこで死んでいる白骨死体――我が父は、何故ここに戻ってきたのだろう? 無駄なのに。家族も財産もバラバラに砕けた、ただの砂のお城なのに。

 花に囲まれて死にたい、なんて……思ったのだろうか? 柄でもなく!

 再び、笑いが漏れる。なんて馬鹿な男。――そうして私は、ようやく泣くことが出来たのだった。


 (終)

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庭園 鳥ヰヤキ @toriy_yaki

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