過去の記憶

 体に染みわたるような焼香の香りが立ち込める中、僧侶の読経が低く、淀みなく続いていた。座敷にしつらえられた祭壇に向かう、金糸の刺繍が豪華な袈裟を着たその背中は小さい。でも座敷内に鷹揚とした雰囲気をもたらしていた。

 畳の上で正座している足をさするついでに、皐月はちらりと後方に目を走らせた。

 開け放した縁側では、祖母と親交のあった人たちが焼香に並んでいる。通夜だけでなく告別式にもひっきりなしに人が訪れていた。悄然とした顔ばかりがあふれ、中には強面の顔にも関わらずすすり泣いている男性や化粧崩れを気にせず何度もハンカチで目元を拭う女性もいた。

 幼い頃に見て知っていた祖母の顔は、ほんの一部でしかないのだと改めて思う。

 空は祖母の笑顔を翳らせるように曇り始め、部屋の中を風が焼香の香りを攫うように吹き抜けていく。

 皐月は失いかけている足の感覚を労わるように、正座を少し崩した。同じように他の親族も、頭は神妙に垂れていても、時々身じろぎをしている。

 ふと視界に、斜め前の方で背筋を伸ばして座る白彦の黒いスーツの背中が入る。しっかりと前を向いて、遺影を見つめているようだった。その背中に、狐面の男の子のことを問いかけたくなるのをこらえ、そのまま視線をずらして僧侶の上の方で微笑む祖母の遺影を見上げた。

 祖母なら、狐面をつけた男の子のことに対して何か答えを返してくれたかもしれない。朝から堂々巡りで頭の中を占める、あの子が白彦である可能性や、あの子が人間ではない可能性や、なんやかやのことに。

 祖母がいたらと空しく何度か思い、とうとう耐えきれなくなって唇をかみしめた。言い訳と口実で、向き合わなくてはならない現実から逃げている自分が、情けなかった。

 本当はどんなことよりもまっ先に伝えなくてはいけない言葉があった。

 胸の奥で疼く棘に苛まれながら、それでも素直に語りかけるべき言葉は出てこない。祖母の遺影を見つめながら、皐月は無意識に両手を握りしめた。旋律をもったような読経の声が現実を曖昧にして、少しずつ自分が遠い記憶に呼び寄せられていくようだった。


 幼い頃、もっと高い位置の遺影を見上げていた時があった。

 遺影の顔が、白髯をたくわえたきつい表情の老人のものに変わる。祖父の葬儀の時のものだ。皐月は、裏庭の土蔵の前に、幼稚園に入ったばかりの幼さで立っていた。祖父がこの世を去ったということを、まだよくは理解できていなかった。

 土蔵の扉から、一心に手を合わせて拝む黒羽二重の着物姿の背中が見えた。祖母だ。まるで漆黒の着物の裾が蔵の中に溜まった闇と同化して、祖母の方が消えてなくなってしまいそうに怯えた。その喪失感を振り払うように思わず「おばあちゃん」と皐月は大声で呼んだ。

 振り返った祖母は、一瞬驚いた顔をしてからしわを深くすると手招きした。

 蔵の中はひんやりしていて、埃と湿った匂いがした。うっすらと陽の光が祖母の所まで差していたけれど、隅の方は届かない。暗がりにあるいろんな物の、見えないところに何かが潜んでいそうで、幼い皐月は音を立てて起こさないようにおそるおそる歩いた。

 祖母に近づくにつれ小走りになって、その着物の裾に抱きついた。


――じいちゃんさ逝っちまったこと、神さんに報告してたんだ。

――こんからは、ばあちゃんがここ守らななんねっぺ。


 皐月の肩を優しく叩いた祖母が顔を上に向けた。つられて見上げた蔵の一番奥に紙垂がさがった神棚があった。


――あそこさ、お天道さんと山ん神さん祀ってんだ。

――じいちゃんが毎日拝んどったけど、これからはばあちゃんがお役仕りますってな。


 屋敷の中の居間と土間にも大きな神棚はあったけれど、土蔵の中にも祀られている神がいる。まるで人目をはばかるように祀られた様子に、とても大事な神様なのだと幼い心で感じて、皐月は「私もお祈りする」と言って、小さな手を合わせた。

 祖母は皐月をえらいと褒めてくれ、それから一緒に蔵の外に出た。その時、祖母は鉄の扉を確かに閉めた。でも皐月は祖父の葬儀の最中に、再び一人で土蔵を訪ねたのだ。

 忙しそうな祖母に代わって、たくさんお祈りをしておこうと思ったからだった。

 参列する人たちで往来する表の喧噪と無縁のように佇んでいた土蔵は、なぜか扉が開いていたように思う。

 幼い子どもの足では決してのぼりやすくない高さのある階段をのぼって、中に入った。

 そして神棚に向かって歩きかけた時、「見つけた」と笑う声が聞こえたのだ。子どもの声だった。とても嬉しそうなトーンだったから、怖さより興味をひかれて皐月は左右を見回した。

「上だよ」

 楽しげな笑いと共に声が降ってきた。

 上を見上げると、蔵の天井近く、太い梁に腰掛ける男の子がいた。まさかそんなところに人が、しかも自分と同い年くらいの子がいると思うはずもなく、皐月は驚いて立ちすくんだ。天井裏に繋がる梁の辺りにまでは陽の光は届かず、ぶらぶらさせる草鞋履きの子どもの素足が見えた。

「だあれ?」

 問いかけると、またその子はクスクス笑った。

「だれだろうね、皐月ちゃん」

 ちょっと意地悪そうな響きが混じっている。声の持ち主は知らないはずの皐月の名前を楽しそうに呼び、立てかけられた梯子へ移動して梁からするすると降りてきた。

 それまで天井裏の片面がロフトになっていることも、梯子があってそこにのぼれるようになっていたことも知らず、皐月はただ呆気にとられたように相手の行動を見守っていた。

「こんにちは、皐月ちゃん」

 皐月の前に来たその子は、自分と同じ高さにある切れ長の瞳を細めて、おどけながら挨拶した。

「こんにちは。あたしの名前、どうして知ってるの?」

「どうしてかな」とその子ははぐらかしてからクスクスと笑った。

「ねえ、どうして?」

「だって僕、ずっと遊びたかったんだよ」と嬉しそうに笑った。まだほうけたように相手を見ている皐月に、きらきらした目で男の子は無邪気に笑って自分を指さした。

「僕、白彦」

「きよいこ?」

「き、よ、ひ、こ」

「き、よ、い、こ」

 うまく発音できない皐月に、男の子は肩をすくめた。

「じゃあ皐月ちゃんの好きに呼んでいいよ。皐月ちゃんだけが呼んでいい名前。特別だよ」

「特別? あたしだけ? ええっと……じゃあねえ……」

 皐月は目を輝かせると、よく父が考えこんでいる時のように腕を組んでしばらく悩んだ。自分だけが呼べる名前というのは、なんだか自分自身が大きな存在になったような気がして嬉しかった覚えがある。

「きよくん」

 そう呼んだとたん、目の前に立っていた男の子が少し驚いたように目を見張った。

「君……、今何かした?」

「え?」

「う、ううん、なんでもない。……うん、いいよ。皐月ちゃん専用だよ。これから皐月ちゃんが僕と遊びたい時、その名前を呼んでくれたらきっと遊びに来るよ」

 専用と言われて、気持ちが華やいだ。祖父母の家で新しい友達ができて、しかも特別扱いしてくれるのだから浮かれるのも当然だった。

 白彦は、初めて着た服の着心地を確かめるみたいに、自分の名前を何度も声に出していた。

 皐月も自分の舌になじませるように「きよくん」と呼んだ。

 白彦はまた驚いた顔をして、それから少しはにかんだ笑みを見せた。

「なんだか少し変な感じだよ」

「どうして? きよくんって嫌?」

 首を傾げると、白彦は慌てて頭を振った。

「ううん、嫌じゃない。皐月ちゃんにそう呼ばれると、本当の名前よりもそっちの方がずっと僕の名前だったみたいな感じ。変な気分だよ」

 白彦は少し不思議そうな顔で考え事をしてから、おもむろに「はい」とふっくらした小さな手を差し出した。皐月が手をのせるとしっかりと繋がれた。なぜか前から知っているような安心感が広がった。

 結局その後、はしゃぎすぎて表で母に怒られることになるけれど、この時の皐月は土蔵の神棚のことはもう忘れて、祖父母の家でできた新しい友達と遊ぶことに夢中になっていた。

 これが、皐月と白彦の出会いだった。

 どこにでもありえる、たわいもない出会いだ。このことを「おもいだして」と、白彦にそっくりな狐面の男の子は言っていたのか。考えても分からなかった。何かが足りない気がした。

 告別式はすでに終わりに近い。

 皐月は視線を祖母の遺影から白彦に移した。祖母の棺に供花を一輪ずつ入れるために喪主を先頭に親族が並んでいる。白彦は前にいる従兄弟と何か言葉を交わし合って、かすかに肩を震わせて笑い、慌てて場をわきまえるように俯いた。

 その瞬間、さらりと流れるように動いた髪に目を奪われた。通った鼻筋といい、無駄のない横顔の輪郭といい、本当にきれいだった。いや、きれいというより、美しいと言った方が近いかもしれない。父親である悟伯父も端正な容貌をしているけれど、そっくりとは言い切れないのだから、親族ならなおのこと。その端麗な容姿は、いったい誰からの血だろう。

 そんなことを思いながら見つめていたせいか、視線に気づいた白彦が少し振り返った。

 皐月を認めると微笑んで「大丈夫?」と口だけを動かした。頷いてみせると、安心したように頷いて前を向いた。そばにいた従兄弟がちらりと皐月に視線を走らせて、白彦を小突いた。

 悟伯父、依舞、そして従兄弟とくれば、そろそろ周りの親族もそういう目で見始めるだろう。そのことに少し物憂さを感じながら、順番が近づいてきた棺を見た。

 母が一輪、花をいれて、しばらく祖母の顔を見ていた。その背中がわずかに震えている。

 顔を見ることができる実質的な最期の別れに、堪えきれない泣き声がどこからかあがっている。

 皐月の番がきて、棺を見下ろした。

 目の前にあるこの肉体は、祖母そのものだ。

 渡された真っ白な菊の花を持ったまま、無言で祖母の穏やかな顔を見つめた。

 さようならとか、安らかにとか、別れの言葉は一つも思い浮かばなかった。むしろ後悔ばかりが胸を締めつけた。

 浮かんだ言葉はただひとつ。

 まだ、逝かないで。

 まだ、大事なことを伝えていない。

 奥歯を噛み締めた時、後ろにいた依舞が急かすように「お姉ちゃん」と小さな声で呼んだ。頷いて、祖母の顔の脇に菊を供えた。生気の欠片のない祖母の顔は、真っ白い菊に囲まれて蝋人形のように見えた。

 祖母の死は、まだ皐月の中に降りてこない。


「え、少し遅れてるの?」

「なんか渋滞らしくて。まあ十五分くらいのことらしいから、そんなに影響はないでしょ」

「やだわ、兄さんに言っとかなくちゃ。護兄さんどこにいるか知ってる?」

「なんか神棚がどうとか言ってたけど」

 皐月は、出棺まで軒先でこれからの動きを確認しあっていたおばたちの会話に出てきた神棚のことに気をひかれて、親族の輪からそっと離れた。

 祖父から引き継いで、祖母が祈りを捧げていた土蔵の神棚のことを思い出したからだ。

 誰の気配もない裏庭は、昨日と変わらず背丈の高い草を風にそよがせている。目の前に聳える土蔵の鉄の扉をぐっと押し開けた。

 耳障りな音が思ったより裏庭に響く。日中だというのに、土蔵の中はあいかわらずうっすらとした陽の光しか差さず、そこかしこで暗がりが息をひそめている。

 暗さを無意識に見ないようにしながら、まっすぐ奥まで歩いた。

 紙垂がぶらさがった神棚は、小さな頃よりは手に届く高さにあった。

 元はきれいな白木だったと分かる棚には、埃がかすかに積もって、隅には蜘蛛の巣が張っている。小さな椀に盛られた白飯は乾ききって、いつ供えられたのか分からない。毎日新しい水を張っていただろう杯には、縁に乾いた水の線がついている。

 祖母が眠ったまま息を引き取ったのは四日前の早朝。前日までいつもと変わらず元気だったというのだから、五日前までは欠かさず祈りを捧げていたに違いない。

 でも神棚は、そのたった四日間で急激に時間を経てしまっていた。

 祖父、そして祖母が屋敷の中の神棚と同じくらい大切にしてきた土蔵の神棚。忘れられている神様の存在が哀しくなって、皐月は少しでもきれいにしてあげようと、はたきや雑巾を探して辺りを見回した。

 埃にまみれ、使われてない道具や家財の奥に、朽ちかけた梯子があった。足をかける横棒の木がところどころ抜け落ちて、すでに梯子としては使い物にならないけれど、記憶の中にあった、まさに天井裏ロフトにあがる梯子だった。天井を見上げると、ロフト部分は残っている。でも一部の羽目板が傾いで、だいぶ傷んでいるようだった。ロフトに何が置かれているのか、もう知る人は少ないにちがいない。

 時の経過ははやいものだと頭の片隅で思いながら、皐月はようやく神棚の脇の方に置いてある和箪笥の上にはたきを見つけた。それに手をのばしかけた時、何かに服がひっかかった。あっと思う間もなく耳障りな音と舞う埃に体を縮める。

 それは鉄砲だった。壁に立てかけてあったらしい。赤錆びた鉄の部分や、埃で白くなっていた銃身が光の筋の中で露わになった。撃鉄を起こしたところで、弾を放つことはできないくらい、素人の皐月にも分かるほど老朽化している。

 もう顔も覚えていない祖父は、百姓のかたわら猟師の顔を持っていたとも聞いたことがあった。

 そのことを思い出しながら手をのばしかけたそばに、また錆びた鉄網の檻が置いてあった。動物を捕まえる仕掛けのついた捕獲罠のようだった。人の手でつくられたのか、ところどころ歪んでいるけれど、妙に気になった。

 近づいて触ろうとした時。


――さわるんじゃね!


 怒鳴り声が聞こえた気がして、皐月の体がぎくりと強張った。

 違う、現実ではない。昔の記憶だ。

 祖父の野太く掠れた声は、幼かった皐月にはただ怖かった。

 それでも必死だった。


――そいつは悪さばっかすんだ、こんまま放っておくわけにはいかねえ。


 錆びていない銀色の檻の前で両手を広げて、それを庇いながら幼い皐月は祖父を見上げた。祖父がどんな表情をしているのかは、逆光で分からない。ただひどく苛立っていることだけは伝わってきた。子ども相手だろうが、容赦しないのが祖父だった。


――皐月、どけ。聞きわけろ。もうそいつはこの世のもんじゃねえ。尾っぽが裂けてんだがら、山ん神さ返してやんなきゃダメだ。


 祖父が猟銃を肩からおろした。ガチャリと耳障りな音がして、同時に背後から低い動物の激しく警戒するうなり声が聞こえた。それに気を取られた皐月を、祖父は大きなごつい手でどかそうとのばした。皐月は怖い気持ちを必死で隠して、どかされないように檻にしがみついた。

 檻の中から、また低いうなり声が聞こえた。それでもひくわけにはいかなかった。

「そこにおんのは、皐月ちゃんか?」

 おじいちゃん!

 背後からの野太い声に、心臓が大きく縮んで皐月の口から悲鳴がもれた。

「あ、ああ驚かせたか。皐月ちゃんだっぺ?」

 記憶の中の祖父の声より若々しいことに気づいて、振り返った。祖母が亡くなった今、この本家をこれから盛り立てていく長男、そして母の兄であるまもる伯父だった。

 逆光で、農作業に向いたごついシルエットが扉のところに浮かび上がっている。

「……おじさん」

「なんだ、どうした。こんなとこに一人で」

 長男らしい穏やかな物腰で、土蔵の中に入ってくる。

「……おじいちゃんかと思うくらい声が……」

 親戚のうちでは話しやすい相手に、思わず皐月の本音がこぼれた。

 護伯父は驚いた顔をして、すぐに照れ臭そうに破顔した。

「歳を重ねるたんび、死んじまったじいさんに似てくんだわ。親子だからしょうがねえ」

 気さくにそう言いながらそばまで来て、皐月をまじまじと見て微笑んだ。

「忙しくてろくに顔も見てねかったけど、きれいになったなあ、皐月ちゃん。小せえ時はあんなにお転婆だったのに」

「あはは、いつの話のことです、それ」

 久しぶりに顔を合わせた親戚との間では、まるで示し合わせたように皆小さな頃の皐月の姿を語った。十五年もほぼ本家に来なかったのだから仕方ないとはいえ、自分はよほどお転婆で落ち着きがなかったらしい。よく一人でいなくなったとか、屋敷の中でも走りまわってたとか、そんな覚えはないのに人間の記憶はあてにならない。

「しかしばあさんが生きてるうちに会えたらよかったけどなあ」

 胸を突かれたように皐月は俯いた。

「ばあさん、いつも皐月ちゃんのこと気にしてたよ」

「……はい」

 黙り込んだ皐月に、伯父は話題を変えるように神棚を見上げてふと眉をひそめた。

「なんだあ、風子のやつ。神さん放っときやがって。見とけってあんだけ言っといたのに」

「ちょうど雑巾でもないかなと探してて」

 話題がそれた安堵を隠して笑みを浮かべた。

「おお、偉いなあ。風子に聞かせてやんべ」

「もうやめてくださいよー、風子おばさんに睨まれちゃう」

 冗談に答えながら、屈みこんで倒れた鉄砲に手を伸ばした。

「じいさんの鉄砲か、それ」

 ずっしりと、片手でもちあげるにはそこそこの鉄の重さが腕に伝わる。

「ああ、いいいい。後でやっから」

 伯父の言葉に甘えて身を引いた。

「ねえ護おじさん。おじいちゃんって猟師だったんだよね?」

「おお、そらもうバリバリのな。小さい頃は連れてってもらった時もあったけんど、オレは見込みなくてな。でもじいさんは、この辺では一番の腕利きだったんだ。猟友会の支部会長も務めてたしな」

 やはり自慢なのだろう、誇らしげに鼻をふくらませた。

「どんなの獲ってたの?」

「んだなあ、シカだのイノシシだの害獣が中心だったけか。ああ、たまにはクマとかウサギもいたか。あとは……キツネとかだっけかなあ」

「キツネ? キツネも猟の対象なの?」

 胸騒ぎがした。

「あ? ああ、この辺はキツネがたくさんいんだ」

「つまり、撃ち殺すってことだよね?」

「そりゃそうだべ。あ、いやお狐さんだけは違ったか」

 お狐さん。

 キツネの呼び方に特別な響きがあった。

「え? お狐さんって、キツネのこと?」

「あ? ああ……いや、まあ……キツネっちゃキツネだけども」

 言葉を濁しかけた護伯父に、さらに踏み込んで聞こうとした時、不意に水を差すようにスマホから鈴を転がすような音が鳴った。思ったより土蔵内に音がこだまして、慌てて電話に出る。

「もしもし、お姉ちゃん? どこにいんの? 家ん中探してもいないんだけど」

「ごめん、裏庭」

「ええー、なんでそんなとこいんの!? ママーお姉ちゃんいたー! お姉ちゃん、もうすぐ出棺だよ?! もうなにやってんのー」

「ごめん、今行く」

 電話を切ると、母の渋い表情が目に浮かんだ。苦い気分が胸の奥に広がり、知らずにため息がこぼれた。

「依舞ちゃん、しっかりしてんなあ」

「ですね、私と違って。母も依舞の方を頼りにしてるし」

 つい拗ねたような口調になったのに気づいたのは護伯父が先だった。

「んなことねえっぺ。泉水は気持ち表すのが下手だからな、本当は皐月ちゃんのことちゃんと頼りにしてんべ、分かりにくいだけだ」

「そう、かな」

 疑念が声に出て、伯父は皐月の肩を優しく叩いた。

「お母さんこと、もっと信用してやれ」

 頷いて、皐月は神棚の方に向き直ると手を合わせた。

 土蔵を出ると、中の暗さと外の陽の光のギャップに、一瞬目が眩んだ。

「いたー。お姉ちゃん、こんなとこに……。えー何これ、こんなとこに蔵なんてあったんだ?」

 辺りをうかがうように裏庭に入ってきた依舞が、私の姿を見つけてホッとしたような笑みを見せて駆け寄ってきた。

「なんか辛気くさいとこだね。何してたの?」

「うん、おばあちゃんが蔵の中にある神棚にいつもお祈りしてたなあって思い出して」

「へー神棚なんかあったの? 知らなかった」

 依舞がたいして興味もなさそうに私の肩越しに蔵の中を覗きこむ。

「うっわかび臭そう。こういうとこあたしダメ。気が滅入っちゃう。あ、護おじさん!」

 護伯父が土蔵の奥から姿を現した。

「依舞ちゃん、相変わらず元気いいねえ」

「おじさん。そこは、相変わらずかわいい、でしょ」

「そっか、そうだな。ごめんごめん」

 依舞はすぐに興味を失ったらしく、「もう霊柩車きてたよ。おじさんも急いだ方がいいよ」と言って早足で歩き出した。

 皐月はもう一度振り返って、扉の間からうっすら見える土蔵の内部を見た。

 幼い頃、あそこで何かあった。それこそが、あの狐面をつけた男の子が言っていたことのような気がした。いったい自分は、あそこで、何を、なんの動物を、かばっていたのだろう。


 すでに屋敷の外に集まっていた親族たちの隙間に体を滑り込ませると、護伯父を待っていた親族たちが、棺を霊柩車にのせるために動き出した。

「もういい社会人なんだからこういう時ぐらいしっかりしてちょうだい。恥ずかしい」

 皐月の姿を認めて、母が小さな声で抑えきれない苛立ちをにじませた。

「……ごめんなさい」

「まったくもう、育て方失敗したのかしら……」

 何度となく聞いてきた小言に目を伏せてやり過ごす。

 就職を機に一人暮らしを始めてからは、小言を聞く回数はだいぶ減った。でもだからといって母の中で皐月の位置づけが変わったわけではない。むしろ離れた分、その小言の重さが身にしみた。皐月がどんなにしっかりしようとしても、母の理想には、いつだって届かない。

 プアアアアアアアン!

 クラクションが少しざわついていた空気を裂くように長く鳴らされた。祖母の棺を載せた霊柩車がゆっくり屋敷を出ていく。、

 最近の東京では見かけないけれど、この辺りではまだ宮型霊柩車は現役だ。白木造りに金と黒の装飾が荘厳な宮をのせた車体はまばゆく、厳かにも華々しく火葬場へと送り出してあげるのが、死者への手向けなのだと聞いた。

 その場に残っていた誰もが手を合わせ、すすり泣く声が聞こえてきた。

 霊柩車を追うようにして長屋門までなんとなく歩き出し、そこから田んぼの向こうへと遠ざかる霊柩車を見つめた。

 しんみりした親族の気分を裏切るように、いつのまにか空は雲が薄くなって、その向こうの青さが透けて見えた。田んぼの苗は、どんな空の下でも変わらずに優しく揺れている。

 あの日、狐の嫁入りを見た幼いあの日。

 晴れ渡る空だったのに、急に薄い硝子玉のような雨が降ってきた。

「ここらではね、狐の嫁入りを見たら魂とられちゃうんだよ」

 そう教えてくれたのは、白彦だ。

 狐の嫁入りを目撃してからしばらくの間、皐月は長屋門から古宇利里山の林の方角を見るのが怖かった。そのことで、白彦はよく皐月をからかった。

 遊びに出かける時に、長屋門のところでわざと立ち止まって、林の方を指さすのだ。


――ほら、あそこ。狐の嫁入りだよ。


 そう言われて泣き出しそうになる皐月を、白彦は意地悪な笑みを浮かべて眺めていた気がする。でもそんな場面を、祖母は見つける度に「皐月ゃいじめんでね!」と怒っていた。

「狐の嫁入りを見たら魂をとられる……」呟くと、祖母が怖がって泣く皐月の頭を撫でた。その手は、しわだらけで、分厚かった。


――大丈夫だ。ばあちゃんが山ん神さ皐月んこと連れてくなって祈ってやっがら。


 山の神。

 土蔵に祀られた神に、祖母はいつも祈っていた。ひたすら畏敬と感謝とを祈りにこめて熱心に手を合わせている背中を、幼い皐月はよく扉口から見かけていた。だから皐月も見よう見まねで、土蔵に入った時は必ず神棚に手を合わせるようになっていた。

 名も知らぬ、どんな神かも知らぬ、土蔵の山の神。

 ふと脳裏に閃くような純白の光が掠めた。その光の中に淡い桜色が混じるようにして眼裏をだんだらに染め、ぞわりと背筋を冷たいものが撫でた。頭の隅で銅鑼を鳴らすように何かが、痛みを伴いながらしきりに主張している。

 さあさあと絹雨の音が聞こえてきた。あの日は朝から雨が降っていて、せっかく白彦と外で遊びたいと思っても、肝心の白彦の姿がなくて探していたのだ。

 小さな赤い傘をさしてうろうろしているうちに、土蔵に通じる建物の脇から不意に白彦が飛び出してきた。

「いた!」

 笑みを浮かべた皐月に、白彦は駆け去りかけた体をそのままに頭だけ振り返った。傘もささずに髪から服からすべて濡れそぼち、水滴を滴らせた白彦は怯えたように表情を歪ませていた。

「きよくん?」

 様子のおかしさに一歩近づいた皐月に、白彦はわずかに何かを言いたげに口を動かして、それから泣きだしそうな顔をした。

「きよくん、どうしたの? 誰かにいじめられたの?」

「さ、皐月、ちゃ……ぼ、僕……」

 声が震え、皐月の名前さえきちんと言えないほどに怯えていた。思わず手をのばして触れようとした瞬間、白彦は弾かれたように後ずさり、頭を振ると長屋門の方に引き止める間もなく、逃げるように駆け去った。

 呆気にとられた皐月は、白彦を追いかけることも忘れていた。

 その時、土蔵の方角からかすかに扉がきしむような音が聞こえてきた。

 一瞬、白彦の方に行こうか、それとも土蔵の方に行こうか迷い、好奇心に負けた皐月は音のした方を選んで歩き出した。こん、と小さな音がして、足元で何か光るものが転がった。

 それは青と金のビー玉だった。それが雨に濡れてきらきらしていた。皐月は「わあ」と声をあげて拾うと、ポケットの中にしまって裏庭へと足を向けた。

 裏庭は、雨の中で静かに呼吸していた。

 名も知らぬ草たちの向こうで、土蔵の扉がかすかに開いていた。日頃から必ずドアを閉めるように躾けられていた皐月は、その扉を閉めようと階段をのぼった。

 扉に手をかけた時、土蔵の中からかすかに甘い匂いを含んだ風が吹いてきた。さらに衣擦れのような音と、水の滴る音が誘うように聞こえてきた。不思議に思った皐月は傘を扉のそばに立てかけて土蔵の内側へ小さな体を滑り込ませた。

 いつもは暗い土蔵の中が、神棚の前だけぼうっと明るかった。ためらいもなく一歩足を踏み出しかけて、その場から動けなくなった。

 土蔵の奥に、足元まで届くまっすぐな黒髪の女性が背を向けて立っていたからだ。彼女が、知らない人だということはすぐに分かった。身につけた真っ白な着物も見たことがないほど透き通るように美しく、幼い皐月は目を奪われた。

 でもその女性がゆっくり振り返り始めた瞬間、なぜか怖くなった。それでも目が離せなかった。小さな体の中で恐怖とパニックが嵐のように荒れ狂い、皐月は声も出せず身動きもできぬまま扉の内側で突っ立っていた。

 振り返らんとした女性は、ふと途中で動きをとめた。そしておもむろに着物の袖で口元を覆った。

「……匂う……」

 近くにいるはずではないのに、まるで耳元で囁かれるような近さから声が聞こえた。とても涼やかで柔らかい声音なのに、芯は凍てついているような嫌悪感に満ち満ちていた。

「おお嫌じゃ……獣臭うてたまらぬ……」

 それは明らかに自分を拒絶する言葉だった。

 全身に大きな岩が降ってきたようなショックを受け、そのショックに頭が真っ白になると同時に光の洪水が皐月をのみこんだ。土蔵にいたはずなのに、自分の手さえ見えないほど真っ白の世界に放り出されていた。それはとても冷たくて、寒くて、体の底から震えがのぼってきた。

「お姉さん……」

 心細さに、さきほどいた女性の姿を探しても見当たらない。このまま一人取り残されることの絶望的な孤独感に襲われ、皐月は泣き出しそうになりながら動けるようになった体でぽつぽつと歩いては、立ち止まった。そして自分の体を見下ろした。体の感覚はあっても真っ白な光に侵されて輪郭を掴むことはできない。余計に不安と恐怖に追われ、再び歩いては立ち止まった。

「ママ……、パパ……。おばあちゃん、おじいちゃん」

 呼びかけても、誰も応えない。

「ママ、パパ」

 堪えきれなくなって、皐月はついにその場で泣き出した。

「ママあ、パパあ」

 誰の声もどんな音も聞こえない。自分のわんわん泣く声さえも、辺りの白い光に吸い込まれて、どこにも届かないように思えた。

「帰りたいよう、ママあ」

 呼んでも誰にも届かないのだと、そういう場所なのだとなんとなく分かり始めた時、ポケットの中で何かが音を立てた。手をポケットの中に入れると、ビー玉が熱をもっていた。

「きよくん……」

 小さく呟いた時、不意に白い光に金色の光が射し込んだ。そして遠くから皐月の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「……ちゃん、月ちゃん……! くそ、開かない……!」

「きよくん! きよくん!」

 まぎれもなく白彦の声だった。

 泣き叫んで、皐月は目の前の扉にすがりついた。いつのまにか光は消え、周りの風景はいつもの土蔵に戻っていた。そして自分は土蔵に入ってきた時の位置からまったく動いていなかった。

 もちろん神棚のところに、その女性の姿は、影も形もなかった。

「……ちゃん、……月ちゃん、皐月ちゃん、」

 呼ぶ声がすぐそばで聞こえて、皐月はハッと振り返った。

 白彦が心配そうに自分を見ている。

「もう火葬場へ出発するよ。……大丈夫?」

「……う、うん……」

 記憶を反芻して、返事が曖昧になった。

「本当に大丈夫?」

 そう言って、白彦は熱を確かめるようにさ月の額に触れた。

「え、あ、だ、大丈夫だよ」

「ほんと?」

 心配そうな白彦を安心させるようにしっかり頷いて見せた。

 再会した大人の白彦は、とても優しい。年月はあっという間に子どもを大人にして、男の子を男に変える。皐月が知らない時間をもつ白彦に、狐面の男の子や、出会った頃の白彦を重ねる方が難しいのかもしれない。

「……きよくんて、意地悪なのか優しいのか分からない」

「えっ、え、そうかな……なんか思い出したの?」少し罰が悪そうに白彦は切れ長の目でちらりと皐月を見た。

「うん、狐の嫁入りのことで魂とられるよって」

「……うん、まあ……なんていうか、古い言い伝えなんだけど、ここら辺の子どもは小さいうちからいい子にしないとそうなるって言われて育つから……」

 困った顔で言葉を濁す白彦に、皐月は小さく笑って長屋門から離れて歩き始めた。

「……私、小さい頃、うろ覚えだけど、この門のとこから見てると思う、その狐の嫁入り」

「うん、おばあちゃんに聞いた」

「じゃあ、私やっぱり見たんだ。自信なくなってたけど……おばあちゃんが信じてくれてるってことは」

 それはきっと、祖父もだろう。母と父が子どもの熱が見せた幻覚だろうと笑っても、あの二人だけは、ひどく真剣な眼差しをしていた気がする。

「……ねえ皐月ちゃん」

 呼ばれて振り返ると、白彦は立ち止まったまま、深く思案するような瞳で皐月を見つめていた。

「皐月ちゃんは、何が知りたいの?」

 祖母の葬儀で久しぶりに訪れた本家で、自分は、幼い頃のひどく曖昧な記憶を、まるで何か見知らぬ力に導かれるように断片的に思い出し続けている。その記憶に連なるように、得体の知れない狐面の男の子とも出会った。導かれた先には、もの言わぬ、でもそれ以上に皐月を惹きつける土蔵があった。

 山の神、狐の嫁入り、とられてしまう魂。

 祖母の死をきっかけに、自分に深く根をおろす何かが、暗闇に隠されてきた何かが引きずり出されようとしている。その何かを、自分は知らなくてはならない。

「分からない。……でも知らなくちゃいけない気がするの」

「……言い伝えはあくまで言い伝えだけど」

 白彦は小さくため息をつくと皐月を追い越して、火葬場に向かう貸切バスへと歩き出した。

「すべてが嘘なわけでもない。真実なわけでもない。ここら辺は古い土地だからね、そういうのはひどく曖昧なんだよ」

 何を言いたいのか分からず、前を歩く白彦の背中を訝しげに見つめた。

「だから、あまりそういう方面に深入りすると、戻れなくなることもある……。それでも?」

 振り返った白彦の、どこか諦めの色を帯びた哀しい瞳を皐月は見返した。

 深入りすると戻れないというなら、もうとっくに戻れない。

 祖母を亡くした時点で、自分はもどれる道を一つ失っている。

 いや、もしかしたらあの日、狐の嫁入りを見た時からすでに道を違えていたのかもしれない。

「……それでも、知らなくちゃいけない気がするの」

「そうか……」

 白彦はかすかに口を引き締めるように結んで、それから皐月との間に流れる空気を一掃するように晴れやかな笑みを浮かべた。

「じゃあ、僕は皐月ちゃんが満足いくまで、できることをしよう。どうかな?」

「そんな。私個人の問題なのにそんなのわ」

 皐月の言葉を遮って、白彦が頭をふった。

「僕はおばあちゃんのことも皐月ちゃんが小さい頃のこともこの土地のことも知ってる。僕だから役に立てる」

「でも」

「僕を使ってほしいんだ」

 どこか切迫した響きに、それ以上否を唱えられず、貸切バスに乗りこむ白彦を見送った。

 その頑なな背中に、まただ、という気分になった。白彦が、こうして自分のことより皐月を優先するのは、今が初めてじゃない。それをなぜ、と問うのも初めてではない気がするのに、どうしてもなぜと口にするのはためらわれた。


 バスの中はすでに母や伯母、近しい親族が乗り込んでいた。弔問客の目に気を張ってきたのが緩んだのか、親族の間に流れる空気は少し気怠げで、でも落ち着いている。

「白彦くん、悟しってっか?」

「え、いや……。親父まだ乗ってないんですか?」

「さっきまでいたっけが、まーたどこ行ったんだっぺ。いねくねっちまってよー」

「……探してきます。親父見つけて車で追っかけます」

「おう、頼んだ」

 呆れた表情に苦笑いを浮かべて、白彦は後ろから乗りこんだ皐月に肩をすくめて見せた。

 乗り込んだばかりのバスを降りていく背中に思わず「気をつけて」と声をかけると、白彦は振り返って微笑んだ。

 なぜかその笑みが遠くなった気がして、皐月は「一緒に」と言いかけた。でもそれは風子伯母の呼ぶ声にかき消された。

 自分の隣の席に誘う風子伯母と、バスの乗降口で皐月の言葉を待つ白彦の間で迷っていると、白彦は「また」と柔らかく言い置いてバスを降りていった。

「邪魔しちゃった?」

 こそっと風子伯母が耳打ちして、隣に座った皐月は頭を振った。

 風子伯母の余計な詮索から逃れるように、頭を傾けて、ゆっくり走り出したバスの窓から広がる里山と田んぼののどかな風景を見つめた。

 農道を舗装した道路はカーブや坂道が多く、どこまでも平坦なわけではない。集落からは離れた山間の町の火葬場に向けて、バスは静かにゆるゆると走った。やがて古宇里山に沿った道路にさしかかり、狐の嫁入りの列が消えた林がバスのすぐ隣に迫った。

 何かを探すつもりでも、もちろん狐の嫁入りの列を見つけるつもりでもなかった。でもふと走るスピードで動く視界の中で、林の奥の方に赤い色彩が見えた。

「えっ」と息を飲んだ皐月の視界に現れたのは、傾いて朽ちかかる赤い鳥居だった。

 そこに人影が見えた。

 下草や笹が繁茂して、本来あった道が塞がれて人一人しか通れなさそうな奥。少し高い位置にあるらしい赤い鳥居のそばにいたのは、悟伯父だった。

 慌てて体を起こし、窓にへばりついた。

 流れ去る景色の中で、立って、通過していくバスを、いや皐月をまっすぐ見ていた。

 とたんに背筋に悪寒が走り、心臓を締めつけられるような痛みが走った。あまりの激痛に一瞬息が止まり、ぶわっと脂汗が全身の毛穴から吹き出した。思わず目の前のバスの背もたれを掴んでうめき声が漏れそうになるのをこらえる。

「どうしたの?」

 喘ぐように息をつく皐月に、うとうとしていた隣の風子伯母が異変を察知して顔をあげた。

「皐月ちゃん? え、大丈夫? 具合悪いの?」

 風子伯母が皐月の肩に手を置いた。その瞬間、不思議なほどに痛みが消え、息が楽になった。

「皐月ちゃん?」

「だ、大丈夫……。ちょっと動悸がしただけ」

「動悸、って……そんな生易しいもんには」

 本当に幻のように痛みは消え去っていた。無理のない表情をしているのが分かったのか、風子伯母は少し表情を和らげた。風子伯母の疑念を振り切るように、皐月は笑みを浮かべると窓の外を指さした。

「それよりもその、今そこの林のところに鳥居があって、そこに悟おじさんがいたように見えたんだけど……」

「え、悟兄さんが? ちょ、ちょっと運転手さーん、停めてえー」

 皐月の言葉を聞くや否や、風子伯母が大声をあげてバスをとめた。ざわつく親族に「悟兄さんがいたみたいなのよ」と言いながら、風子伯母が急いでバスを降りて、小走りで木々の間から見える赤い鳥居の方に走っていく。

 言い出した皐月も慌ててついていくと、風子伯母が道路から林の奥をのぞきこむようにした。

「いやあねえ、荒れちゃってるじゃない。最近は近所の人も面倒見てないのかしら。昔はお参りできるよう掃き清められていたと思うんだけど」

「……神社があったなんて知らなかった」

「うん、何神社って言うんだったかしら、まあ土地の神様を祀っているんだから、こんな粗末な扱いは問題だわねえ。おばあちゃんが見たら本気で怒るわ。兄さーん、悟兄さーん! いるのー?!」

 さすがに薮が覆い被さりかけている道を割って入っていくほどの余裕もなく、道路から木々の奥を必死でのぞきこむ。

「悟おじさーん!」

 ただ木々のざわめきと、時おり野鳥が鳴き交わす声だけが聞こえてくる。人気はない。鳥居は赤い塗りがはげて地の木目があらわになっている。石の階段は、苔とシダに覆われるようにして、ところどころ崩れている。下からは見えないけれど、山の傾斜に沿った石段をのぼった上には、きっと社があるのだろう。

 こんな場所なら、狐の嫁入りが現れてもおかしくない。そんなことをぼんやり思いながら周りを見渡した。

「うーん、いないみたいね。ま、白彦くんが見つけて連れてくるでしょ」

「見間違いだったのかな……」

 確かに見たはずだった。腑に落ちないまま風子伯母と来た道を引き返してバスへ向かう。

 その時、背中に視線を感じて振り返った。でもそこにはただうすぼんやりとした暗さの中で草木が揺れているだけだった。


 揺れるバスの中で、すっかり目が覚めたらしい風子伯母は、皐月に飴をくれるとしばらく悟伯父の愚痴をこぼした。

「……奥さんに出ていかれてからというもの、まあ落ち着かないっていうのか、なんていうのかしらねえ。前からどっか浮世離れしていたけど、それに拍車がかかって。白彦くんも浮世離れしてるけど、それでもしっかりしているから。まったく、この大事な時にふらふらと。まあ近くに住んでるから自宅にでも戻ったのかもしらんわね」

 そういえば白彦も同じ集落に住んでいると言っていた。「おばあちゃんの家に近いんだよね」と言葉を挟むと、風子伯母は頷いて、さきほどの神社がある山の方向を差した。

「そうよ、お山のすぐ裾のところ。男の二人住まいだから心配なんだけど、……皐月ちゃん、今度場所教えるから行ってみなさいよ」

 口の中の黒飴を転がしながら聞いていた皐月は嫌な予感とともに、隣の風子伯母を振り向いた。その目に茶目っ気が宿っている。やっぱりそう見られてしまっている。軽い頭痛を覚えながら、曖昧に笑みを浮かべた。

「まあ、気が向いたら……」

「そんなこと言わずに。最近、白彦くんといい感じじゃない?」

「そんなことないよ。久しぶりに再会して、いろいろ積もる話があるだけで。それより」

 このままでは面倒なことになりそうだと思い、強引に話題を変えた。

「あの神社、だいぶ朽ちかけてるけど、このままでいいのかな?」

「え? そりゃ……よかあないわよ。でも勝手にできるもんでもないからねえ……」

 話題が変わったことに少し不服そうな顔をしながらも、風子伯母はまた飴をくれた。口の中の飴の甘ったるさが、今は少し重い。

「光子さんら、ちょうど建て直しで予算おろせんか村長に相談しとったとこだったべ」

 不意に隣からしわがれた声がした。

「小里のおばちゃん」風子伯母がそう呼んだのは、葬儀の采配を護伯父とともにしてきてくれていた手伝いの小里という女性だ。幼い頃から本家に遊びに来ていたけれど、めったに顔を合わせることもなく、顔を合わせてもいつも厳めしい顔をしていて、どこか苦手な相手だった。

 母など他の地方に嫁いだりした身内でも、どこか敬遠されている。でも祖父母からは絶大な信頼を得ていた。

「そうなの? で、予算おりるって?」

「わかんね。でもだからっちゅうてあのままにはできねえ。光子さんさおらんくなって、一気に荒れっちまったっぺ。光子さんが守ってだがらな」

 声に咎めるような響きがまじり、風子伯母が目に見えて慌てた。

「え、やだ、そうなの? だって知らなかったし」

「知らんじゃすまんこともある。あれはここにゃ大事なお社だかんな」

「小里のおばちゃんの方がよく分かってるんじゃない?」

「……おらにはなんもできん。本家筋のもんだけができることだっぺよ」

 風子伯母は小さく肩をすくめて、「ちゃんとします……」と言って、それ以上関わりを避けるように皐月に身を寄せた。

「怒られちゃった」あまり応えているようには見えない風子伯母は、そのまま過ぎ去った社のあった山の方に視線を走らせた。

「小さい頃はよく連れられてお参りに行ったもんなんだけどねえ。皐月ちゃんのお母さんは早くにこの土地から出ちゃったからそうでもないけど、おばあちゃん始め、本家の人たちは皆信心深い人だから」

「風子伯母さんも?」

「うーん、自分じゃ意識してないけど、そうかもしれないわね。なんだかんだ護兄さんも私も、小さな頃から神棚を大事にするよう躾けられてきてるから、ことあるごとに手を合わせてるかもしれない」

「裏の土蔵にある神棚も?」

「よっく知ってるわねえ。あそこ、おばあちゃん以外誰も近づかないと思ってたのに」

「え? あの、おばあちゃん以外近づかないって、風子おばさんもお母さんも?」

「そうよ」

「だから? 護おじさんが、風子おばさんが神棚の掃除してないって」

「え、やだ、そう言ってた? 分かってはいるんだけどねえ、だって気味悪いのよ、あの土蔵」

「なんで?」

「なんていうのかしらねえ、ちょっと普通じゃないっていうか」

 顔をあげて、風子伯母は少し考えるように口をつぐんだ。

「この辺り一帯って、昔からキツネに因縁があるところなのよ」

 護伯父もこの辺りはキツネが多いと言っていた。

「さっきの神社があるお山もそう、キツネがたくさん住むっていわれててね。しかもこの辺じゃキツネってあまりよくないものとされてきたの。キツネに化かされたとか、連れていかれたりとか、いたずらされたりとか。だからお狐さんって呼んで、崇め奉る風習があったとか、ね。本当か嘘かは知らないけど、まあ年寄りはそんな話をしてたわねえ。さっき悟兄さんがいたように見えたのも、おばあちゃんたちならお狐さんに化かされたとか言ったんじゃないかしら」

 どこか懐かしむ響きとともに風子伯母が軽やかに笑った。どこか他人事のような雰囲気に、祖母や護伯父と違って伯母があまり言い伝えや風習に重きを置いていないのが分かる。

「だからね、おじいちゃんとか、猟をしてた人たちは、厄除けっていうのかなあ、まあお狐さんをつかまえたら悪さしないようにって山の神様に返すのよね」

 どきりと鼓動が大きく波打った。

 祖父が山の神様に返すと言っていたのは。

 護伯父がキツネも猟の対象だと言っていたのは。

「それって、その……」

「ああ、生け捕りにして、しかもそれを土蔵の神棚にお供えするの。生きたままでよ? 一思いに殺しもしないのよ? そんなの嫌じゃない、動物が飢えたり撃たれた傷が元で弱っていく姿を見るのって。獣くささと死臭っていうのか、生臭い匂いもするし。しかもその死骸があのうす暗い土蔵の中でお供えされてるのよ。今でも思い出すとぞっとしちゃう。それ知ってるから、近づきたくないのよ」

 わずかに眉をひそめた風子伯母は、動物の命を奪う行為よりも、土蔵で見られる光景の薄気味悪さに体を震わせた。

「お狐さんって、崇めてるのに?」

「うーん、なんていうのかしら。現世の肉体に閉じこめられている魂を山の神様のもとに還すってう感じかしら。ここでは、お狐さんにはそうすることが正しいと信じられてきたのよ」

 土蔵にあった猟銃と錆びた檻。

 そして祖父が怖い顔で返さなきゃいけないと怒鳴ったそれの正体。

 ――狐だ。

 自分はあの時、狐をかばったに違いない。

 直感を裏付けようと、必死で記憶を探った。

 祖父、……祖母もいた。

 そして檻の隅で丸まっていた小さな生き物。どこか怪我をしたのか、赤黒い染みが白い毛にこびりついて痛々しかった。まだ子狐に見えるその命を守るのは、自分しかいないと思ったのだ。

 それからどうなった? あの狐の子は。

「ねえ風子おばさん、もし捕まえたキツネ……お狐さんを山の神様に返さなかったらどうなるの?」

 お狐さんを殺して山の神に還すことが、祖父たち、この土地に生きる者が守ってきたならわし。

「さあ? よくは知らないけど、あんまりよくないんじゃない? そういうのは護兄さんがおばあちゃんから聞いてれば詳しいと思うけど」

 少し困ったような顔で、風子伯母は肩をすくめた。かといって、さすがに喪主で忙しくしている護伯父に今聞くような話でもない。

「お狐さんは悪いもんだ。だがら山の神さんに退治してもらわにゃバチがあたる」

 急に強い口調で言葉を挟んだのは、ずっと眠ったように目を閉じていた手伝いの小里だった。思わず驚いて小里を見た皐月を、小里はしわに埋もれた小さい目で鋭く見た。

「奉納しなかったお狐さんは、そのまま悪いもんとなって、人さまに悪さする。うっちゃってはおけん」

「でもそれは昔の話でしょ?」

 風子伯母が少し呆れたように小里を見た。

「今も昔もねえ。お狐さんを供えなくなってから、いろいろ悪いもんが入ってきてんべ。風子さん、あんた分かんねのけ?」

 また咎める響きが混じって、風子伯母が戸惑ったように口をつぐんだ。

「あの、普通のキツネがそのお狐さんになるんですか?」

「んだ。そこらにおるキツネが長生きしすぎっと、悪しき力をもつようなる。すっと、尾っぽが裂けてくんだ。んだがら、あんたのじいさんも尾裂きのお狐さんだけを撃っとった。普通のキツネは撃たねえ」

 祖父の言葉がよみがえった。

 皐月がかばったのは、ただのキツネじゃなかった。尾が裂けていると、だから山の神に返すのだと。

 ぞくっと背筋に冷たいものが走った。

 幼いとはいえ、皐月は何も知らずに、この土地の禁忌を侵してしまったのだろうか。というより、祖父母に禁忌を侵させたといった方が正しい。

 うすら寒くなり、思わず皐月は両腕で自分の腕をさすった。

 自分は、この土地のことを何も知らない。

 改めて白彦が、戻れなくなることもあると言っていたことを思い出した。

 あれは、警告だったのだろうか。


 火葬場の控え室で親族の話の輪には加わらず、外の空気を吸ってくると言い残して出た。悟伯父も白彦もまだ姿を現さない。そのことへの一抹の不安とともに火葬場の煙突を見上げた。

 祖母は約一時間半で肉体をなくし骨だけになる。もうどこを探しても、祖母の姿はないのだ。

 そのことがひどく空虚で現実味をともなわなかった。しかもこの期に及んでもまだ泣けない自分がいる。すべての出来事がまるで薄靄の向こうの現実のように、ぼんやりしていた。

 なんとなく火葬場の周りを歩いて、その裏手に足を踏み入れた時だった。

 言い争っているような声が聞こえてきた。近づきたくないと踵を返しかけて、ふと自分の名前をその声の中に聞いた気がして立ち止まった。

「さっさと手に入れればいいものを、なぜこう、もたもたしているのだ」

 苛立ちをぶつけるような声音は、悟伯父のものだ。とすると、話す相手は白彦にちがいない。

「僕にとって彼女は物じゃないし、搾取する相手でもないんです。人間だとしても、考えも感情もしっかりある、僕と同じ命ある者なんだ」

 建物の物陰からそっと伺うと、悟伯父と白彦が対峙するようにいた。悟伯父の顔は木立に隠れて見えず、白彦の横顔ははっきり見えた。その顔は皐月が今までに見たことがないほど険しい。

「命あるものなど、人間の他にいくらでもおる。いちいちそれにかかずらっていたら、我らの身の方がもたぬ」

「でも僕には、人間とかそういうこと以前に、彼女はただ本当に大切な存在なんです」

「ならば、それこそそばに置けばよかろう。たやすいことではないか」

「違う……そうじゃない、そういうことじゃないんです。なんといえば伝わるのか……、命をもつ存在は無数にあって、人間だろうとオキアミだろうと僕らには同じ消耗品でしかない。……前はそう思っていました。でも今は違う。たった百年も生きられない命なのに、いつだって誰かのために、自らがいなくなった未来のために、怒り、笑い、泣き、悲しむ……その生き方が僕には尊い……切なくて、愛しくて、たまらなく羨ましいんです」

「……だから、そこまで心を傾けるなら、力でもってそばに置けばよかろう? 仮にあの娘のそばにいられたところで、その命は我らに比べて脆く短い。お前はまた残されるのだぞ? 忘れてはおるまい?」

「それでも、それでも彼女は、人として生きるその自然のまま、ありのままでいてほしい。そうでいるからこそ、あの輝きがあるんです。僕が手を加えたら、それはもうまがい物だ」

「そこまであの娘にしてやる意味が分からぬ」

「理屈でも説明できるものでもありません。彼女が僕を助けてくれたあの瞬間、僕は囚われた。僕はただ彼女のそばにいたい。それ以上のことは何も望まない」

「ならば、あの娘の代用で賄うか?」

「それは、……それは、できません……」

「戯れ言を……自ら死を選ぶつもりか? ……のう白彦、いつからそんな腑抜けたことを言うようになった? こちらに出る時、いずれその魂を喰らいたいがためだと言ったことを忘れたか? それゆえに同胞も我もお前に許しを与えたのだ。自覚しておらぬわけではなかろう? さっさと喰らわねば、お前は近く朽ち果つ。下手すれば娘よりも先だ。ためらう時間など残されてはなかろう!」

「それでももう僕には……できない」

「白彦、もう少しではないか。もう少しで、あれほど望んでいた力が得られよう?」

「……あとひとつで、僕は圧倒的な力を手に入れられる」

「そうだ」

「……でももう……そこに欲しいものはないんです……」

 聞き取りにくいところがあるだけでなく、さらに白彦の声のトーンが弱く落ちた。

 皐月はその場から動けなかった。彼らが話す内容があまりに現実離れしていて信じられない。でもだからといって嘘をつく理由も見えなかった。二人の場に出ていく度胸もここから去る潔さもないまま、皐月はただ息をつめていた。

「同胞の中でも稀有な力を手に入れられるその幸運を、自ら手放すか……なぜ、なぜそうなったのだ、なぜ……」

 苦々しげな悟伯父の声もまた、トーンが落ちた。

「あの子が、僕をきよくんと呼んでくれたあの日、まるで新しい命を吹き込まれたみたいだったんです……。僕こそが、あの子に魅入られてしまった」

「分からぬ……もう一度考え直せ。これから何百年何千年と生きる中で、またお前が目にかけたくなる娘も現れよう?」

「……そうかもしれません。でも」

「でも?」

「あなたの気持ちは嬉しいです。父と母を一度きに喪った僕に一番目をかけてくれた。でも、……あの子が、哀しいほどに愛しいんです。例え彼女を失っても、彼女以外に僕が心を砕きたい相手は他にいない。僕だってこんな気持ちを抱くなんて予想もしなかった」

 懇願するような白彦の声音にかぶるようにして、くぐもったような卑屈な笑いが重なった。

「もうよいわ。やはり我には理解できん。しょせん人間は人間。たかが人間の女一人、我らよりも大切などと愚かな」

天白てんぱく

「白彦、選べ」

「……っそれは」

「我らか娘か」

 白彦の表情が苦しげに歪むのが見えた。無意識に握りしめていた皐月の手は、力を入れすぎたのか白く筋張っている。

「……選ぶことなど、できない。僕には両方、」

 押し出すような白彦の言葉が最後まで終わらぬうちに木立が動いて、悟伯父の姿が現れた。

「残念だ、白彦。貴様はもっと賢いと思っていたがな。裏切りのその重さ、覚悟しておけ」

「天白! 待ってください!」

 悟伯父が皐月のいる方に向かって歩いてくる。身を隠す場所もなく固まっている皐月が視界に入っても、悟伯父は表情も瞳の色も変えない。そのまま皐月のそばを通り過ぎるかと思われた時、悟伯父はぴたりと真横で立ち止まった。

「まさかミイラとりがミイラになるとは」

 あきらかに侮蔑をこめた物言いに思わず皐月は悟伯父を睨み返した。でもその瞬間、皐月を硬直させたのは、切れ長の瞳がたたえた底知れない嫌悪と忿怒だった。鳥居で見かけた時以上に、激しい敵意に一気に怒りが恐怖に変わる。

「皐月ちゃん!?」

 白彦が走り寄って皐月を背中に庇うように立ちふさがった。

 悟伯父は視線だけで皐月と白彦を交互に睨め付けて鼻で笑うと、そのまま何も言わずに立ち去った。

 その背中を見送る余裕さえなく、歯の根が合わないほどの震えがのぼってきた。抑え込もうとしても震える皐月に、白彦は一瞬だけ触れるのをためらってから、空気をとらえるように皐月を抱き寄せた。皐月はふらつきそうになる体の支えを求めるようにその腕にしがみついた。

「大丈夫だよ、皐月ちゃん。僕がいるから」

 どこかで呼応するようにもの悲しく鳥が鳴いた。

「……僕が、守る」

 白彦は、それ以上何も言わない。ただ力強いぬくもりが、皐月を安心させるようにそばにある。それでも皐月の震えはおさまらなかった。

 たったひとつ、突然浮かび上がった直感を、その時の皐月は必死で打ち消そうとしていた。

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