さすらい猫と、酒場の彼女。
さすらい猫はさすらって、
さすらい続けてどこへ行く。
さすらい猫は黒いので、
お酒を飲んでも変わらない。
瞳の色も黒いので、
どこまで酔ったかわからない。
さすらい猫の一晩中、
飲み続けていた武勇伝。
さすらい猫は気にしない。
寂しさなんか感じない。
帰る家などないことや、
帰る人などいないこと、
それが自分のあるべき姿と、
知っているので悲しくないさ。
さすらい猫が酔った時、
歌くちずさむのですぐわかる。
それは可憐な童謡で、
酒場で歌う歌じゃない。
人みんなドン引き、誰も聞かない、
けれど小さく口ずさむ。
なぜか酔うと男みたいに、
かわいい女の子を口説く。
ちょっと外れたその歌が、
女の子たちにはウケが良く、
2人仲良くカウンターで
瞳からます、ハイ、ホラ、落ちた。
さすらい猫は女にモテる。
女のくせに女にモテる。
素面の時のさすらい癖が、
お酒が入ると寂しくなるのか、
必ず女の子を口説き、
そして必ず落としちゃう。
自分のことを『バカだから、
あたしに害は無いから』と、
本気で思って、本気でしゃべって、
本気で見つめて、本気で囁く。
見ている人を魅了する、
睫毛にたまる、涙の色とか、
背筋を伸ばして、踏ん張る姿勢が、
隣の女性の、心を焦がす。
さすらい猫は、さすらって、
知らない街を、どこまでも行く。
さすらい猫の寂しさは、
だれに話して、楽になろうか?
さすらい猫の悲しみが、
世界にあふれた冬の日差しを、
彼女の胸に刻み込むんだ。
さすらい猫の切ない気持ちを、
ブルーな色に染め上げて、
彼女の胸に刻み込むんだ。
彼女の胸に刻み込むんだ。
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