第十一話 どうしてわかってくれないの?

前回のあらすじ


真っ向から勝負しましょうという顔で、真っ向から閃光を浴びせかけるリリオ。

初手麻痺狙いのデバフガン積みにウルウはどう抗うのか。




「『超電磁フラーッシュ』!」

「ンアーッ!」

「『超電磁フラーッシュ』!」

「ンアーッ!」

「『超電磁フラーッシュ』!」

「ンアーッ!」

「リリオ! その辺でいいわよ!」

「合点承知です! 『超電磁フラーッシュ』!」

「ンアーッ!」

「なんで一回余分にやったのよ」

「今後使う機会ないかなって思ったらつい……」


 あんまり使い道ないんですよね、『超電磁フラッシュ』。

 一応多人数相手とかだと便利は便利なんですけれど、味方にも効いちゃうので使い勝手が悪いというか。


 それはそれとして、トルンペートの準備が整ったようですので、私は『超電磁フラッシュ』の連発を終えました。

 これだけたくさん使っても、『超電磁ブレード』とかと比べると疲労が少ないので、かなり効率の良い技ではありますね。

 光を弱めれば夜に松明たいまつや角灯代わりに使える『超電磁懐中電灯』(ウルウ命名)とかもできるはできるんですけれど、弱めの力を長時間安定して維持する方が難しいので今後の課題ですね。


 さて、私の閃光を浴び続けたウルウは、腕で目元をふさいでいたとはいえ、それでも完全には防げなかったのか、若干ふらついていました。

 しっかり目をつむりながら連発した私だってちょっとくらっとしますからね、これ。諸刃の剣です。

 まあ、そんな状態になりながらもトルンペートの無差別空中殺法をしれっと避けきってますし、目を潰してもウルウの自動回避には何ら関係がないというのがまた恐ろしい話ですね。


「ふ、ふふふ……かなりとってもすごーく鬱陶しくはあったけど、これが精一杯かな?」

「ウルウ、そっちじゃないです」

「こっちこっち」

「えっと……こっち?」

「強すぎる光って他の感覚にも響くんでしょうかねえ」


 しばらくこっちこっちとやってるうちに何とかウルウの視力は戻ってきたようでした。

 あれでしょうかね。感覚がびっくりして、三半規管とかにも影響するんでしょうか。影響範囲がはっきりしない技って結構怖いものがありますねこれ。


「あんなに目くらましを連発するんだから、てっきり目を潰してる隙に逃げるのかと思ったよ」

「逃げたりしませんよ。逃がしもしません」

「心を折るのは、こっちのほうってわけよ」

「心を折るだって? く、くふふふ……」


 ウルウはよどんだ目で笑いだしました。

 馬鹿なことを言うねと、そんなふうに。


「……何がおかしいのよ」

「私は散々心をへし折られてこの世界に来たんだ。ちょっと刺しただけで折れるからねこちとら。何なら心が折れたから君たち監禁してたわけだし、君たちに反抗されてかなり手ひどく折れてるからね。もっと優しくして。しんどい」

「うーん、こんなにやりづらい相手も初めてですよこれは」

「でも傷ついてるからって、人を監禁していいわけがないでしょうが」

「正論で心を折ろうとしないで……」

「そのつもりないのに勝手に壊れちゃうわねえ……」


 うーん。

 なんというか気が抜けてしまいますね。

 そうなんですよね。ウルウってかなりめんどもとい繊細な人なので、何なら常に心折れてるまでありますよね。こころが複雑骨折して、滅茶苦茶な形のまま治そうとして、治るわけもなくじくじく痛み続けているようなところあります。


 私たちと旅をするようになってからだいぶ元気に図々しくなってきたと思っていたんですけれど、やっぱりこの間の謎の病気の一件でしょうか。あれでまた心がしんどくなっちゃったんでしょうかねえ。


 ぽきぽきと華奢に心が折れていく音が聞こえるようで、なんだか、弱い者いじめをしているみたいで気分はよくありません。

 でもこの精神的弱者が私たち《三輪百合トリ・リリオイ》の中で一等強いのもまた事実なのです。もしかして私たちの一党歪すぎます……?


 さて。

 気が抜けましたけれど、茶番は長くは続きません。


 どれだけ精神的に傷を多く抱えていようとも、ウルウが尋常ならざる強さを秘めていることは事実。そしてその傷ゆえにこそ、ウルウはいま退くこともできず私たちに刃を向けることになってしまっているのです。

 根本的に状況を変えてしまわなければ、この不毛な争いは終わりません。


 ウルウはどこからか奇妙にねじれた短剣を取り出して構えました。

 それは見ているだけで吐き気を催し、同じ空気に晒されているだけで息苦しくなるような、おぞましく呪われた短剣のように思えました。


「これは《魔女狩りの短剣》。肉体を傷つけることはないけれど、心を削り、なぶり、貶める呪いの刃。君たちを発狂させるのは嫌だから、早めにギブアップしてね」


 体ではなく、心を傷つけるという呪いの武器。

 傷つけてでも手放せないという、ウルウのいびつな心を表すような武器でした。


 ウルウはそのおぞましき短剣を手にゆっくりと歩み寄りばちんっ。


「おわっ……えっ? なに? なにしたの?」


 金属が激しく噛み合うような音とともに、ウルウは素早く後ずさっていました。

 ウルウ自身がなぜ自分がそんな動きをしたのかわからずに困惑する挙動。自動回避されてしまいましたね。


 そしてその後ずさった先で、かちり。


「んぉわぁっ!?」


 どん、と決して小さくはない爆発がウルウの足元で炸裂した時にはウルウの体は宙返りして少し離れたところに着地。

 そこでまた……おっと、運がよかったですね。何も踏まなかったみたいです。


「なになになに!? なにこれ!?」

「トラバサミと地雷よ」

「地雷ぃ!?」


 まあ、それだけじゃないらしいんですけれどね。

 ウルウが動揺したようにきょろきょろとあたりを見回しますけれど、ふふふ、どうです、全ては見つけられないでしょう。私もどこに何があるのかわからないのでうかつに動けません。後方腕組み姿勢で見守るほかありませんね。


「さっきのリリオの『超電磁フラッシュ』連発は、なにもやけくその目くらましじゃないわ。リリオがあんたの目をふさいでる間に、あたしがこのあたり一帯に罠を仕掛けに仕掛けさせてもらったわ!」

「まず地雷とかを隠し持ってたことに私はびっくりしてるんだよ!!」

「あたしが隠し持っててもおかしくないでしょ!」

「悪い方向の説得力!」


 罠、といっても目くらまししてる間に仕掛けられるものばかりで、簡易的なものだそうです。トルンペートいわくなのでその基準は謎ですけれど。

 ただ、簡易的とはいえ数だけはありますし、先ほどのトラバサミのように動きを制限するものから、地雷のように直接危険性のあるもの、草を縛って足を取られるようにしただけの簡単なものなど多岐にわたる模様です。


 私にはどれが何でどこに何があるのかさっぱりわかりませんし、多分それはウルウも同じでしょう。ウルウに罠知識はたぶんないはずです。そしてあったところで、これだけあちこちに仕掛けられた罠を正確に避けて歩くことは難しいでしょう。


 罠それ自体は、踏むまではただの置物です。踏んで初めて危険なものになる。だからウルウも踏んでしまうことまでは避けられず、踏んだ後に自動的に避けるしかありません。そして自動的な回避は次の足場など考えてくれないので、次の罠に着地、作動、回避、着地、作動、回避が繰り返され、いずれは避けきれなくなる、という算段です。


「く、こんなバカげた戦法で……!」

「あんたはそのバカげた戦法に負けるのよ!」


 ウルウが罠を恐れて動かなければ、トルンペートが短刀を投げて無理やりに動かせばいいだけのこと。避けて、避けて、いずれは罠か短剣か、その両方にか、絡めとられる結末が待っています。


「見てるだけのリリオがドヤ顔してるの心底腹立つッ!」

「私はただ見ているだけではありません。いまのところなんにもできないし下手に動くと危ないので、黙って見てるだけが最善、つまりこれが最善手なのです!」

「は、腹立つぅぅううッ!」


 心配すべき点としては、ウルウの自動回避はいよいよ追い詰められてくると、避けてしまうという事例が発生することです。

 足が滑って罠を避けたり、地雷が不発だったり、……。


 しかし正直なところ、今回に限ってはその運の良さは発揮されないと私は思っていました。

 ウルウの運の尽きだとかそういうことではなく。

 いくら運が良くても限度があるということでもなく。

 ただ、ウルウの望む方向に転がるというのならば。

 きっとウルウが本心から望む道は、こころから望む方向は、私たちの望むものと同じだろうと、そう思うのでした。


 まあそういう感傷的なあれこれはともかくとしまして、いよいよ罠に翻弄されて踊り狂うウルウに、トルンペートが投網での捕獲に乗り出しました。

 飛竜骨の短剣が絡みついた投網は、空中でぶわりと広がり、ウルウを追尾するように覆いかぶさろうとします。


「舐めるな……! 《影身シャドウ・ハイド》!」

「フラッシュいきます!」

「は?」

「『超電磁フラァーッシュ』!!!」


 その身を影に変え、いかなる攻撃もすり抜けてしまう恐るべきまじない──に、真正面から最大光量の『超電磁フラッシュ』を叩きつければ、ウルウの体が化石したように硬直しました。その体を投網は簡単にとらえ、拘束してしまうのでした。


 影になるまじないを使っても、ものを見ることはできるようです。ものを見ることができるということは、光を受け止めているということ。激しい閃光はすり抜けることなくウルウの網膜を焼き、意識を奪ったのでした。

 それは、きっと多分、私たちの狙い通りに運んだのでした。






用語解説


・《魔女狩りの短剣》

 ゲーム内アイテム。片手剣。

 HPではなくSPに対してダメージを与える特殊な武器。

 《技能スキル》依存の相手を完封することもしばしば。

 これ一本ではHPダメージがないため、アタッカー必須。

 この世界では肉体を傷つけないが痛みだけは与え、気力精神力を削るようだ。

『この短剣で刺されて死んだ者は魔女である』


・トラバサミ

 いわゆる罠と聞いて誰もが想像するであろう代表選手みたいな罠。

 中央の板を踏むとばね仕掛けで左右から金属板が跳ね上がって合わさり、踏んだ足を挟み込んで逃げられないようにする仕組み。

 なお、柄付きのもので直接相手に殴りつけて噛みつかせるというアグレッシブな使い方もあるとかないとか。


・地雷

 帝国内地ではあまり一般的ではないが、古代遺跡の罠などで存在は知られている。

 火薬や火精晶ファヰロクリスタロなどを用いたものの他、風精晶ヴェントクリスタロ氷精晶グラツィクリスタロといった様々な属性の効果を発揮する変わり種もある。

 辺境では雪上では使い勝手がよくないことからあまり用いられない。

 なお天狗ウルカ土蜘蛛ロンガクルルロは種族特性的に普通に看破することが多いので、人族くらいにしか通用しないが人族には滅法効いてしまう。

 製造、販売、また使用に際してはそれぞれの資格所持者の監督が必要であり、除去漏れや巻き込み事故などがあった場合一発資格剝奪もの。

 トルンペートは使用資格と製造の一部資格持ち。


・《影身シャドウ・ハイド

 《隠身ハイディング》系統のハイエンド。隠密効果はむしろ下がったが、攻撃に対する回避性能が非常に高い。

 発動中攻撃不可になる代わりに、物理攻撃無効の他、一部障害物の無効、魔法・範囲攻撃に対してで回避といった高性能な《技能スキル》。

 《SPスキルポイント》消費は激しいので、ボスの範囲必殺技を回避したりという使い方が多い。

『俺自身が影となることだ』

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