第七話 白百合と海の幸
前回のあらすじ
初のサシミに挑戦するトルンペート。
そのお味は。
トルンペートは次に、つやつやと白っぽく透明なサシミに挑戦するようでした。
表面がつるつるしているのですけれど、貫通しない程度に表面に切れ込みがいくつもいれてあって、つかみにくいということがないみたいでした。またこの切れ目は、つるつるとした身に
トルンペートはこれをちょっと見つめて口に放り込むと、その不思議なサシミに驚いたように眉を上げました。これはさっきの
私もいただいてみましたけれど、きゅむきゅむっとした不思議な食感で、トロリととろけるようなのだけれど、脂っけは全くない、面白い味わいでした。
「イカだね」
「イカ?」
「これ」
そういってウルウが示したのは、なんと
海の怪物と忌み嫌われる、あの
これには私も大いに驚きました。
「あれ、お客さんは
「これをね、細く麺みたいに切ってね、出汁で割った
「ほほう、それはやってみないとね」
トルンペートがこうして用意された細切りの《セピオ》を食べてにんまり笑うもので、私も耐え切れず新しく一皿注文しました。
店の人が手早く用意してくれたのを一口やってみると、これがまた、同じ
そして最後に挑むのは例の
これも、
「西方の人に学んだやり方でね。彼らは火の扱いより、包丁の扱い方がずっと得意でね」
店の人が振るうあの細長い包丁は、西方由来の包丁のようでした。
「ホヤは潮の香りが強いからな……
そういってウルウが取り出したのは、先ほど一人で姿を消したと思ったら、ほくほく顔で買ってきた黒い液体でした。同じ黒い液体なので
「これは?」
「おお、
これは、
ウルウはずっとこれを探していたのだとにっこり笑顔でしたけれど、お値段を聞いてこちらは目が飛び出るかと思いました。成程ウルウの資産なら十分に買えるでしょうけれど、でも。
「どれくらい買ったんですか」
「一樽」
ずつうが、いたい。
まあ買える範囲なら何も言いませんし、普段ものを買ったりしないウルウの数少ない趣味なので言いっこなしですけれど、それにしたって衝動買いの桁が違います。
まあ、とにかく、その
トルンペートが舌鼓を打つだけでなく小躍りしそうな勢いなので私ももう気になってたまらないんです。
歯ごたえは
二人で一皿では何となく物足りなくなって、結局私たちはもう一皿頼んで、サシミを楽しむことにしたのでした。
「度胸は試せた?」
「試せた試せた。次は舌と胃袋を試す番よ」
「よく食べるねえ」
そう言いながら、ウルウも新しく仕入れた調味料の出番だとばかり、お相伴にあずかるのでした。
用語解説
・
白い体に十本の足と、我々が想像するイカと同じようである。
ただ油断ならないのがこの世界、船を襲うサイズのイカが普通に存在していたり、レーザー光を発するホタルイカが泳いでいたりするので、注意である。
・
大豆から作った調味料。いわゆる醤油である。
余談だが、幕末には遠いオランダまで醤油が輸出されていたという話がある。
・
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