第二話 亡霊と荷物整理
前回のあらすじ
河口の町バージョへとたどり着いた《
リリオは組合で珍獣扱いされるのだった。
ああ、眠い眠い。
朝早いのもあるし、道中が暇すぎた。今更ちょっとした魔獣が出たり、盗賊が出たりしたくらいじゃあ、《
旅路が安全なのは世間一般的にはいいことなのかもしれないけど、そもそも人様の冒険をポップコーン片手に眺めて楽しもうというのが私の旅のスタイルというか目的であるので、女優が二人そろって馬車から降りもしないで片付くオート戦闘とか退屈で仕方ないんだよね。
まあ降りたところでこの二人の足止めできる障害ってそうそうないんだけど。
最初会ったころからレベル高かったけど、その頃から比べても随分レベル上がってるからね、この二人。
ヴォーストを出た時点で七十代半ばくらい。これってこの世界でも結構高レベル帯のはずだ。
メザーガみたいな規格外がすぐそばにいたからそこまで目立たなかったけど。
そう、メザーガのせいだよね、大概。
私がたわむれにと思って稽古というか、鬼ごっこしてあげたりしたのも鍛錬になってたんだろうけれど、暇してんだろとばかりに次から次に高難度の魔獣をけしかけたメザーガのせいだよね、ここまで急成長したの。しかもあれ本人自覚ないんだよ。
ブランクハーラさんちの教育方法、ナチュラルにえげつない。
それでも死なないというかうまい具合に成長するあたりを見当つけるスキルは、メザーガが教育上手な証拠だよな。ものぐさなくせにあれで面倒見いいし、事務所のほかの冒険屋も優秀だったし。まああんまり話したことないけど。
さて、そんな風に暇な毎日が続いたせいで、私の体はすっかり錆付きつつあるし、忘れることのない灰色の脳細胞もぼんやりしつつある。そういえば脳細胞って生きている間はピンク色っぽいんだっけ。それに原語からするとこの訳し方って、ああ、まあ、どうでもいいやそんなことは。
とにかく、暇で暇で仕方がないということだ。
こういうときは、掃除や整理などをすると心の整理もできてよい。というか掃除や整理ができる精神状態を保つことが大事だ。メンタルがやられてくるとまずそう言うことができなくなってくる。
せっかくなので私は、この際だからインベントリの中身をこの世界向けに整理整頓しておくことにした。全て覚えているとはいえ、実際にこの世界で手に取ったことのないものも多い。この暇な時間を利用してチェックしてみるのもいいだろう。
私はベッドの上にインベントリの中身を少しずつ広げてみることにした。
まず、《濃縮林檎》。これは《
似たようなのが、《
それから面白いのが《コウジュベリー》。見た目はクランベリーみたいな感じ。食べると甘酸っぱい。《
木とかのオブジェクトを調べると確率でドロップするんだけど、他の低確率ドロップアイテム狙いで調べまくってるといつの間にか懐に入ってるんだよね。
これらは境の森の中で、ウルウのご飯を分けてもらった代わりにそっと食べさせてみたアイテムだ。初の人体実験ともいう。食べた翌日かなり好調そうだったから、回復効果はこの世界でも立派に働くということが分かった。
そしてもしかしたらだけど、
ので、実は回数限界までひそかにおやつ代わりに二人には食べさせてある。持っててよかった。
《
尻拭くために使おうか迷ったやつだけど、まあ使わなくよかった。これは《
また、《
《
私は生物相手には無類の殺傷力を誇るけれど、自分自身の素の攻撃力が低すぎて、物理攻撃無効の相手と無生物相手には、まともに相手できないので、この手の攻撃用属性アイテムをいくつも用意している。
《
今日もベッドの上に勝手に敷いているのが、何気に使用率が一番高いアイテム、《
不眠という行動が鈍る状態異常を解消することもできるし、特定の場所でこれを使うことで夢の世界に侵入できるなんて言う面白いダンジョンもあった。
今はもっぱら、私の睡眠障害解消のために使用している。
もしかしたら睡眠障害はもう治っているのではないかという疑いもあるんだけど、なにしろこれは単に効果があるというだけでなく、非常に寝心地がいいので、もう普通のお布団では耐えられないのだった。朝になると二人が潜り込んでいるくらいだ。
いろいろ並べてみたが、こういったアイテムはゲーム内の効果をしっかり再現するように作られており、私自身、ちょっと驚くくらいだ。いやまあ私が用意したわけじゃないんだから驚くよな、そりゃ。
ただ、プルプラが特に考えずに
その筆頭が私の主武器にして、こっちの世界では緊急時以外使うまいと決めている《死出の一針》だ。これは刺した相手を極々低確率で、どんな生物であれ生きている限り即死させる効果がある。ただし、
どのくらいやばいかと言えば、戯れに木に刺したら、木が死んだ。目に見えて瞬間的に枯死したわけではないけれど、その時点で生命活動が停止して、それ以上成長も維持もなされることなく立ち枯れて腐っていくことが判明した。《
そういえばこの《
持ち歩くだけで危ないので、普段はインベントリにしまい込んでいる。
あとは何があったかな。
「ちょっと、あんまり散らかさないでよ!」
などと思っていたら、帰ってきたトルンペートに叱られてしまった。狭い部屋でアイテム広げてたらそりゃそうなるか。私はそそくさとアイテムをしまって、そして相変わらず気持ち悪い収納力だと不本意な呆れ方をされるのだった。
用語解説
・灰色の脳細胞
アガサ・クリスティの著作に登場する名探偵エルキュール・ポワロの口癖「私の灰色の小さな脳細胞 (little grey cells) が活動を始めた」より。
・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます