第三話 亡霊と五里霧中
前回のあらすじ
パフィストにはめられ、危機に陥る《
これはいったい……?
やられた。
そう思った時にはすでに手遅れだった。
いや、もっと前、《
邪魔にしかならない《
まずいな。というのは、私の完全記憶でも、常に動き続ける靄の中で正確に景色を記憶するのは困難だということだ。視界を妨げられていては、こんな能力はさして役に立たない。
《
私はこの能力に関して説明したことはないから、副次効果というか、たまたま私に不利な状況に持ち込まれてしまったのだろうが、まったく、高
私は《四式防毒面》という、毒ガスや瘴気などの環境効果を無効化するガスマスクのようなアイテムを念のために装備することにした。見た目が露骨に怪しくなるが、生体反応のある靄なんて怪し過ぎて対策しないと不安で仕方がない。
さらに《
リリオは大抵の事では死なない
問題は、今回の件を仕込んだであろうパフィストの身柄だ。
何が目的かはわからないけど、ろくでもないことに違いない。
視界は遮られてしまったけれど、幸いこの体は他の感覚にも優れている。
気配を辿ればすぐにやつの所在など、
「簡単に見つけられるとか、考えてません?」
背後からの声に、ぎくりと身体が硬直する。
反射的に体を見下ろすが、《
「本当に姿が見えなくなるんですね。驚きだ。でも、あなたが気配で周囲を探れるように、僕ができないとどうして思ったんです」
まずい、と思う間もなく、するりと絡みついた腕が私の首筋を圧迫する。
「見えなくったってわかるものですよ。風の動き、気配の在り方、『ない』という存在感。元々の能力の高さを過信して、人を甘く見過ぎましたね」
振り払おうと暴れるが、巧みな体さばきで全ていなされる。いくら
「何か、顔につけていますね。これで防いでいるのか。ガルディストから妙な魔道具を持っているとは聞いていましたけど、おかげでこちらも対策できましたよっと」
《四式防毒面》をむしり取られ、湿った外気が直接肺に入り込む。奇妙な冷たさに、ぞわりと背筋が震える。
ただの空気ではない。あの奇妙な靄が、鼻を、口を通して私の中に入り込んでくる。
「安心してください。死にはしませんよ。多分ですけど」
ぎりぎりと締め上げられ、血管が圧迫され、意識が遠のいていく。
苦しくなり、あえいだ瞬間に腕を離され、思わず胸いっぱいに息を吸い込み、そしてそれが致命打だった。
瞼の裏の闇が七色に染まり、私の意識はぐるりと暗転した。
目が覚めた時、すでにパフィストの姿はなかった。
慌てて立ち上がると、ぐらりと視界が揺れる。気持ちが悪い。吐き気がする。
まるでひどく酔った時のように、頭の中が揺れに揺れて落ち着かない。
周囲を見回してみれば、相変わらず靄が立ち込め、視界を遮る。
痛む頭を押さえて気配を探ってみるが、パフィストの気配だけでなく、リリオとトルンペートの気配もない。ここにはもういないのか、それとも気配を隠しているのか。
そもそも気配って何だと苛立ちとともに毒づくが、そのようにしか形容の出来ないものだから私には他に説明のしようがない。
奪われた《四式防毒面》を探すが、見当たらない。さすがに回収されたか。
もともと《
いや、すでに大丈夫じゃないのか。
わからない。
この頭痛は締め上げられたせいか、それともこの靄のせいか。
わからない。
わからない。
わからない。
「くそ……リリオを……探さないと……」
そうだ。
探さなければならない。
探さなければならない、けど。
「どう、やって……」
森の中で一人取り残されて、私は途方に暮れる外になかった。
用語解説
・《四式防毒面》
ゲームアイテム。ガスマスクのような外見をした装備。
これを装備すると、そのエリアに侵入すると影響を受ける毒ガス、睡眠ガス、笑気ガス、瘴気といった環境効果を無効化できる。装備枠を一つ使ってしまうが、環境効果を無効化できるスキルは少なく、これらの環境効果のあるエリアは難易度が高い。
『この防毒面は開発までに多くの犠牲者を出した。もう少し早く鼠での実験に思い至ればよかったんだがなあ』
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