年跨げば来る

13-1 年越し

「それじゃあ、お疲れ様でした」


 十二月三十日。

 年内最後のバイトを終えた俺が頭を下げると「待てよ鳳」と店長が俺を呼び止めた。

「どうしたんすか?」

「お前、今年一杯かなり働いてくれたからな。俺からの礼だ」


 そう言って紙の袋を差し出される。中にはなんと、諭吉さんが3人もいらっしゃった。


「お前のおかげかはわからんが、今年は売り上げも好調でな。だからちょっと早いけど、お年玉だ」

「こんなに良いんすか?」

「良いの良いの、実際、鳳君かなり売ってたからね」


 いつの間にか側にいた楓さんが言う。


「買った人、結構な率でお礼言いに来るんだから」

「ペットフードもウチから買うって人も多いしな」

「ウチみたいな個人商店からすると、こう言うお店のファンは結構大事なのよね。今年は少なくとも二十人はお得意様増えたんじゃないかな」

「へぇ……」


 俺が動物を売ったのは、決して偶然ではない。動物が俺に教えて来るのだ。あの人間にアプローチをしたいと。全ては動物たちの営業力の賜物である。


「それにその子もすっかり懐いたみたいだし」


 楓さんは俺の頭上に引っかかっているカーバンクルを指す。


「鳳の象徴みたいなもんだな」

「その子頭に乗せて働いてたら、お客さんも増えるよね。接客も説得力出るし。動物に好かれてるんだなって」


 たしかに。

 よくよく考えれば、買い出しに行く時、ペットの相談でお客さんの家に派遣された時、いつも俺の頭の上にはカーバンクルがいた気がする。


「来年は正月明けからだな」

「そっすね。今年も一年お世話になりました」

「おお、良いお年を」


 俺が頭を下げて去ろうとすると、「鳳君」と楓さんが声をかけてくる。


「その、今年は色々迷惑かけて、ゴメン」

「え?いや、別に良いすよ。こちらこそ気が回らず、色々不快にさせてしまったと思うんで」

「バイト、辞めないよね?」

「辞めませんけど?」

「そっか、良かった。あ、そうだ、良かったら連絡先教えてよ」


 そう言って彼女はスマホを取り出す。マジか。

 喜びたいところであったが、俺はそれどころではなかった。

 楓さんの頭越しに、般若のような顔をした店長が立っていたから。


 母さん、今日僕は東京湾に沈むかもしれません。




 何とか楓さんと連絡先交換を果たし、俺とカーバンクルは帰路につく。


「まだ俺のチャンスは潰えていなかったんだなぁ」

「ふむ、青春しているな、人の子よ」

「ようやく面白くなってきたね、俺の大学生活。明日は大晦日かぁ。何しようかね」

「初詣とやらを切望する」

「よく知ってんな、その文化」

「楓がよく言っておったからな。友達と行くそうだぞ。振袖とやらに身を包んで」

「ふぅむ、それは見たいな」


 出来れば管理人さんと初詣に行きたいところだが、如月荘の面々のことを考えるとそれは難しいか。

 と言うよりも。

 異世界の年越しって、どうするんだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る