054 杏太郎のお着替えと魔王の復活
金髪の美少年は、手にした黒いローブを眺めて言う。
「さて……。もう、この黒いローブを着る必要もないな」
杏太郎は右手を前に出してローブを収納すると、続いて新しい服を出現させた。
「ボク、ちょっと着替えてくるから」
そう言い残すと杏太郎は、祭壇の後ろの
しばらくして、着替えて戻ってきた彼は、いかにも西洋風ファンタジーRPGの貴族の息子っぽい印象の服へと変化していた。
飾りボタンや飾りヒモ、金色の装飾があしらわれた、きらびやかで豪華な青いコート風の衣装。それと白いシャツと黒いズボンだ。
えっ……ラストバトル前で、その豪華な衣装にチェンジですか?
もしかしたら、魔王と戦う可能性だってあるのに?
貴族のボンボンみたいな豪華な服装の少年。
純白のウェディングドレス姿の女剣士。
ジャパニーズサラリーマン風のスーツを身につけている俺。
自分を含めたこの三人は、これから魔王との戦いに挑む者の姿ではないだろう。
やがて、気絶していたカゼリュウが目を覚ましたので、俺はすぐに会いにいく。
「カゼリュウ、落ち着いて話を聞いてほしいんだけど、俺は生きてるからな!」
「カゼリュウー? カゼリュウー? カゼリュウー?」
しばらく気絶していたことがよかったのだろうか。カゼリュウは最初の瞬間こそ戸惑った表情を浮かべたが、興奮はかなりおさまっており、すぐに落ち着いてくれた。
俺は、どうして生き返ったかを説明する。
話を聞きながらカゼリュウは、自分が前日の会議を勝手に抜け出したことを反省してくれた。
「ところで、カゼリュウは時間を止められるようになったんだって? すごいじゃないか!」
俺がそう尋ねるとカゼリュウは、そのことについて簡単に説明してくれる。
覚醒したことで、これまで以上に風を操ることが上手くなったらしく、その影響で時間を止められるようになったそうだ。
俺は小首をかしげた。
風を操ることが上手くなると、どうして時間を止められるようになるの?
理屈が、さっぱりわからない。
きっと、常人には理解できないのだろう。
そこに黒ずきんさんがやってきた。
黒ずきんさんは、カゼリュウをシャベルでぶっ叩いたことを謝った。
俺もその話に加わる。
「あそこで祭壇を壊されていたら、俺が生き返れなくなっちゃうだろ? 俺の命がかかった非常時だったから、仕方がなかったんだよ。許してあげてほしい」
カゼリュウは別に黒ずきんさんに対して、怒りは感じていないとのことだった。
覚醒して最強の魔物となった龍は、もし自分がまた何かやらかしそうになったときは、遠慮なくシャベルでぶっ叩いて気絶させてほしいと黒ずきんさんに頼んだ。
確かに、『ドラゴン使い』である黒ずきんさんくらいしか、暴走したカゼリュウを止められそうにない。
黒ずきんさんは、カゼリュウ公認の『龍の見張り役』となったのである。
再び暴走したときに止める方法で、シャベルで叩く以外のもっとマイルドなやり方はないか、今度しっかり相談しようということになった。
黒ずきんさんが使う例の『眠くなる泥』を、カゼリュウの鼻の穴に詰めるというアイデアが、現時点ではとりあえず最有力だった。
カゼリュウが目を覚ましたことで、仲間全員がそろった。
気を失っている『オークションハウス』くんは、ツチグマがお姫様抱っこして面倒をみている。
そして、いよいよ魔王と対面しようという話になった。
あきらかに怪しい場所であった祭壇の中心の床をこじ開けると、下へと続く階段が現れた。
青い貴族服を着た金髪の美少年が言った。
「狭い階段だな。人間なら下りられそうな
身体の大きな元四天王たちは全員、階段を通れそうになかったので、気を失っている『オークションハウス』くんといっしょに上で待機することになった。
シャンズたち勇者様御一行を先頭に、俺たちは階段を下りる。
俺が通っていた高校の教室ほどの広さの空間があった。
階段を下りた正面に、石造りの小さな
シャンズを先頭にその祠をのぞき込んだ。
するとそこに、
「んっ? これが魔王だろうか?」
勇者シャンズがそうつぶやいた
この狭い地下空間が、地震でも起きたかのように揺れる。
次に、土偶っぽい人形の両目が怪しく光ると、なんだか機械で合成したような音声というか、
「ゴォゴォゴォゴォゴォ……眠りを覚ますお前たちは誰だ? 我は魔王だぞ?」
その途端、揺れが激しくなった。
天井から土や石なんかがパラパラと落ちてくる。
杏太郎が叫んだ。
「マズい! この空間は、上の空間と違って崩れるみたいだぞ! みんな、魔王のことは放っておいて、急いで階段を上るんだ!」
俺たちは階段を駆け上がり、全員が祭壇のあった空間へと戻った。
みんな祭壇から離れ、元四天王たちと合流する。
次の瞬間――。
祭壇が大爆発を起こした。
続いて、祭壇の下から巨大化した魔王が現れたのである。
先ほどの土偶のような人形が、大きくなって俺たちの前に立っていた。
体長3メートルほどあるツチグマよりも、3倍くらい大きく見えた。
魔王の足は地上から少し浮いており、俺が絵画から召喚した海賊船と同じように飛んで移動するみたいだ。
ただ、その移動速度は海賊船とは違って素早い。正面からまともにやり合ったら、あの大きさでその速度は、かなり凶悪な相手である。
すると、どこからか狐面の男が現れた。
「お前たち! 魔王様を復活させてしまったのか! くっ……あと数日で、完全体として復活していただけたのに……」
狐面の男のその声を聞いて、俺は思い出す。
ああ、そうだ……。
確か、例のゲームでもそうだった。
封印が完全に解けておらず、不完全な状態の魔王がラスボスなのだ。
それでも、ほぼ100%に近い戦闘力の魔王と戦わなくてはいけないとか、そんな設定だったと思う。
そして、ゲームを一度クリアした後なら、特定の条件を満たせば『100%の完全復活した魔王』と戦うことができる方法があった。
それが『裏ボス』みたいな扱いだったと思う。
ただ――。
俺たちは別に魔王と戦いに来たわけじゃない。
魔王を落札しに来たのだ!
杏太郎がコンチータに言った。
「コンチータ、オークションを開催してくれ!」
オークションの開催を邪魔する者は、もういない。
コンチータが、青い髪を揺らしながら地面に手をついて叫ぶ。
「オークションハウス・オープン!」
周囲が青白い
魔王と俺たちは、一瞬でオークションハウスへと移動する。
ついに『魔王のオークション』が開催されるのだ。
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