002 ステータス確認――そして恋に臆病な人が多い異世界
金髪を揺らしながら美少年は言った。
「シュウ、とにかくボクは男だ!」
「はい。そのようですね……」
目の前の美少女のような美少年だけど、これで完全に嫁候補ではなくなったなあ……。
俺は、彼の股を触った右手を見つめる。恋愛対象としては、そもそも年齢うんぬんが問題ではなかったのだ。
続いて、美少年からこんな質問をされた。
「それでどうだ? お兄ちゃんの感触、思い出したか? んっ?」
いやいや……お兄ちゃんの感触って……。
あんた、俺にどこを触らせてそれを言ってんの?
俺は無言のまま顔をひきつらせた。
だけど、相手はこちらの反応にはお構いなしに話を続ける。
「男であるということを理解してくれたのなら、次はボクがお前の兄の『
「いや……それはさすがに。股を触っただけでは理解できないです」
こういうシチュエーションで、股を触ってお互いが兄弟だと認識できる人たちがいましたら、どうか電話を一本ください。
「そっか。シュウは前世のボクの股の感触、覚えていないのか……。まあ、転生する前と後で、ボクは違う身体だしな。それでもシュウならもしかしたら――と少し思っていたんだがな」
この美少年、何を言っているんだ?
俺が股の間を触って、『えっ! この股の感触は……もしかして、本当にお兄ちゃんなの!?』ってなる展開をまじめに期待していたのか?
「ちなみに――」
そう言うと美少年は、俺に向かって右手をぐぐっと突き出してこう続ける。
「ボクはシュウの股の感触、よく覚えているけどな」
さらりと気持ちの悪いこと言っているんですけど、この美少年……。
俺は再び無言のまま顔をひきつらせる。なんとなく内股立ちになりながらだ……。
続いて美少年は、こんな要求をしてきた。
「どちらにしろ、シュウはボクのことを『お兄ちゃん』と呼ぶか、それとも『杏太郎』と呼ぶか、ふたつにひとつなんだけど……ボクのこと、どっちかで呼んでくれよな」
『お兄ちゃん』と呼ぶことに俺はなんとなく抵抗を感じた。
まあ、『杏太郎』と呼ぶことにだって抵抗はある。それは亡くなった兄の名前だからだ。
だけど、美少年本人が自分のことを杏太郎と名乗っている以上、他に呼ぶ名前がない。
仕方なく俺は、彼のことを杏太郎と呼ぶことを受け入れた。
心の中では『兄と同名の別人』として扱いながらである。
「じゃあ、杏太郎って呼ばせてもらうよ」
「そうか。まだ『お兄ちゃん』とは呼んでくれないか。まあ、それはもう少し後でもいい」
美少年はそれなりに満足そうな様子で、ニコッと微笑んだ。呼び方の件に関してはとりあえず一区切りついたという雰囲気である。
続いて彼は、金色に輝く前髪を軽くかき上げてから別の話をはじめた。
「じゃあ、シュウはとりあえず、自分のステータスを確認してみろよ。せっかく異世界に来たわけだしな」
「ステータス?」
「ああ、そうだぜ。この異世界はさあ、ファンタジーRPGみたいなところなんだよ。ゲームみたいに自分のステータスが確認できるんだ」
「どうやって?」
「『ステータス・オープン』って心の中で念じてみな」
そ、それは……なかなか恥ずかしい。
けれど俺は、杏太郎から言われた通り『ステータス・オープン』と、心の中で念じてみる。
すると――。
どういう仕組みなのかはわからない。けれど、目の前の空間にゲームのウィンドウみたいなものが表示された。
いやあ……マジすか……。
本当に、ゲームみたいじゃないスか。
名前:シュウジロウ
レベル:1
性格:中立(50)
♥:独身・恋人なし
(あなたはまだ本当の恋を知りません。どうか恋に臆病にならないで!)
職業:
スキル:①絵画召喚(10号)
②オークション開催(※要 オークションハウス)
「はあ? なんだ……これ?」
ステータスを一読して、俺は首をかしげた。
「あははっ。シュウ、自分のステータス見えているか?」
「これ、俺のステータスなの?」
「ああ。この世界ではそんなふうに自分のステータスが見えるんだ。元の世界ではできなかっただろ?」
確かに。
もしかして、俺は本当に異世界にいるのだろうか?
こりゃあ、夢とは思えないし……。
「シュウ。ステータスを上から順番に読んでボクに教えてくれよ。自分以外の人間のステータスは見えないんだ」
杏太郎からそう言われたので、俺は上から順番に読んで聞かせた。
「――それで、性格の次には『ハート』のマークがあって、『独身・恋人なし』って書いてあるな。その後にはカッコ書きで(あなたはまだ本当の恋を知りません。どうか恋に臆病にならないで!)って……これ、なんなの?」
「好きな異性ができたり恋人ができたり結婚したりすると、そこに書かれてある言葉が変わるらしい。ボクのステータスにも同じことが書いてあるぜ」
「そうなのか。でも、『あなたはまだ本当の恋を知りません』ってことはないだろ?」
俺のその言葉に杏太郎は「んっ?」と首をかしげる。
「いや……だって俺、学生時代に恋人がいたしさあ」
「シュウ、恋人がいたのかっ!?」
「ああ。高校のときと大学のときに一人ずつ彼女がいたから。これまで二人と付き合ったことあるんだけど……」
「二人もっ!」
「じゃあ、なにか? 俺のあれは本当の恋じゃなかったってことなのか?」
昔の恋人たちの顔をぼんやりと思い出しながら俺は戸惑う。
当時の俺は、恋人ときちんと恋愛をしていたと思うのだけど……。
おいおい、恋愛の神様よ。あれは本当の恋ではなかったのかい?
「……じゃ、じゃあ、シュウはさあ、女の子とキスとかしたことあるの?」
金髪の美少年がそう尋ねてきた。なんだか薄っすらと頬を赤らめてやがる。
「もちろん」
と、俺はうなずく。
キスどころかセックスもしている。
ただ、社会人になってからは恋人ができたことがないので、色々とご
結婚相手を本気で探しはじめた時期から、女の子が俺に寄り付かなくなった気はしていた。
嫁がほしい、嫁がほしい――と、もしかすると俺は女の子の前でギラギラしすぎなのかもしれない。
「そ、そうか。シュウはキスしたことあるのか。ボクはお兄ちゃんなのに、弟に先を越されるとは……は、ははっ」
金髪の美少年は、俺の話にショックを受けている様子だった。
力なく笑い、続いて彼はひとりごとのようにこうつぶやいた。
「……ま、まあ、ボクはそういった恋愛とかにはまったく興味ないからな」
この美少年……どうやら本当に恋をしたことがない様子である。
これほど綺麗な顔の男の子がいるのに、彼の周囲の女の子たちはアタックしないのだろうか?
もしかして周囲の女の子たちは、自分よりも綺麗な顔の男の子に尻込みしているとか……?
そんなことを俺が思っていると、杏太郎はステータスについての考えを口にする。
「なあ、シュウ。ステータスなんだが、元の世界の恋愛はひょっとしたらカウントされていないのかもしれない」
「んっ? 元いた世界での俺の恋愛は、なかったことにされているのか?」
「ああ、たぶんな」
美少年は、こくりとうなずくと説明を続けた。
「元の世界ではともかく、この異世界ではシュウはまだ本当の恋を知らない。だから、ステータス画面がそうなっているんじゃないか?」
「あのぉ……そもそも、なんでステータス画面に恋愛に関する記述があるの?」
「それはボクが思うに、この異世界の人々は、たぶん恋愛が下手な人間が多いからかもしれない」
「えっ? この異世界の人たち、恋愛が下手なの?」
杏太郎は苦笑いを浮かべながらうなずく。
「ああ。この世界では恋に
「恋に臆病な人が多い異世界……」
「まあ、そういうボクは、元の世界でもこちらの世界でも、一度も恋愛をしたことがないんだけどな……はははっ」
杏太郎は力の込もっていない笑い声をあげると続いて、ぶつぶつとつぶやく。
「し、しかし、ボクは兄なのに、恋愛方面では弟に色々と先を越されるとは……。そうか……シュウは女の子とキスしたことあるのか……」
先ほども彼は同じようなことを口にしていたけれど……。
繰り返し同じようなことをつぶやくくらい、本当にショックを受けているみたいだ。
もし本当にこの金髪の美少年が俺の兄だとして――。
世の中のお兄ちゃんという生き物は、弟の方が先に恋人をつくったり、結婚したりすると、まあこんなふうにショックを受けるのかもしれない。
それから杏太郎は、こほんと小さく
「とにかくこの世界では、自分のステータスを見ることができて、わざわざ恋のアドバイスみたいなものまで表示される」
「はあ……」
「そして男女問わず思春期を過ぎると、自分のステータスを確認するたびに『ああ……本当の恋を探さなくちゃなあ……』って、恋と向き合うことになるんじゃないだろうか。ここは、そんな異世界だ」
いや……どんな異世界だよ……。
金髪の美少年は話を続ける。
「ボクは別に『恋愛することが立派』という考えや、『恋愛しないことは
現代日本でも『若者の恋愛離れが社会問題になっている』などと、メディアが若者たちの恋愛を
俺は心の中でそうツッコんだ。
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