第112話 体育(水泳)2
「……そういえば、化学同好会、なんか、プールでやってなかったか……?」
いぶかし気に野球部が蒲生を振り返る。
一斉にクラス中の視線が蒲生に集まった。当然俺も奴を見る。
「バイオマスの実験に使う藻を採取しただけだよ! 化学薬品なんて撒いてないぞ!」
心外だ、とばかりに蒲生が口をとがらせる。
「バイオマス? あの、油をとるやつか」
茶道部がゴーグルのバンドを引き絞りながら蒲生に尋ねた。茶道部。一滴も目にプール水を入れる気はないらしい。
「そうそう。生物由来の有機性資源から、油をとるやつだ」
蒲生は口をへの字に曲げる。
「ビオトープの藻は実験用の水槽じゃあ、あんまり繁殖しなくてさ。
なんとなく。
俺たちは、なんとなく、プールを見やった。
「……藻、ってこんなにあったっけ……?!」
「すごい、繁殖してねぇか?!」
「とろろ昆布!? 誰か、とろろ昆布入れた!?」
一気に場が、ざわめきたった。
プールは『緑色』に近い。
大量繁茂した藻のせいで、プール底の青色塗装が、濁りまくって何色かわからない。
プールというより、もはや、『沼』だ。
「先生、塩素入れたんですか!?」
野球部が怯えながら叫ぶ。「俺、地区予選に出るんっすよ!?」。野球部の素っ頓狂な声は、様々な恐怖を呼んだ。
「馬鹿者! ちゃんと塩素は入れておるっ」
柴田先生はそう怒鳴ったものの、プール表面を一瞥し、俺たちに告げた。
「いいか。ゴーグルは必ず装着。プールの水を飲んだものは、先生に報告。わかったか!」
黙りこくる俺たちをにらみつけ、柴田先生が再度「返事はっ」と怒鳴った。
俺たちは仕方なく、「はい」と返し、先生はようやく準備運動の指示を出した。
◇◇◇◇
「止まれっ! 織田っ」
泳いでいたら、いきなり足を掴まれた。驚いて立ち上がると、茶道部が俺の肩を掴んでくる。
「なんだ?」
水の中で、ふわふわと片足つきながら、そう尋ねると、茶道部は蒼白のまま、後方を指さした。
「蒲生が浮いた!」
「はぁ!?」
驚いてみやると、ぷかり、と背中を丸めて蒲生が浮いている。
「蒲生っ!!」
俺と茶道部は、プールの水をざぶざぶかきわけて、蒲生の救助に向かった。
この日。
水温の低さにより、プールに浮かんだ生徒が数人いたものの、水泳は中断されることなく、実施された。
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