文化祭 ー 織田side ー

第59話 文化祭、その後

          ◇◇◇◇ 


 文化祭での順位は、なかなかに悲惨なものだった。


 各科対抗ペットボトルロケットでは、飛距離一位になったものの、ペットボトル内に化学薬品を仕込んだことがばれて工業化学科は失格。


 ロボコン対決では、電機科、電子機械科に到底かなわず、惨敗。


 売上対決に至っては、「親が買い占めた」溶接科が圧勝。


 工業化学科は、良いとこなしで終了し、かつ、俺に関して言えば化学同好会の邪魔まで入って最悪な一日だった。


 おまけに。

 詫びのつもりなのだろう。


 文化祭の次の日。

 自席には山ほどの鳴門金時がつまった段ボールが置いてあった。『ごめんね、ひょうじゅう』。そんなメモまで入っていて、その字はどう見ても、蒲生がもうの癖字だ。


「ごん。お前だったのか、いつも栗をくれたのは」

 俺はそんな台詞と共に、蒲生に芋をつき返した。


 その次の日。

 俺の机はハーブの花が山と積まれ、なんかこう、縁起の悪い席になっていた。


『後輩の失態は、先輩の責任。この通り、許してくれ』


 手書きのメモが添えてあり、見たことはないが、これは多分島津先輩の文字なんだろう。俺はやっぱりまとめて蒲生につき返す。


「ってか、島津先輩のせいだから。全部」

 そう言い置くことも忘れなかった。


 そしてまたあくる日。

 今度は、水槽がどん、と置いてあり、うごめくホタルの幼虫に教室中がパニックになっていた。

「蒲生っ!! さっさとその気持ちの悪い生き物を、俺の席から撤去しろっ」

  怒鳴りつけたその翌日だ。


 教室に入るなり、きゃあきゃあ女子に言われ、男には睨まれる始末。


――― 今度は何やったんだ、化学同好会っ


 歯ぎしりして自席を見ると。

 俺の机には、A4サイズに引き伸ばされた写真が一枚、張り付けられていた。


 その写真を見て、愕然とする。


 実際。

 顔は映ってなかった。


 ただ。

 服装と背格好、それに背景から考えて、これは今川だ。


 そしてその今川と向いあっているのは、確実に俺だ。


 あれだ、と思う。

 多分、二人で店番をしている時だ。


 抹茶が口についてる、とか今川が言って、ハンカチで俺の口を拭ってた時だ。イスから腰を浮かして、俺の方に顔を近づけているあの時。


 あの、場面だ。


 あれを。

 背後から、絶妙な角度で撮ると。


 二人でキスしているような写真になっている。


 あいつら、、盗撮しやがったっ!!!


「誰が従姉妹だぁぁぁぁ、剣道部っ」、「お前、店番代わるとかなんとか言って、なんだこれっ。いちゃいちゃしやがってからにっ」、「高校敷地内でなにを不埒な……っ。貴様それでも錬金術師の一員かっ!」


 さまざまな罵詈雑言が男から飛ぶが、俺はA四用紙を引き破り、それを上回る声で怒鳴った。


「許さんぞ、化学同好会めぇぇぇっ!」


 こうして。

 化学同好会への復讐を心に誓い、俺の文化祭は終了した。

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