第15話 観光客1
電車を降り、改札口に向かうまで、ずっとその外国人の一団は俺と石田の前にいた。
六人のグループだ。
いずれも六〇代前半か、もう少し若いぐらい。
荷物は宿泊先かコインロッカーにでも預けているのか、身軽だった。女性が三人に、男性が三人。思うに、それぞれ夫婦なのだろう。にこやかに互いのパートナーらしい人物と会話しつつ、団体であることも忘れない目配りをしている。
観光客なのだろうな、というのは、想像がついた。
この市が世界に誇る、世界遺産の城を見に来たのだろう。パンフレットこそ持っていなかったが、彼らの服装と、首から下げたカメラを見てそう感じた。
桜の時期や紅葉の時期は結構国の内外を問わず観光客であふれかえるが、梅雨がまだ終わらないこの時期にやってくるとは、なんとも気の毒だ。あの城は女性的な外観をしていると思っている。見に来るなら、やはり晴天が広がる時期か、月が綺麗に見える時機だろう。地元人ではないが、俺はそう思う。
だから。
残念な時期に来たなぁ。
そう思ったのと。
「……改札口、間違えてるよな」
俺の隣で石田が呟く通り。
このまま進むと、この外国人の一団は、改札口を間違えて出ることになる。
俺は顔を顰め、ちらりと俺たちが向かう改札の方を見た。
俺と石田は自転車置き場に行く為、この改札に向かっている。ここから黒工までバスはあるのだが、金がもったいないし、バスを待つ時間が馬鹿らしい。だから、自転車置き場に自転車を月極めで預け、黒工まで通っているのだが。
その自転車置き場に一番近い、この改札を抜けても、正直さびれた商店街と中途半端なビル街が広がるばかりで、『観光地感』はない。
城に一番近く、そして景観整備をされた場所に行くには、この真反対の改札を抜けなければならない。
――― よく間違えるんだよなぁ
俺は小さくため息を吐く。
日本人であれば、改札を抜けてぎょっとし、それから周囲の地元民らしい人間に声をかけるのだ。
『あの、城は……』
『あ。反対ですよ』
そう言って、駅をぐるりと回る方法を教えてやるのだが。
――― 外国人かぁ……
それが、俺と石田を怯ませた。
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