第13話 『なんじゃろホイホイ』1
まぁ。
教師の目を誤魔化して持ち込むやつもいるが、おおっぴらに学内で使用する生徒は居ない。
普通科の高校では、休み時間になるとスマホを取り出して弄ったり、ゲームアプリで遊んでいるやつが多いと言うが。
俺のいる工業化学科の休み時間のすごし方といえば、それは大きく分けて4パターンに分類される。
パターン1は、放課後の部活に備えて『喰う』。
たいがいこれは、毎年甲子園まで駒を進める野球部か、インターハイに出場する男子バレー部の輩が多い。
喰う。とにかく喰う。喰ってなければ、プロテインを飲んでいる。
パターン2は、放課後の部活に備えて『寝る』。
たいがいこれは、毎年甲子園まで駒を進める野球部か、インターハイに出場する男子バレー部のやからが多い。
寝る。とにかく寝る。いびきをかいてまで寝ていて、若干引く。
パターン3は、『課題をこなす』だ。
たいがいこれは、毎年甲子園まで駒を進める野球部か、インターハイに出場する男子バレー部のやからが多い。
解く。書く。頭の良いやつに正解を求めて教室をさまよう。俺と蒲生は良い迷惑だ。
強豪部になればなるほど、練習時間が長く、また越境でやってくる生徒が多いから、自宅滞在時間が少ないのだ。だけど、学校側はそんなことを考慮してくれない。等しく『課題提出』と『レポート提出』を求めてくる。結果、奴らは必死になって学校滞在時間中にそれらをこなすべくシャーペンを走らせている。
そして、パターン4。
『なんじゃろホイホイ』をする。
これは、強豪部以外の運動部所属男子と文化部所属の男子が時間を潰すために。そして、純粋に楽しむためにやっている物だ。
「織田。机をくっつけろ」
授業終了のチャイムと同時に、後ろの席の
「『なんじゃろホイホイ』をやるのか」
俺と蒲生が机をくっつけあっているのを見て、何人かの生徒が集まってきた。その様子を一瞥し、スポーツバックから大きなラップ包みのお握りを出している生徒もいれば、すでに机に突っ伏して眠っている生徒の姿も見える。
「それ、なんなの」
声をかけてきたのは、俺の斜め前に座ってプロテイン飲料を飲んでいる野球部の男子だ。純粋に不思議そうに彼が見ているのは、蒲生が握るカードの束。もう、何度もやりすぎて大分角がまるまりつつある。
「『なんじゃろホイホイ』~」
蒲生はドラえ〇んの声帯模写で言い、野球部男子に印籠の如くかざしてみせる。
「ここには6種類の怪物の絵カードがあるんだ」
蒲生は手早くカードの束から絵カードを一種類ずつ抜き出し、机に広げて見せた。島津先輩もそうだが、なんだか化学同好会は手品師のように指先が器用で手際がいい。
「この6種類の怪物に、参加者は一人ずつ名前をつけていく」
「え。名前がもともとあるんじゃないのか?」
プロテインを飲み終わったのか、今度は固形の栄養補助食品を齧る野球部男子が驚きの声を蒲生にかけた。蒲生は、細く長い指を横に振り、「ちっちっち」と演技がかった仕草をした。
「みんなでつけるんだ。で。覚えておく。そしてだな」
蒲生は、机の表面を掌でなでたかと思うと、カードを一揃えにし、何度か繰って見せた。
「順番に、一番上からカードを引く」
蒲生は、カードの束を机の上に伏せておき、無造作に一枚引いてみせる。そこに現れたのは黄色い太った怪物だ。
「真っ先に名前を言ったものが、このカードをもらえる。これは昨日、『だんじろう』と名づけられた怪物だった。めくると同時に、『だんじろう』っ、と叫んだ者が、このカードの所有者となる」
厳かに蒲生は告げたが、野球部は、「簡単なゲームだな」とあっさり答えた。
「いや、意外に難しいんだぞ」
このゲームの常連である軽音楽部の生徒が口を尖らせて野球部に言う。
「もう、何度もやっていると『この怪物、さっきはトラジローだったけど、今はなんだっけ』とだんだん混乱してくるんだ」
軽音楽部の意見に俺も蒲生も頷く。まさにそうだ。このゲームの恐ろしいところはそこにある。
現在、この『怪物』の名前はなんだったか。
それを瞬時に思い出せねばならない。
「また、こいつが馬鹿みたいに強いんだ」
うんざりしたように、茶道部の男子生徒が蒲生を顎で示す。蒲生はそれを受け、どこかドヤ顔で小鼻を膨らませた。
「数A一位なだけはあるな」
野球部が笑い、俺を一瞥して最後の栄養補助食品のひとかけらを口に放り込む。
「現国一位はどうなんだ? 数A一位の蒲生に勝てないのか」
野球部の言葉に、むすっとした顔になったのは俺も否めない。
「暇ならお前も参加してみるか?」
そう誘うと、意外にも乗ってきた。「おう。混ぜてくれ」。そう言って、立ち上がって机に寄ってきた。
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