見本市

ベニヤと鞄

　豪胆に生きたいと願っていた。

　当然の中には居たくなかった。

　自己を愛して、その他を痰で絡ませ、有意義な地位に着いたまま濃ゆい酒で女と戯れたかった。

　今、往来では喧々諤々の海。

　みな唾を飛ばし健康や統一について、国家警察の鎮圧も関せず安いベニヤでシュプレヒコール。

　それ等私は窓から見下ろし、厳密にはアパートの二階なので若干首を擡げて、嫌だなあという気持ちになる。

　この地域では豪傑な人物や美味たる郷土料理、クリーンな景観などは一切無く、おもては安居酒屋の吐瀉、生活の排水を舐めとる安犬、腹の千切れた路上生活者の鳥葬、質の悪い売春、夢が潰えた者による老婆への窃盗、全裸の悪質な公務員の徘徊、バナナ売りのフリした薬物販売反社会構成員、目の血走った歯医者、平気で人を裏切る友達、泥にに肩まで浸かっている雑菌まみれの哺乳類、最悪なジョーク。

　この町はそんなもので溢れかえっている。

　先程の抗議活動が行われるのも至極真っ当な、必然の反応である。

　然し私は冒頭の通り、豪胆に、快活に、爽やかに、特異点として生きてゆきたいのだ。

　蟹や牡蠣なんかの生ものを旨い高額たらしめるポン酒で流し込み、六二階タワーマンション馬鹿でかいテラスから遠くに見えるその町の惨状を嘲笑い、高らか愉快なBGMと共に、顔と体のよい女を使い倒したいのだ。

　無理であるのだ。

　この町でそんなものは存在せず、精々贅沢と言っても危険度の低い青魚の焼き物に、悪酔いするワンカップを路上で温めて音を立てて啜る。

　その程度がこの区画、少し離れれば別世界のはずの、このお上が定めた四方系に囲われた町の、最悪のジョークが現実なのである。

　かように私の夢は思考の上だけで潰えてしまったので婆ァの鞄引ったくってベニヤ拵えて列に並んできますわ。