おもんない旅

 破滅への旅の道中、様々な汚らしい穢らわしい背徳的な廃棄物、草木、動物の糞、項垂れた不労者等をさんざ見てしまった私の眼は酷く淀んでしまったのではないか、正しく機能しているのであろうか、角膜の澱を罅割れた手鏡で確認して何度も確認して、ああ不安などない純真な瞳孔だと安寧、しかし私は破滅、自己の壊滅の為に旅を始めた訳で、眼の細微な故障を気にするのは女々しく矛盾しているので、まともに使用出来ぬ手鏡は黄色く暖かい砂の中に適当に埋め入れて三キロ程歩いて今は乳房がそそる妙齢の女が経営している蒸し暑い木造のバーでウイスキーを生で飲っている。


 ウイスキーやバーボン、テキーラ等は容易く破滅的になれるツールであり、かつ、かっこのよろしい破滅を演出出来るので最初、バーの赤茶錆看板が見えた時私は心のボルテージが急激に上がり、堕落の究極だ!と叫んでしまった。恥じながらバーに近づいてゆき、入口でユラユラと椅子と煙管を燻らす白髪白髭の老人が長い帽子の鍔越しに睨み、これも破滅への要素だツールだと自己暗示で門を開いた。


 店の中は窓から毀れる陽射しで埃が舞っているのが良く見え、要素の強さに感嘆し、にやけるのを堪えながらやけに興奮するパーツをもった妙齢女に知っている様な素振りで瓶を指差した。それが初めてのウイスキーであった。

 私の喉は焼けるように熱く、歪な丸氷も半分は溶けているというのに全く私に優しくない味で私の体内を攻撃する。壊滅的だ破滅的だようやく死ねると思いながら眉間が無くなった様な顔でどんどんと煽った。


 と、気付くと清潔なベッドで腕に針が刺さった状態で横たわっている自分がいた。飲り過ぎたのだ。いや、飲り過ぎたのは死に向かえているので正しいのだが、どうやら妙齢と白髪が適切な処置と適切な通報によって私は生き永らえてしまったのだ。なんと中途半端な、なんとみっともない破滅だ。横では目を覚ました私を喜ぶ妙齢が乳房を顔に近づけて話しかけてきている。その時香った女の、独特の、あの性の匂いが、私を屹立させ、破滅が遠のいて行くのを感じながら柔らかく白い枕に頭を沈ませ、性の空気を深く吸った。

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