第151話 亜人
長い行列の末に検問を受けたカリオス達は、武闘会の観覧目的と言うことで、難なく特別居住区に入ることが出来た。
ちなみにハサク達は出店をするための検問が別にあると言って、既に別れている。
検問の際にミノーラが話すのを目にした門兵達は、当然驚きを顕わにしていたのだが、慣れているのかすぐに順応してくれた。
言葉を話す狼なんているはずが無い。と言う認識ではなく、珍しいものを見た。と言う感覚なのだろう。
そんな感覚になるのも頷ける。とカリオスは周囲の様子を見渡しながら、感嘆に浸る。
トリーヌと同じトアリンク族や、オルタと同じウルハ族、そのほかにも、彼が見たことの無い種族や人々が街中を闊歩している。
額に複数の角を持っている者や全身がうろこに覆われた者。猫や犬、狐と言った動物の特徴を持っている者。
右から左へと視線を動かすだけで数えきれないほどに多種多様な人々が目に入ってくる。
『すごいな。いることは知ってたけど、実際に見ることが出来るとは思って無かった。亜人種か。良く考えれば、彼らは混色みたいなものなのか?』
そんなことを考えたカリオスは、すぐ隣を歩いているミノーラへと視線を移す。
『生命エネルギーが混ざり合っている状態の生物を混色と呼ぶ。その混ざっている生命エネルギーの種類によって、特徴が現れるんだったら、亜人も混色と言えるのか?だとしたら、なんでミノーラは人型にならない?ドクターファーナスは亜人について特に何も言ってなかったしな……。』
そんなことを考えながら歩いていたカリオスは、いつの間にかミノーラと目が合っていることに気が付き、思わず視線を逸らしてしまう。
「カリオスさん?どうかしましたか?」
ミノーラだけでなく、彼女の背中に跨っているクリスまでもが、訝しむような目線を向けてくる。
そんな二人の反応に、カリオスは一つため息を溢した。
『……今はそんなことを考えても仕方がないな。』
ゆっくりと首を横に振ることで、何でもないことを伝えた彼は、改めて前に視線を移す。
三人の前にはオルタとタシェルが一列になって歩いている。
図体のデカいオルタを先頭にして歩いている状況だ。目印として最適だとは思うが、目的地はどこに設定しているのだろう。
かといって、露店や道を闊歩する人々でごった返している中、立ち止まって話し合うわけにもいかない。
取り敢えずはズイズイと進んでいくオルタから離れないように、人ごみを掻き分けるしかないのだろう。
「皆着いて来てるかぁ?すぐそこにちょっとした広場があるからよ!そこで少し休憩しようぜ!」
横目でこちらを振り返りながらそう告げたオルタに、カリオスはどことなく安心を覚えた。少なくとも、目的地も無くふらついている訳では無いらしい。
響き渡る売り子の声や酒場から漏れる談笑、酔っ払い同士の喧騒。
あまりにも騒がしすぎる街の様子に気が滅入りそうになりつつも、何とか目的の広場へと辿り着いたカリオス達は、隅っこの日陰に座り込んだ。
「はぁ、なんか、どっと疲れがたまった気がする。」
膝を抱え込みながら座っているタシェルがポツリと呟く。
そんな彼女に対し、一人で活力をみなぎらせているオルタが笑いかける。
「俺はこの街の雰囲気好きだぜ?賑やかで良いじゃねぇか!あ、そうだ、さっき旨そうな串と飲み物が売ってたからよ、買って来るぜ。みんな欲しいだろ?」
そう告げたオルタは、リュックをその場に下ろすと、小さな財布だけ手にし、そのまま人ごみの中へと入って行った。
あれだけの人ごみの中でも、彼の図体のお陰ですぐにどこにいるのか分かるのが不幸中の幸いかもしれない。
「オルタさん、すごくはしゃいでますね。でも、私も少しだけ気持ち分かるかもです!ワクワクしてきませんか!?私、こんなに沢山の人を見たのは、王都以来かもです。」
そう告げたミノーラは、尾をブンブンと振りながら周囲を見渡している。時折鼻をピクピクとさせているのは、肉の香りでも嗅いでいるのだろうか。
「ミノーラ、お前王都に行ったことあると!?」
彼女の背中で、半ば興奮気味のクリスが、ミノーラに問いかけている。
「ありますよ?カリオスさんと一緒に。あ、でも、そんなに見て回ることは出来てないです。すぐに旅に出発したので。」
「良いなぁ。王都。俺も一回で良いけん、行ってみたいっちゃんね。ばってん、掟で村を出ちゃいかんって言われとったけん。」
「そうなんですか。だったら、クラリスちゃんを助けたら、皆で王都に行きましょう!」
そんな会話を聞いていると、オルタが戻って来た。手には大量の袋を抱えている。
『何をそんなに買ったんだよ……。』
カリオスの心の声が届くわけもなく、オルタは抱えていた袋を地面に置くと、中から何やら飲み物を取り出した。
「ほら、みんな飲んでみろよ。旨いぞ!」
やたらと高いテンションで飲み物を配るオルタの勢いに押され、タシェルやクリスが飲み物を手にする。
そんな様子を見たカリオスも、オルタからそれを受け取る。
何かの果物をくりぬいて作られているその入れ物の中には、薄い赤色の液体が注がれている。
一瞬飲むのを躊躇したカリオスは、タシェルの小さなつぶやきを耳にする。
「あ、美味しい。」
「だろ!?俺もそう思って、おばちゃんに感想を言ったらよ、なんか、サービスだって、大量に貰っちまった。」
「うめぇ!オルタの兄ちゃん!これうめぇな!なんて飲みもんだ?」
「わりぃ、忘れちまった。」
そんな会話を聞いたカリオスは、一口、飲んでみることにする。
果物の甘味と爽やかな酸味が、まろやかなミルクに馴染んでいる。今までに飲んだどの飲み物よりも甘い。
『まぁ、旨いな。旨いが、コーヒーの方が好きだ。』
「オルタさん、私はそっちのお肉が欲しいです!」
「おう!串を取るからよ、ちょっと待ってくれ。」
晴天の昼下がり。
カリオス達は広場の隅で、幾ばくかの休息を取ったのだった。
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