第2話 異変
集落を囲うのは
見るからに
職業は
クラミウム鉱石と呼ばれる鉱物の加工や
当然ながら、クラミウム鉱石が無いことには仕事ができない。
自身の腰にぶら下げた
鉱石も仕事も見当たらない上に、将来への不安も事欠かない。
そんな事を考えながらも、彼は職場へと足を向けている。
集落の中でも既に活動を始めているのは
現在時刻を正確に知ることはできないが、まだ日が昇っていないのだから、想像に
そうこうしていると、集落の入口へと辿り着いた。
本来ならば、鉱石の加工を行うために工房で作業を行うのだが、現在鉱石が不足しているため、作業が出来ないのだ。
まずは鉱石を手に入れる必要がある。
彼は、ポーチとは反対の腰にぶら下がっているピッケルに手を当て、自身を
「昼までには戻ろう。昼飯は持って来てないし……」
帰って、ベッドでもうひと眠りしたい。欲を言えば、温かいミルクを飲んで眠りにつきたい。
大きな
これから向かうのはこの辺りで一番大きな
しかし、その道は集落の北にある池を大きく
これは、この集落に住む人間ならば誰でも知っていることであり、カリオスもまた例外ではない。
しかし、まだ日が昇っていない早朝に森の中を一人で通ろうなどと考えるのは彼くらいであろう。
それほどまでに、彼は
「まぁ、この辺りで魔獣が出るって話は聞いたことないから、大丈夫大丈夫。もし出たら、昼飯として食ってやろうか」
独り言をつぶやきながら、彼は森へと足を踏み入れた。
草をかき分け、木立の間をズイズイと進んでゆく。およそ数分歩いたところで、森の中の小さな広場へと出た。
いつも通りの通り道。道しるべとして使っているこの広場に、普段とは違う光景が広がっている。
そこに、
もし、この男が山賊の類であれば、カリオスは命が無いかもしれない。それに、旅人だとしても、その男にとって森の中から現れたカリオスは、警戒するべき存在だ。
客観的に見れば、そのような状況。
しかし、彼はあまり深くまで考えることなく、焚火をしている男へと歩み始めていた。
「こんばんは」
なにか声をかけようと、カリオスが口を開こうとした時、焚火をしている男が先に声をかけてきた。
予想していなかった反応に、彼は少し驚きながらも返事する。
「こんばんは、旅人ですか?」
そう聞きながら、彼は焚火のそばへと歩み寄る。メラメラと燃え盛っている炎に手をかざすと、温もりが体へと染み渡る。
星空を見上げていた男は、深く息を吐きながらこちらへと目を向けた。
カリオスが想像する旅人とはかけ離れた様相の男。体格も
そんな青年が口を開く。
「はい、旅をしているものです。失礼ですが、この辺りに村があるのでしょうか?」
「あーっと、この辺りっていうと少し違うけど南東の方に、小さな集落が一つ。ただ、まぁ、何にもない集落だけど。そもそも宿がない」
客だとか、よそ者だとか、そういった状況を考慮することが出来ないほど、集落は貧乏なのだ。
自分たちが生きることで精一杯。
言外にそう伝えるカリオスの言葉に、旅人は何かを察したのか「そうですか」とつぶやいた。
寝泊まりする場所や
それ以降、お互いに会話を続ける気にはならないのか、沈黙が流れる。その時間がなぜか妙に心地よく感じたカリオスだったが、すぐさま目的を思い出し、青年に別れを告げる。
「それじゃ、俺はこれで」
それだけ言い残すと、彼は採石場へと足を向ける。
しかし、その青年が彼を呼び止めた。
「すみません!」
先程の会話からは予想もできないほど張りのある声。そんな声に振り返ると、青年は焚火の近くで立ち上がっていた。
「この辺りで、魔獣とか出たりしませんでしたか?」
そんなことを聞いて何がしたいのだろうか。カリオスがとっさに感じた疑問は、いたって普通の物だった。
「魔獣? あまり聞かないな。聞くとしても家畜を襲う狼くらいだな」
事実、思い当たる
「ありがとうございます。なにやら急がれているようですし、これ以上お引き止めするわけにもいきませんね」
そう言葉を
なにやら不思議な人だと心の中で呟きながら、カリオスはその場を後にする。
広場から歩いてどれほどだろうか、いまだに明かりの無い
暗く、
その様子はひどく不自然で、彼はその不自然さに安心する。
この採石場は遠い昔に放置されている。おそらく、鉱石を採りつくした上に、交通の便が悪いのが理由だろう。
こんな辺境で採った鉱石をわざわざ王都まで運ぶのは確かに効率が悪すぎる。馬の
そのような事を考えながら、彼は
正直、採掘のプロではないため効率のいい方法を知っているわけでは無い。彼はあくまでも鉱石の加工が本業なのだ。
「それじゃ、やりますかね」
ピッケルを手に、平らな
ウォーーーーーン
彼はピッケルを振り上げた状態のまま、声のした方に目を向ける。方角は先程歩いて来た広場の方。
さすがに腕がプルプルと震え始めたのでピッケルを地面に下ろし、改めて広場のある方角へと目を向ける。
「……まさかな」
彼の脳裏には先程の青年の姿が浮かんでいた。あの広場で狼に襲われたのだろうか。
そんな、ぼんやりとした予感を彼は否定できなかった。
カリオスにとって狼の遠吠えは
しかし、あの華奢な青年が狼に襲われているとしたら、それを助けることが出来るのは彼だけである。
今更になって、辺りの空気にひんやりとしたものを感じた彼は小さくつぶやく。
「ホットミルクが飲みたいな」
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