短編小説『此岸椿』

桑原縛逐

第1話

 辻で出会った花椿。

それはうつつのものか、はてさて、六道の辻あたりから飛んできた幻を見たものだろうか……。

 日もとっぷり暮れかかる逢魔時。子供の頃なら一陣の風に物の怪を感じ、ちょっと怖くなって街についた明かりを頼りに家路を急いだものだ。

 では、今はどうだろう……。

 今宵、京都の街を歩く私には、何か起きる予感が既に有った。



…もののけも通ふか小径秋の暮…


私は鉄道博物館を後にして、梅小路公園を通り七条大宮から烏丸七条まで寄り道しながら歩く事にしたのです。

 梅小路公園を出て大宮通の歩道を左に二百メートル歩いただろうか、人通りのない日の暮れかけた逢魔時の怪しさの中に、電燈色を煌々と放つ店の前に通りかかった。


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