降魔成道(ナイトメア・オブ・インベーダー)

「じゅ、重力子砲、全弾消失……」

 オペレータが、呆然としながら報告する。

「……消失? 消失だと? 何を言っている」

「い、いえ、しかし、消失としか……」

「あれはなんだ? つい先ほどまで、あそこにあんなものはなかった!」

 いつも冷静な上帝が、取り乱した様子で叫ぶ。視線の先には、宇宙の闇に咲き誇る大輪の花があった。

「その、花、ではないかと……」

「そんなものは見ればわかる! なんだ、あれは、なんなのだ!」

 宇宙空間では遠近感が狂い、物の大きさが判別しにくい。それでもはっきり、異常だとわかった。大きく広がる宇宙艦隊を覆うほどの天体サイズの花など、存在するはずがない。あまつさえ、重力子砲をことごとく無効化するなど。

「……重力子砲、一斉射! 一刻も早く、あれを破壊しろ!!」

「はっ! 重力子砲、一斉射!」

 再びの砲撃。紫紺の雨が降り注ぐ。

 だが結果は変わらない。重力子砲は花を傷つけるどころか、触れることすらできずに中空で霧散した。

「どうなっている……! 観測結果は!」

「はっ、それが、その……レーダーにもセンサーにも、何一つ反応がありません。……あそこには、何も無いはずなのです」

 しかし、確かに彼らの目には巨大な蓮の花が映っており、そして現実に重力子砲を無効化してみせた。

「地球人類は、我々の知らない、想像すらつかないような技術を保有しているというのか……?」

 困惑が広がる。上帝は、超天連の文明はこの宇宙で最も進んだものである、と自負している。しかし、目の前で起きている現象について、彼らの優れた知識と技術でもってしても、何一つわからなかった。

「……実体弾攻撃に切り替え! 超高密度質量弾、及び重力被膜魚雷、発射!」

「超高密度質量弾、及び重力被膜魚雷、発射!」

 居並ぶ超天連の艦隊から、無数の砲弾と魚雷が放たれた。

 超高密度質量弾とは、その名の通り極めて密度の高い金属で作られた砲弾である。この大質量の砲弾を、重力操作によって超高速で射出する。ただ質量をぶつけるだけの原始的な兵器ながら、極めて硬く重く速いこの砲弾は、迎撃も防御も非常に困難である。

 重力被膜魚雷とは、いわば波動貫通魚雷の上位互換のような兵器だ。重力シールドで覆われたこの魚雷はあらゆるエネルギーシールド、勿論重力シールド相手にも効果を発揮する、最高峰の対シールド兵器だ。


 迫る無数の砲弾と魚雷が蓮の花を貫くかと思われた瞬間、突如としてそれらが弾けるように無数の花へと変わった。色とりどりの花吹雪が、宇宙の闇を彩る。


「……報告せよ」

「超高密度質量弾、及び重力被膜魚雷、全弾消失、というか、その、花に変わりました……」

 オペレーターも上帝も、もはや言葉が出なかった。

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