涅槃決戦(ニルヴァーナ・クライシス)
出港した人類軍の艦艇が、続々と配置についていく。要塞を中心に、無数の艦が巨大な陣を展開した。人類の繁栄と文明の極みを感じさせる、壮観な眺め。しかしそれは、悲愴な覚悟を背負った決死の姿でもあった。
「さて、やつらはどう出るか……」
総司令官デイブの乗る旗艦アナンタのブリッジにも、緊張感が漂っていた。
「ここで一番偉いのはお主か? 若いの」
そんな修羅場に、似つかわしくない声が響く。
「な、なんだこのガキ!? 一体どこから入ってきた!」
そこにいたのは、半裸の少女。ここは軍艦のブリッジ、しかも、周囲にある施設はクシナガラ要塞くらいのもので、民間人が近づくこと自体できないはず。ただの子供が入りこめるはずがない。
「おい! こいつをブリッジからつまみ出せ!」
「お嬢さん、これからこの艦は戦闘に入るのです。今更帰港して降ろすわけにもいきませんし……ひとまず船室にご案内します」
不機嫌そうに怒鳴り散らすデイブの命令を受け、副官が少女に歩み寄る。
「にしても、本当にいつの間に入りこんだんでしょうか」
「まあまあ落ち着け。怒りや焦りは己が目を曇らせるもの。それに私にも用があるのだ」
捕らえようとする副官の手をひらりひらりと軽やかに避けながら、彼女が言う。
「用だと? 今は子供の遊びに付き合っている暇は……」
「レーダーに感! 敵艦隊、来ます!」
「来たか! 総員、戦闘配置!」
要塞の防衛艦隊正面に、超天連の大艦隊が続々とワープアウトしてくる。その数は、優に人類側の倍はいるだろう。
「正面から堂々と来るとは……! 舐められたものだ!」
「うーむ、なんとも……面妖というか、いかがわしい姿の集団だのう」
「まだいたのか! ここは子供の遊び場ではないと言っているだろうが!」
「お主こそ、私の話を聞いていなかったのか? まず心を落ち着け、そして話を……」
「閣下! そんなことより指揮を!」
「わかっている! 工作艦隊、アステロイドミサイル一斉射出!」
巨大な岩石……小惑星を牽引していた工作艦隊が、一斉にこれを敵艦隊目がけて解き放つ。アステロイドミサイルとは、小惑星をそのままぶつけるだけの原始的な兵器だ。しかし、備えつけられた光子エンジンにより一瞬で超加速する巨大な質量爆弾は、超天連の重力シールドといえども易々とは防ぐことはできない。
「前衛の水雷戦隊は、敵艦隊の陣形が崩れたところに、波動貫通魚雷を叩きこめ! 主力艦隊は艦砲射撃で前衛を援護せよ!」
戦闘用艦艇にエネルギーシールドが標準的に装備されるようになった結果、砲撃によって決定打を与えることは難しくなった。同盟軍に採用されている次元位相波動砲で同技術のシールドを破るには、相手のシールドの出力を超えた攻撃で貫くしかなく、これはとても効率的とは言えなかったのだ。そこで開発されたのが波動貫通魚雷である。これは弾体を次元位相波動シールドで覆った魚雷で、敵艦のシールドをシールドによって中和する仕組みだ。当然、魚雷に積めるサイズのシールド発生器では完全に中和するほどの出力が得られないため、弾体が圧壊する前に補助エンジンに点火、二段階目の急加速を行い敵シールドを強引に貫通、着弾させるというものだ。対シールドに関しては極めて有効な兵器だが、いかんせんコストが高く、この最終決戦にまで温存されていた。
迫るアステロイドミサイルを前に、敵艦隊は散開するどころか、密集陣形を取った。
「何を……?」
考えている、とデイブが続けようとした瞬間。高速で突き進むアステロイド群が敵艦隊の目前で減速、中空で動きを止めた。
「……! 各艦! 回避運動!! 急げ!!」
副官が叫ぶ。停止したと思われたアステロイドが突如反転、人類軍目がけて飛来した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます