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「お前は俺の娘を食った。そうだな?」

 目から溢れる涙を拭おうともせず、怒りに震える声で男は言った。三十歳前後だろうか、痛ましいほどに憔悴しきっていた。

「ああ、そうだよ。確かに俺はお前の娘を食った。それがどうかしたか」

 スチールのテーブルを挟んで真向かいに座っているもう一人の、こちらは二十代前半に見える若い男が面倒くさそうに答えた。

「どうして、どうしてそんな酷いことをしたんだ……」

 それは質問というよりは非難の言葉だったが、相手は平然とした口調で、

「どうして? 美味そうだったからに決まってるだろうが。ぎゃはははは」

「貴様!」咆哮した。「殺してやる!」

 座っていたパイプ椅子を背後に蹴飛ばして立ち上がった父親は、若い男の胸ぐらを掴んでテーブル越しに引き寄せると、渾身の力を込めて頭突きをした。

 若い男は声も上げず後ろに倒れ、床にくずおれた。

 

 取調室の外の通路で手持ちぶさたに立っていた刑事は、やはり二人きりにすべきではなかったかなと後悔の念に囚われ始めていた。

 幼い娘を変質者に殺され、その遺体を食べられるという、あまりにも悲惨な出来事に同情して、つい犯人と二人きりで話をしたいという父親の無茶な願いを聞き入れてしまった。発覚したら始末書では済まないかも知れない。

 突然、ガシャンという大きな金属音が部屋の中から聞こえてきた。

「しまった!」刑事は慌てて取調室のドアを開いた。

「ああ、なんてことだ」

 室内を一目見て事態を悟った刑事は小さく呻いた。

 頭を血塗れにして床に倒れている容疑者の若い男。それを冷ややかに見下ろしていた父親は、刑事の方に顔を向けると、ニヤッと笑って言った。

「刑事さん、私にカツ丼の出前を取ってくれませんか」

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